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《新世界オンライン》 執事は実は最強職?  作者: どら焼きドラゴン
第 3 章 新しい世界
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第30話 街をたんけん

「今日はありがとうございましたー!」


「こちらこそありがとう」


  あのあと狩りを進め、フォレストピッグの年長組がでてきた辺りで引き返したのだ。ディーノスとの二人だけなら倒せたかもしれないが、エリカのいる手前リスクは避けた。


 エリカと別れた後、数人のプレイヤーらしき人物から付けられたり話かけられたりしたが、裏道に入った瞬間にダナー達の仲間らしきチンピラが絡みに行ってくれて時間を稼いでくれた。


 あとからお返しをしないとな。


 さっさと移動して領主の屋敷の裏門からヌルリと入り込む。


「だれだっ!」


 入ろうとしたのだが、悪魔の兵士がもう警備に回されていたのか簡単に見つかってしまった。本当にレベルいくつあるのだろうか?


「ああ、私ですよ」


 この姿(ランスキー)から執事の服装に変える。


「こ、これはスチュワート様! 失礼しました!」


「いえ、私も教えていなかったのでお騒がせしました。ですが見事な探知能力ですね、まさか見破られるとは」


「恐縮であります!」


「では、引き続きよろしくお願いしますね」


「はっ!」


 悪魔の兵士は背筋を伸ばして声を上げると巡回に戻った。

 屋敷へと入り、リリアナがいる場所に向かう。


「お嬢様、ただいま戻りました」


「遅い! パパからレベル上げをしてこいって言われたみたいだけど女の子と遊んでこいとは言ってないわよ!」


 植物園の中にある椅子に彼女は座っていたが、【千里眼】の力で見ていたのか、入ってきて早々怒っていた。


「お嬢様、彼女はそういう関係ではありませんよ。」


「それにしては楽しそうだったじゃない?」


 ああ、なるほど。リリアナは嫉妬しているのだ。いつまでもいる鳥カゴの中から飛び出すチャンスがあったのに、お預けをもらったように感じているのだろう。


「では、次はお嬢様と共に外を散策してみましょう。悪魔の兵士達は先程見たように街の警備として配置されたようですし、かなり安全になっている筈です。」


 その言葉にリリアナの目がカッと開き、先ほどの怒りが嘘のように消え失せた。そして、腕を掴むと早速と言わんばかりに扉へとダッシュしようとした。


「そうね! 早速いくわよ!」


「え、お嬢様! 先に旦那様へ連絡を!」


「パパなら何にも言えない筈よ! 専属の従者がいればいいって言ったのパパなんだから!」


 たしかに言ってた。多分親としては言い訳だったのだろうけど。リリアナのはしゃぎ様から無下にするのも憚られた。


「わかりました。ですが、お気をつけ下さい。異邦の者達には予想外のことをする者もいます!」


「それをなんとかするのが貴方の役目でしょ!」


 あ、ちょっとお嬢様!私の腕引っ張らないで! そっちに曲がらないから!






 町に出てからリリアナは興奮していた。今まで《千里眼》だけで見てきた世界にはじめて触れているのだ。興奮しないわけないだろう。


「スチュワート! あれは何!?」


「あれは市場でございます。港から水揚げされた魚介類や畑から取れた野菜はここで取引されるのですよ」


「じゃあ私達のご飯もここで買ってるの?」


「はい、ですが厳密には専属の漁師から直接屋敷に届けてもらっているんです。あの市場は漁業ギルドと農業ギルドの合同運営ですからそこに直接契約を結んでいます。」


「へー! じゃあ行ってみよう! ほらスチュワート早く!」


「はい、かしこまりましたお嬢様」


 リリアナには黙っているが、何度かプレイヤーらしき人物が近付こうとしていたのでさりげなく道を遮ったり、あまりにも酷い連中には巡回中の悪魔兵士に連れていかれていた。


 今でも大興奮しているリリアナと私の姿にプレイヤー達やNPC達までも視線を集めていた。


 だが、対策していないわけではない。


 リリアナの耳飾りには二匹のミミック・デーモンが常に警戒しているし、影の中にシャドウ・デーモンが、ペンダントには緊急時に私を強制召喚する力を込めてある。


 ペンダントはついさっき屋敷から大慌てできたメイドさんがリリアナに渡してほしいと頼まれた。おそらくあの親バカが発動したのだろう。


 更にはエンディムの召喚した悪霊の守護者イビルスピリット・ガードナーという怪物が彼女を守っている。こいつは普段は透明になって守護対象が危険に晒されると実体化し、危険に晒した対象を死ぬまで攻撃する。


