07 始まりの草原
「本当にいいのか?」
「ああ。あんだけ整理してくれた上に床の修理までしてくれたからね。お礼だよ。」
掃除が終わり、個人的に満足したので立ち去ろうとしたところ、彼女が入りきらなかった本やボロボロになった本は譲ると言ってきたのだ。
当然最初は断ったが、どうしてもと引かなかったので引き取ることになったのである。
「本当にありがとう。いつかまた情報を買いに来る。」
「ああ。楽しみにしているよ。困った時は《情報屋アリッサ》をご贔屓にね。」
「……その時はゴミ屋敷になってないことを期待している。アリッサ。」
「ッ! う、うっさい! 情報と報酬貰ったならさっさと出てけ! この悪口スチュワート!! 」
情報屋の女主人アリッサが煙草を灰皿に荒々しく押し付けながら叫ぶ。
「じゃ、またな。」
店を出て、ぶらぶらと街を歩く。
さて、まずは落ち着ける場所でステータスを確認したい。新しいスキルも手に入れたし、レベルも上がったからな。
街の中心にある噴水広場のベンチに腰をおろし、スキルの確認をする。
◆◆◆
《ステータス》
名前: スチュワート
種族:人間
職業:執事
Lv.7
HP 170
MP 340
STR 17(+15)
DEX 17(+10)
VIT 17
AGI 17
INT 25
LUK 17
SP 7
《職業スキル》
・【執事の嗜みLv.2】
・【調理術・菓子Lv.1】
《スキル》
・【体力自動回復Lv.3】
・【タフネスLv.2】
・【剣術Lv.2】
・【細工Lv.3】
・【馬術Lv.1】
・【ジャイアントキリングLv1】
・【魔法耐性Lv.1】
・【魔導のススメLv.1】
・【読解Lv.1】
《称号》
・【無慈悲なる者】
・【掃除人】
◆◆◆
レベルが1から7まで上がっているな。SPも7に増えている。
どうやら1レベルごとにSPは1ずつ貰えるようだな。
それに、基本ステータスも伸びているようだ。INTが高いのはスキルのせいか?
まあ調べればわかることだ。そう思って、新しいスキルの確認をする。
まずは、【ジャイアントキリング】。こいつは分かりやすいスキルで、自分よりも強い相手と戦う時にステータスを上げるスキルだ。まだスキルレベルが低いが、この先モンスターと戦う時には活躍してくれるだろう。
【魔法耐性】は魔法からのダメージを減らす常時発動スキルだ。レベルが上がれば、魔法を無効化できるようになるかもな。
【魔導のススメ】は特別報酬スキルだけあって凄かった。
なんとこのスキルは魔法の習得に必要なSPが半分になる上に、魔法書や魔法関係のアイテムの効果を上昇させるという。さらに、スキルレベルが上がれば魔法の発動時間の短縮や威力の上昇も追加されるらしい。
デメリットとして、このスキルはSP消費のみでしかレベルが上がらず、1レベル上げるだけでもSPを5消費する。考えさせられるスキルだ。
称号である【掃除人】と【無慈悲なる者】は掃除の効率が上がるとか、クリティカル率が微上昇するといった効果であった。後から分かったのだが、称号は強い効果を持つものはほとんどなく、そのプレイヤーの箔のようなものらしい。
とりあえず、SP5を消費して【魔導のススメ】のレベルを上げておく。
よし、ひとまずこれでステータス管理はいいだろう。
ベンチから立ち上がり、当てもなく街の中を歩きまわる。
しばらくして、街の外に向かうための大きな門が姿を表した。どうやら街の端にまで来てしまったようだ。
そういえば、アリッサが街の外には平原、そして森があり、その先に次の街があると言っていたな。
今日はこのままログアウトしようかと思っていたが、ゴキブリ一匹倒したぐらいでは何か寂しいな。
よし、終わる前に狩りと洒落こむか。
門の外にでると街の喧騒が遠退き、草原の爽やかな風と草の擦れる音が響いてくる。うーん、いい気持ちだ。
目の前には広大な平原が広がり、更にその奥にはうっすらと森の入り口が見える。
道なりに進みながら辺りを見渡すと、草原のあちこちにプレイヤーらしき人影が見える。4人から5人のパーティーを組んでいるのだろう、数人が集まってモンスターと戦う者達が多く見受けられた。
彼らが戦っているのは一抱えほどある鶏のようなモンスターで、名前をプレーリーチキンという。
プレーリーチキンはあまり強くなく、肉も美味しい為、初心者にも人気。ただし、オスのプレーリーチキンは喧嘩早い性格が多いから注意は必要だ。これもアリッサに教えてもらった。
「コケッ!」
おっと、観察していたらいつの間に近くまでプレーリーチキンが来ていたようだ。トサカの大きさからこいつはオスだな。
「ココッ!」
プレーリーチキンのオスの攻撃は主に二種類しかない。
突っつくか、蹴爪での蹴り攻撃だけである。ちなみにメスだと地面を蹴りあげ、砂や土をかけて魔法の詠唱を邪魔してくる。
「コケーッ!」
まあ、でもこのプレーリーチキンは突撃ゴキブリに比べれば大したことはないな。それに、こいつの攻撃は大きさは違えど、本物の鶏の行動と対して代わりはない。鶏を飼っている人なら簡単に攻略するだろう。
「コケッ!」
「痛ッ!」
甘く見てたら蹴りを貰ってしまった。
鶏でもモンスターはモンスターである。しかし、適正レベルが1の敵に攻撃を貰うのはなんとなく面白くない。
「このやろ。とり鍋にするぞ。」
そう言ってプレーリーチキンを押さえ込み、首を掴んだ。
「コケッ!?」
まあ、鶏の〆方と一緒である。手に力を込めてプレーリーチキンの首の骨をゴキリと折る。こうすれば鶏はもうなす術はない。未だにピクピクしているが、そのうち力尽きるだろう。
「ふぅ、久しぶりに鶏を〆たな。中学生以来やってなかったからうろ覚えだったけどなんとかなったな。」
完全に動かなくなったプレーリーチキンに【剥ぎ取りナイフ】を突き刺す。
《プレーリーチキンの肉を入手しました》
《プレーリーチキンの羽毛を入手しました》
これだけではまだ物足りないな。いっそ森へ行くべきだろうか?
そう考えながらも、気付けば足は森へと向かっていた。
鶏って〆て血抜きしたあとの毛むしるの大変なんだよね。お湯につけたら簡単だけどピンセットでチマチマ抜くやつ嫌いだったなぁ