08 騎獣召喚
それからしばらく、草原を歩き回りながらたまに襲ってくるプレーリーチキンを相手にしていた。
それにしても、森へと歩いて行くに連れてプレーリーチキンの数が多くなっていく。そのため、なかなか森へはたどり着けない。
「ケケッー!!」
「……これで57羽目だな。」
「コケッ!?」
突つこうとして飛び上がってくるプレーリーチキンの首を掴み、腕に力を入れる。しばらくすれば首の骨が折れる音がする。ぐったりしたプレーリーチキンを捨てると、また森へ歩を進める。
アイテム化はしない。プレーリーチキンの肉や羽毛は沢山集まっている。
そのため私の歩いた後には、点々とプレーリーチキンの死体が転がっていた。死体は時間差で消えるのかと思っていたが、そうではないようだ。
「しかし、歩くのも疲れたな。プレイヤーも全然見なくなったし。森も全然近くならない。」
もう、プレーリーチキン虐殺道中は飽きたのだ。早く新しいエリアに行ってみたい。しかし、いくら歩いても森へは近づくことすらできない。
「……一旦引き返すか?」
そう思って振り返ると、何かが近づいていた。
「ん? なんだろうか。」
目をよく凝らして見ると、それは1つの隊のようであった。馬のような獣に乗っているようで、土煙をあげながら此方の方向に走っていた。
「これは街の自警団か、領主サマの兵士かな。森で何かあったのだろうか?」
そう考えながらも、邪魔になってはいけないので草むらに捌けて道を譲った。しかし、その隊は徐々にスピードを緩め、私の目の前で止まってしまった。
「失礼、我々は怪しい者ではない。ファスナの領主であられるサリバン様に使える兵士だ。」
馬上にいた兵士はそう言った。ちなみにファスナとはプレイヤー達が始めに降り立つあの街の名前である。
「領主様の兵士がなぜこんな所に?」
「あなたに領主の娘であられるリリアナ様がお会いになりたいと……。」
訳が分からない。なぜいきなりそんなに話が飛躍している? 私は領主の娘どころか、あの街で会ったのはアリッサぐらいだぞ。
「あー、リリアナ様は【千里眼】のスキル持ちなのだ。それでいつも、街を観察して遊んでいるところ、あなたを見かけたそうだ。本当に申し訳ないがなんとか頼まれてはくれないだろうか?」
なんと、領主の娘様は覗き趣味があったようだ。親は一体どんな教育をしているのやら……。
しかし、無下に断れば不敬等と言われてしまう可能性がある。結局、最初から選択肢は無いのだ
「……分かりました。」
「おお! それは良かった。それではさっそく行こう。そういえば、騎獣はお持ちかな?」
「騎獣?」
「我々が乗っているような騎乗スキルがあれば乗れるモンスター達の総称さ。ちなみに騎獣がいなければあの森には一生かかってもいけないよ。領主様が安全のために結界を張ってるからね。」
なるほど、だから私は森へ行けなかった訳だ。その後、話を詳しく聞くと、騎獣とは街の何ヵ所かにある《獣の社》という店で購入もしくはレンタルが可能らしい。街に入る時は、ペンダントや指輪や腕輪といったアクセサリー化して持ち運ぶことができるらしい。
街によって扱う騎獣も違うらしいので、後々それをコンプリートするのもいいかもしれない。
「ファスナだとグレーターチキンが人気だね。プレーリーチキンの上位種だけど、足が速いし岩山なんかも登れたりするから初心者にはオススメだよ。何より他の騎獣よりも安いからね。」
「そう、ありがとうございます。」
グレーターチキンは安いのか。なんとも世知辛い扱いを受けているモンスターだな。
「……っと、話はこれくらいにして、行こうか。見た所、騎獣を持っていないみたいだし、乗せていくよ。」
「あっ、ちょっと待って下さい。」
騎獣で思い出したが、たしか貰った本の中に騎獣を呼び出すヤツがあった筈だ。それを使って今から呼び出してみよう。
ストレージから目的の本を探して見ると、やっぱり持ってた。
【■■騎獣召喚術】という題名か。
