依頼達成(1)
村からの依頼であるグレートオーガ二体の気配を感じ取り、丁度食事も終わった事だし食後の運動ついでに始末してこようかと動き始めたクロイツを止めたのはリサだ。
遠慮がちにクロイツの服の袖を掴み、何かを言いたそうにしている。
急いでいたのは依頼を達成してギルドの受付を食事に誘おうと思っていただけなので、必ずしも慌てている訳ではない為にクロイツはゆっくりと振り向いて再びしゃがみむと視線を合わせて微笑む。
「ん?どうした?ここでゆっくり待っていてくれよ。そう時間はかからないからな」
「……ご主人様に何かあったらもう私は生きていけません。一人で村に戻っても、より対応が悪くなる事は間違いありません……ですから、せめてご主人様のお力にならせてください!お願いします!!」
確かに村長を始めとした村民達のあの態度からはリサが今後村で一人生活する事は不可能だろうと感じていたクロイツは、優しく告げる。
「大丈夫だ。俺はリサを見捨てない。キッチリと独り立ちできるまでは面倒見てやるさ。だから、ここでゆっくりと待っていろ」
宥める様に伝えてもリサは袖を放そうとせず、只々首を横に振るだけだ。
恐らく優しく接してくれた自分と離れる事に不安があるのだろうと思い、仕方がないと思うクロイツ。
どうせ自立するには今後冒険者として活動する必要があるので、少しだけ早い経験だと頭を切り替える。
「良し分かった。一緒に行こう。だけど一切手は出さない事と、俺が指示した場所から動かない事。守れるか?」
「はい!ありがとうございます!!」
少しだけ笑顔を見せるリサを見て、父親が娘を見る……にしてはおそらく年が近いので、可愛い妹はこんな感じなのかな?と思うクロイツ。
同時に本当に血の繋がった妹は自分の命すら平気で奪いに来ていたけど……と、思わず失笑してしまった。
そんな中で、対象の魔獣二体に向かうクロイツとリサ。
歩いている最中もリサはクロイツの服の袖を放そうとはしなかったが、不安になっている気持ちが少しでも和らげればと思い戦闘前までは好きにさせる事にした。
グレートオーガ二体の縄張りに入ったのか周囲には魔獣や獣の気配は一切感じる事はなく、無駄な作業をする必要が無くて助かるな……などと呑気な事を思いつつ、遠目に人の身長とは比べ物にならない程の背丈の魔獣二体、グレートオーガ二体を視認する。
「リサ。見えるか?あの二体が今回の討伐対象だ。確かに村長が言った通りに二体共顔に大きな切り傷がある。これ以上近づくと恐らく奴らに気が付かれるだろうから、リサはここで待っていてくれ。約束、守れるよな?」
「……私の命を使ってご主人様を守らせて頂けないのですか?」
どこまでも自分を犠牲にしようとしているリサに、天を仰ぐクロイツ。
あまりにも不憫で、こうする事で涙が流れるのを誤魔化していた。
「ふ~。良いか?さっきも言ったけど、あんな二体程度に手こずる俺じゃない。そこは信頼してほしい。それともう一つ俺はリサに約束する。必ず自立できるまではしっかりと面倒を見てやる。だから安心して待っていてくれ」
クロイツを信じろと本人から言われてはこれ以上何も言えないリサは、不安な表情を隠せないままではあるがそっと袖から手を放す。
「良い子だ。一分程度待っていてくれよ!」
リサの決心が揺るがない時間、そして不安にさせない程の短時間で始末する事を決めたクロイツは一言告げた直後、一気にグレートオーガ二体に接近する。
この世界の大人の二倍はありそうな巨体で、Bランクと言う高ランクに分類されている魔獣。
自分達に近づいているクロイツの気配を即感知し、迎撃態勢をとっている。
「グオ~~~~~!!!」
「うるせぇ!!」
一体が威嚇の大声を出して大きな樹で作った棍棒の様な者を振り回す。
もう一体は近くの石、人族にとっては岩だが、その石をクロイツ目掛けて投げつける。
普通の人であればグレートオーガの威嚇の声で体がすくんでその時点で岩の餌食になるのだが、クロイツはそのような事はなく只々うるさく感じているので思わず文句を言う程度だ。
当然岩も難なく避けているが、クロイツが避けた後には投げられた岩が激突した際にできる決して小さくはない凹みが出来て爆音が響いている。
グレートオーガとしては今迄どのような敵が来てもこのコンボで瞬殺できていたのだが、一切攻撃が当たらず動きにも変化がない人族に恐怖を覚えていた。
本能的に棒と石を投げ捨てると、直接その体を使ってクロイツを攻撃する事にしたようだ。
その拳の速度は投石や棒を振り回すよりもはるかに速い上、軌道も変化させる事が出来る。
逆に言うと、それほど近接を許してしまっていると言う事だ。
そんな二体からの攻撃をクロイツが受けているように見えるリサ。
遠くから見ているので木々が邪魔をして詳細が分からないが、このままグレートオーガが攻撃をし続けているのであればクロイツとの約束ではあったのだがこの場から戦闘場所に向かって自分の命を捨てて隙を作り、クロイツを助けようと決意していた。




