第一王子クロイツ(1)
……ガシャーン…ドスドス……
は~毎日凝りもせず、色々な手を使って良くやるな。
四階の窓際に設置されている豪華なベッドの中で布団を被っている俺に対し、窓の外から短剣が投じられて、俺の体の上半身に相当する位置の布団に満遍なく突き刺さる。
その切っ先を一応鑑定してみると、触れるだけで皮膚から吸収されて死に至る猛毒が塗布されているので、手段を選ばなくなってきたようだな。
暗殺が失敗しているからだろうが、日を追うごとに俺をあからさまに狙い始めている。
「よっこらしょっと。ったく、ふざけやがって。こんな程度で俺が死ぬわけねーだろ!」
と、まずいな。
周囲に人の気配はねーが、一応王子としての体裁があるから、キッチリと猫を被っとかねーと。
だがあいつら……襲撃者が屋上から俺のいる四階に到達できるように使った紐を必死で回収し、襲撃者は王城の中に走って入り、鎧を着ている。
はっ、どいつもこいつもイカレていやがる。
そんな連中がもうすぐここにやって来るから、取り敢えずトイレにでも逃げておくか。
その前に……この短剣を受け止めるために出した少し大きめの岩を片付けねーとな。
あっちの森の地中で良いな。
取り敢えず俺は収納魔法で取り出して短剣を受け止めていた岩を、転移魔法を使って遠くの森の地中に送り込む。
こうしておけば、岩についてしまっている毒を誰かが間違って触る事はないだろうからな。
「ふぃ~、襲撃直後が一番落ち着くって、どうなんだ?」
一応王族の俺は私室にトイレがついているので、そこに腰を下ろしながら身体強化で聴力を強化する。
「国王様、王妃様、どうやらクロイツ様のお部屋に族の襲撃がありました!|外部から短剣での襲撃です」
「なんだ、またか?警備はどうなっておる?」
「そんな事より、ドレアとリーナは無事なの?」
おいおい、そもそも王城の中で襲撃されているんだからもっと真剣に考えてもらいたいんだがな、親父。
それとおふくろ!襲撃されたのはこの俺、クロイツだ。なんで俺の心配をしねーで、双子の弟妹の名前がとっさに出て来るんだよ!
最後に報告をしている騎士!テメーラ誰一人として俺の部屋に来てねーだろ。
なんで襲撃が短剣だってわかっているんだよ?異能持ちか?
だが、この二人の両親の反応は想定通りだ。
親父やお袋も、俺を襲撃した犯人を知っているからな。
直接的な犯人は王族を守護している騎士隊の隊長、そして指示をしたのがお袋から名前が出ていた俺の弟妹だってんだから質が悪い。
その事実を知らないかのように振舞う茶番が毎日行われている訳だ。
……ドンドン…ガチャ……
「クロイツ様!ご無事ですか!!」
取ってつけたように、第一王子である俺を守護する立場である第一騎士隊の隊長であるベータと呼ばれる男が部屋に突入してくる。
急いで鎧を着た後だから息が上がっているのは仕方がねーのか?
ご苦労なこった。
屋上から紐を伝って四階に来て短刀を投げ込み、すかさず地上に降りた後は慌てて鎧を着てここまで来る。
ハッ、流石は第一騎士隊長だな。
本来の仕事の守護とは真逆の事しかしてねーけど。
……バサ……
つかつかと俺のいるはずのベッドの布団を豪快にまくり上げている第一騎士隊長の気配を、トイレからしっかりと感知している俺。
「どうだ、ベータ!」
続いて俺の部屋に入ってきているのは、第二王子である弟のドレアを守護する第二隊隊長のガンマ、その後に続くのは、第一王女である妹のリーナを守護する第三隊隊長のデルタだ。
因みに両親を守護している隊は別格の扱いで隊の名前はないが、長はアルファと呼ばれている。
王族を守護する四人の隊長は、本名ではなくこのような名前で呼ばれるのがしきたりとなっているみたいだ。
「いない!」
「「なに??」」
おいおい、そこは、本来は喜ぶとこだろ?何を驚いちゃってんだ?
まっ、これ以上騒ぎになると面倒だし、王城の他の面々もこの場に来ているから、公に攻撃してくる事はねーだろうから姿を現すか。
だが、こんなに近くにいるのに気配察知で感知できないなんぞ、お里が知れるな。
ふ~、猫を被って・・・よし!
……ガチャ……
「あれ、ベータに……皆が揃ってどうしたんだ?何かあったのか?」
「クロイツ……様。チッ……いいえ、どうやら襲撃があったようなので、慌てて馳せ参じた次第です」
この野郎、舌打ちなんざしやがって。
他の連中……特にドレアとリーナの表情もスゲーぞ。
少しは隠せや!!
と、こんな感じが俺の日常だ。
俺は自分の能力についての正しい情報を集めている最中なので、今のところは実力を隠しているし、見た目が黒目黒髪で地味だから総合的に見てこれだけ舐められるんだろうな。
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