■■と表記されていたその部分だけが、虫食いにあったのか読めなくなっていた。
まあ、どんな騎獣が出るかは読んでみれば分かることだ。
本をストレージから取り出し、ページをめぐる。
うん、これは簡単そうだ。ちょっと虫食いが酷い部分があるけど、大丈夫だろ。
「おや? 急に本を取り出して、どうしたんだ?」
「ちょっと騎獣召喚の本を持っていたことを思い出しましてね。」
「ほう!? 召喚本を見るのは始めてです。良かったら見ていっても?」
「もちろん構いませんよ。騎獣となるモンスターは気になるでしょうし。」
答えながら召喚に必要な項目を見る。
ただこの魔法陣の書いてあるページを開いて呪文を唱えれば良いらしい。
ふむ、呼び出したいモンスターのイメージを固定するために、供物を捧げることも出来るのか。ただし、呼び掛けに答えるかはそのモンスター次第ってことか。
本を地面において、書いてあった通りに呪文を唱える。
「『我、暗黒より出でる者を求む也。闇の世界に住まう者よ、我が呼びかけに答え、現れたまえ。』」
───メギギギ……ゴゴゴゴゴゴ。
その呪文により、体から力が抜ける感覚があった。それと同時に、魔法陣が紫色に輝き始め、地鳴りが鳴り響き始める。兵士達のどよめきを尻目に、現れたウィンドウに注目する。
《条件を満たした為、エクストラダンジョン《ラスト・オブ・タワー》からモンスターが呼びかけに答えようとしています。成功率を上げるため、捧げ物を選んで下さい。》
お、どうやら召喚には応じるようだ。
捧げ物を選べとあるが、とりあえず今まで溜め込んだプレーリーチキンの肉を全部選んだ。
《捧げ物が足りません》
まだ足りないのか、今度は羽毛も入れてみよう。
《捧げ物が足りません》
まだ足りないの!? ならば、突撃ゴキブリの素材も突っ込もう!
《捧げ物が足りません》
マジ!? …………こうなったらあれしかないのか。
《十分な捧げ物を確認。召喚を開始します。》
「ハァ、ハァ、やった! やったぞ!」
やっと捧げ物が足りた! 貰った本は【細工のススメ】シリーズ以外ほとんど全部つぎ込んで、まだ足りなかったから【初心者の剣】も選んでやっと捧げ物が足りたのだ。
最初、片腕切り落として捧げようとして兵士達に止められたが、なんとかなったな。
────ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
お、とうとう出てくるぞ。私の初めての騎獣!!
長い振動の後、一際強い紫光が目を眩ませた。
そして、目が慣れて来ると、目の前にソレはいた。
夜闇に溶け込みそうな漆黒の肉体。
その巨体な脚力からは歩くだけでも威圧感を与える体つき。
此方を見つめる赤い双眼は爛々と輝き、荒々しく鼻息を吐く。
夜闇に溶け込みそうな色の毛並み。
銀の鬣が風に靡き、その生き物の偉大さを強調していた。
ソレは巨大な馬のようなモンスターであった。
そのモンスターは魔法陣の中から私の前に歩いてくると、こちらに膝を折って、うつ伏せのようなポーズをとった。
「『よく、そなたは我をあの退屈な場所から呼びだしてくれた。我はそなたに仕えよう。』」
しゃ、シャベッタァアアア!?
《悪魔騎獣召喚に成功しました》
《プレイヤーで初めての悪魔召喚を成功させたので称号【悪魔を従えし者】が与えられます》
騎獣
騎獣は街と街を移動するのに便利なモンスターのことです。ほとんどの街にある《獣の社》という店を見つけて、購入しましょう。
ファスナの街にある結界は騎獣に乗っていないと、半人前として見なされ、草原の奥には行けなくなってしまいます。
ん? 騎乗スキルがない? ご安心を! 《獣の社》では騎獣用の様々なアクセサリーや、サドル、手綱を用意しています。当然、騎乗スキルも取り扱っておりますよ!
さあ、君も自分だけの騎獣を求め、旅に出よう!!
──『新世界オンライン~特別週刊誌《ハンターに生きる》より抜粋』