依頼達成(2)
クロイツはリサの考えなどお見通しで、そうなる前に二体の魔獣を始末するべく一気に仕留めにかかる。
方法は単純だ。
クロイツの異能は多岐にわたるが、特に収納魔法は特殊だ。
ある程度の距離に入った物は何でも収納できる。
大きさが大きい程近接する必要があるが、流石のグレートオーガも打撃が届く距離まで近接すれば問題なく収納する事が出来る。
生物であろうが、無生物であろうが関係ないのだ。
「それじゃ、あばよ!」
そう言うと、クロイツは収納魔法を二体のキングオーガに向かって発動する。
発動先の部位は、村長が依頼達成の確認のために必要と言っていた頭部だけ。
……ズズン……
突然首なしの魔獣となってしまったグレートオーガ二体は、血しぶきをまき散らしながら倒れ伏す。
「う~ん。この本体?こいつも金になるのか?冒険者の仕組みを勉強するために取り敢えず……っと」
倒れた二体の首なしグレートオーガ二体も収納すると、さっさとリサの元に戻るクロイツ。
この時のクロイツは、余りにも知識がなさ過ぎた。
このグレートオーガはBランクの魔獣に分類されており、対応できる冒険者のランクも同じくB以上となるのが普通だ。
仮にBランクの冒険者一人が二体のグレートオーガを相手にした場合、あっけなく死亡するだろうと言う程の強敵。
そもそもBランクの冒険者と言う存在自体が相当熟練の冒険者か特別な能力を持った者しか届かない領域なのだが、クロイツがその事実を知るのはギルドに戻ってからになるのだが、そんな事はわからないので普通にリサと話を進める。
「終わったぞ。な?大丈夫だっただろ?」
クロイツよりは魔獣に対して知識があるリサは、クロイツが無事だった嬉しさとあり得ない強さによる驚き……と、不思議な感情のまま只々コクコクと頷いていた。
そんなリサを優しい目で見つめながら、頭を撫でてやるクロイツ。
「え?ご主人様。私、汚れているから……」
「何言っているんだ?俺の事を心配してくれていた可愛い妹に感謝の意を示すのは当然だろ?」
実の妹にこのような事をしては、恐らく手を切り落とされるだろうと思いつつ撫でるクロイツ。
少し戸惑っていたリサも漸くクロイツの暖かさに触れて安堵したのか、目を細めて気持ちよさそうにしている。
本当に可愛い奴だな……と思っているクロイツだが、流石のクロイツもリサ程幼い子供に対しては“彼女欲しい病”が反応する事は無かった。
「ところでリサは何歳だ?俺はピチピチの14歳だ!」
「一応10歳の様です、ご主人様」
「そっか。で、そのご主人様って、何とかならねー……ならないか?」
「ダメですか?」
『クッ、これが必殺美少女上目使いか!あの雑魚二体よりもよっぽど手ごわいじゃねーか!!』
リサの懇願するような視線を受け、思わず心中で訳の分からない事を叫んでしまうクロイツ。
「……いや、ダメと言うよりも俺はリサの事を妹と思っていると同時に、独り立ちできるまで育ててやる師匠でもある。まっ、リサが良ければだが……」
「はい!嬉しいです」
クロイツの言葉を受け、最低でも自立できるまでは共に生活できるとリサは喜ぶ。
「お!おぉ、そう言ってくれると俺も嬉しい。で、そんなわけだから、ご主人様ってのはちょっと……わかってくれるか?」
「はい。では、師匠で宜しいですか?」
リサはリサで、心の中で『本当はお兄ちゃんが良いけど、贅沢よね』と思いつつも、クロイツの事を師匠と呼びたいと告げる。
クロイツとしては自称10歳でここまで丁寧な対応が出来るリサをみて感心するよりも先にこうせざるを得ない環境にあった事、そしてそのように厳しく躾けられたであろう事を感じ取って悲しくなったが、せっかくの新しい環境へのスタートなので敢えてそこには触れない事にした。
「師匠ってガラじゃないけど、まっ、ご主人様よりは遥かに良いな。これから宜しく頼むぞ、リサ」
「はいっ、師匠!」
「良し。じゃあまず初めに一つ約束してほしい。もう既に見せたが、俺は収納魔法を使えるが俺の祖国では使える奴を見た事がないし、とある冒険者もそう言っていた。つまり非常に希少な魔法だ。そんな魔法を俺が使えると知れ渡れば、良くない連中に目を付けられる可能性が高い。ここまでは良いか?」