 幽霊の癖に物理特化だし、日中でも関係なくでてくるし、なんならレベル40相当のパワーがあるし…。今の一番レベルが高いプレイヤーでもまだレベル30ぐらいだ。だから今この街にいるプレイヤーで悪霊の守護者を倒せる者は一握りだろう。


 これだけ対策はしているが、人はどんな行動をとるかわからない生き物である。警戒に越したことはない。


「ねぇ! スチュワート! あれ食べてみたいわ!」


「はい、ただいま」


 だから彼女には全力で楽しんでほしい。


 リリアナの食べたいと言っていたのは市場の中に売っていた薄く伸ばした小麦の生地に魚の干物を焼いてほぐしたものを野菜といっしょに包んで焼いたものであった。店員に聞いてみればツモモという料理らしい。


「どうぞ、熱いのでお気をつけ下さい」


 リリアナは包み紙から一気にそれにかぶりついた。


「おいしいっ!」


「そりゃ良かった!」


 反応を見ていた店員のおっさんも笑顔であった。

 その後、リリアナは市場を一通り回り、次はカフェの並ぶ商店街に行こうと突っ走る。


「スチュワート! あれは!?」


「はっ、異邦人の出店したカフェのようです」


「スチュワート! あれは!?」


「雑貨屋です。日用品を取り扱ってるようですね」


「あれは!?」


「金物屋です」


「あれ…」


「本屋です」


「あ」

 

「お菓子専門店です」

 

 リリアナが指差した店を一つ一つ説明していくうちに、お互いに面倒になってきたのか、リリアナは指差しするだけになり、私は即座に店の名前を言うようになった。

 ちなみにお菓子専門店ではリリアナが大好きなケーキをよく買っている。


「お嬢様いかがなさいますか?」


「もちろん入るわよ!」

 

 店に入ると中は薄暗く、森に呑み込まれたように植物が植えてあった。カウンターにはお菓子のメニューだけが置かれており、店員らしき人影はどこにも見えない。


「スチュワート…ここは大丈夫なお店なの?」


 リリアナが心配そうに尋ねる。まあ、たしかに最初はみんなそう思う。私だってはじめて買いに来た時には驚いたものだ。


「大丈夫ですよ。まずはそこのメニューから食べたいものを選んでください。」


「そう? なら…この糖蜜とリンゴのタルトを貰おうかしら?」

 

「ハハッーイ! ご注文ありがとうございまーす!」


「キャアアアアアアアアア!?」


 リリアナが注文をした瞬間に、目の前ににょきにょきと伸びた花が咲いて、中から人が現れた。蔓のような薄い緑の入った金髪の髪にエメラルドグリーンの瞳をした半分植物、半分人間のような生物である。リリアナは突然のことにびっくりして、私の後ろに隠れてしまった。


「おやおやおやおや? お嬢さんは人見知りかい? ボクがせっかく出てきたというのに」


「アマン、それぐらいにしてくれ。お嬢様が怖がってる。」


「がーん! ボク大ショック!」


 このオーバーなお菓子屋の主アマンは、エルフと植物の精霊とのハーフであり、植物を自由自在に操る能力を持っている。脅かすように花を咲かせその中から出てくるぐらいなら、彼女ならおちゃのこさいさいなのだ。


