リサの能力(2)
リサがしっかりと能力を使いこなし始めている事に喜び、思わず抱きしめて喜ぶクロイツだが、リサは突然の状況に一瞬たじろく……が、ここはやはり師匠大好きっ娘。
このチャンスを逃さんとばかりに抱き返して、嬉しそうにしていた。
「師匠、そろそろ視認できそうなくらいに近づいていますが、どうしましょうか?」
「そうだな。今回は気配遮断の熟練度を上げつつ、体術を得るために動くのが最善だろうな。使って良い武器はコレだ」
そう言って短剣を渡すクロイツ。
一応宝物庫に保管してあった、非情に鋭利であるのだが壊れづらく更に軽いと言う優れものだ。
クロイツの言葉は絶対であるリサは、これから危機的状況に陥る可能性がある程の魔獣を相手にするにも拘らず、ニコニコと笑顔でクロイツから短剣を受け取る。
「じゃあ師匠、行ってきます」
クロイツの返事を聞かないうちに、さっさと身体強化に物を言わせてこの場から消えて行く。
もちろんクロイツも気配遮断を使用して、リサにはバレないようにそっと後をつけているのはお約束だ。
程なくして魔獣の視界にもリサが入ったようで、遠方にも拘らず突然炎の魔術を放ってきた。
一気に二人の間の直線状の森が消失するがキッチリとリサは攻撃を避けており、この時点で、クロイツの育成と言うぶっ壊れ能力によって体術が芽生え始めていた。
強力な魔法発動直後の若干の硬化時間を狙って一気に肉薄して足元を切りつけるリサは、その直後から気配遮断を使って存在を隠蔽する。
このスキルだけはクロイツの助けなしで自らの経験によって手に入れていた物であり、他のスキルよりも発動時間が早かった。
悲しいかな、体にその動きが染みついていたのだ。
当然熟練度もクロイツのサポートもあって急激に上昇しており、足元を切りつけられた直後に魔獣はリサを見失う。
その間も、リサは移動して手の届く範囲である足元に短剣で攻撃を仕掛ける。
魔獣は、リサの姿は見えないながらも攻撃を受けた周辺にあてずっぽうの攻撃を行うが、一向に手応えがないまま、傷を負っていく。
やがて足の腱を切られて立っている事が出来ずに、巨体が横倒しになる。
こうなると最早勝負は見え、程なくしてリサは魔獣を仕留める事に成功した。
「やったじゃねーかリサ!体術もしっかりと獲得できたな!」
喜びから、思わず気配遮断を解除して嬉しそうにリサに声をかけるクロイツ。
「師匠!私、できました!」
リサも、チャンスとばかりに即座にクロイツに抱き着く。
「俺は分からねーが、Bランクと言われていたグレートオーガと似たような強さだと思うから、こいつもBランク相当じゃねーか?それを指定の武器で難なく倒せるとは、流石はリサだ!それに、意図していなかった環境適応も得た様だな。夜にこれだけの戦闘を行えたのが良い経験になったみてーだ」
「ありがとうございます。これも師匠のおかげです!!」
抱き着きながらも喜びを隠さないリサ。
本来はこんなに簡単にスキルを得る事が出来ない事位は、流石のリサも理解している。
これ程楽にスキルを手に入れられるのはクロイツの力のおかげであるのだが、それを踏まえても師匠であるクロイツが手放しで褒めてくれるので、今迄褒められた経験がないリサは嬉しくて仕方がないのだ。
もう、“師匠大好き病”は終末期に突入して維持されていると言っても過言ではない。
「そんじゃ、こいつは美味そうだから取り敢えず収納しておくぜ?」
「お願いします、師匠!」
巨大な恐竜の様な見た目の魔獣を収納するクロイツ。
彼の見立ての通りにこの魔獣はグレートオーガと同じくBランク帯に分類されている魔獣であり、巨体のわりに攻撃は魔法に多くを依存しているグロナスと言う魔獣だ。
その後は野営の場所に普通の速度で歩きながら戻る二人。
「もうすっかりスキルも使いこなせるようになってきたな。新たに得たスキルも有るが、出来るだけ使い続ける様に気を付けると良いぜ。残念だがリサは基本的に魔法には適していねーから、体術、身体強化、この辺りの熟練度を上げる事で魔法すら切断できるようになるからな。っと、切断するなら剣術も必要か?」
今回の短い戦闘では、流石に短剣を時折使用しただけなので剣術までは取得できていなかったリサ。
魔法の適性があるかどうかは本人の資質、体内の魔力量に依存するのだが、残念ながらリサは魔力が余りない事を既にクロイツは鑑定で把握している
魔法以外のスキルであれば発動に魔力を必要としないかわりに精神力を使用する事になるのだが、魔力と同じく、精神力が続く限りはいつでもどこでも能力を発動する事が出来るのだ。
そんな事情があるので、無駄な努力をするよりも伸ばせるほうを伸ばす方が良いに決まっていると判断しているクロイツは、魔法は諦める方向をサラッと告げている。
一応ショックを受けるとまずいとは思っているのだが、これ以上配慮が出来なかったクロイツは恐る恐るリサの反応を伺うが、リサは一切気にする様子は見せなかった。