「お嬢様、申し訳ありません。この無礼な者はこの街一番の菓子職人であり、農業監督、そしていたずらっ子のアマンでございます」


「あ、あれがアマン…」


「そう! ボクがこの街で最強で無敵でプリティなお菓子屋さんのアマンだ! そして君の従者の婚約者でもあ…あでっ!」


 変なことを言う前に拳骨を落とした。酷いと思うかもしれないが、こいつはこれぐらいしないと調子に乗る。


「ちょっとスチュワート、あなた婚約済みだったの!?」


 ほらリリアナが騙された。アマンは頭を押さえながらもニヤニヤ笑ってた。


「違います、アマンの冗談です。お嬢様の反応を見て楽しんでおられます」


「あーあバラさないでよー! ま、でもいっか。お茶が沸いたよ? 」


 アマンがつまらなそうにしながらもお茶が入ったカップを植物を操り持ってきた。


「さっ、タルトは焼き上がるにはまだかかるから先にお茶でもどうぞ、お嬢様?」


 アマンはわざとらしく呼ぶと植物の中に埋もれていくように消えていった。警戒してテーブルに置かれたお茶になかなか手を出さないリリアナに助け舟を出す。


「お嬢様、大丈夫です。アマンはお菓子職人です。客に出すものにいたずらはしません。」


「そう? なら…」


 リリアナはカップを持ち上げ口にした。


「美味しいわ」


 それからしばらくすると糖蜜とリンゴのタルトを持ったアマンが現れ、目の前で切り分けてリリアナに渡した。


「ありがとう。」


「さあ、ゆっくり味わってくれ」


 タルトをフォークで指すとサックリと割れ、中からトロトロになるまで煮込んだリンゴと糖蜜が入っていた。

 口に入れればつい笑顔になる。


「ん~甘い!」


 その言葉にアマンは嬉しそうに紅茶を淹れた。



 タルトを食べ、紅茶を飲んだリリアナはリラックスしたからか、少々眠たそうな顔を見せ始めた。


「ん、お嬢さんはどうやらお疲れのようだね! 連れて帰って寝せてあげれば? 」


 アマンがリリアナの顔をツンツンしながら言う。


「むにゅ、やめて。やめなさいよ…」


 たしかに覇気が無くなっている。いつもなら大声で叫びフォークかナイフが壁に刺さるはずだ。


「そうさせて頂きます。お代はこちらに」


「ハイハイ、まいどあり」


【通話】で屋敷から馬車を手配し、その間アマンと話をした。アマンは最近はプレイヤーが増えたことにより、客が増えたことを嫌がっていた。


 お客が増えたほうがいいのではと思ったが、彼女の話によれば、口説いてきたり冒険仲間に誘おうとする客も増えたことによるストレスを感じていた 。


「貴女も大変ですね」


「まあ、キミほどではないけどね」


「私ですか?」


「キミ有名人だよ。客の話を小耳に挟んだけど、悪魔達を追い払う為に教会が躍起になってるとか、キミを倒せば悪魔達の支配権を奪えるとか、ランスキーとかいう領主の専属暗殺者がいるらしいけどそれとキミが相思相愛の関係だとか……」


 おい、ちょっと待て最後のはなんだ。


「……ほとんどデマですね」


「だよねー! キミそんなに強そうじゃないもん」


「そうですか」


「でもさー、キミ警戒は常にしてるよね。仮にボクが彼女に傷を付けようとしたら直ぐにでも……ッ!?」


 アマンが冗談交じりに蔓をリリアナに伸ばした瞬間に、彼女の首筋に影から何本もの針が突き付けられた。


「…言葉には気をつけください。()()は私のように優しくは無いですから」


「オッケー……どうやらボクが思っていたよりも厳重だったみたいだ」


 シャドウ・デーモン達は短絡的に考えがちだ。冗談でも警護対象を傷付けようとした相手を許さない。寸止めしたのは私がいたからだ。


 しばらく沈黙の時が過ぎ、静かで張り詰めるような時間だった。


「……迎えがきたみたいだよ。またおいで」


 アマンはそれだけ言うと蔓を操り、出口を開けた。

 すやすや眠っているリリアナを抱き抱え、馬車に乗せる。


「いたずらは程々にお願いします。それでは」


 そして馬車に乗り込むと、ゆっくりと屋敷に向けて去っていった。




「悪魔を従える執事なんて初めて見たよ…噂はたまには信じてみるものかな。まっ、これから楽しくなりそうだ!」


 アマンは鼻唄を歌いながら次のお客のために片付けを始めるのだった。



しばらく新作のプロットや完結までの溜め書きをするので更新が遅れます。ご了承下さい

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