第25話 サービス開始 そして奴等は空気を読まない
明けましておめでとうござ………あるぇ?2月じゃんもう( ゜д゜)エ?ハヤクネ?
半年後、《新世界》は正式サービスを開始した。
本来ならば直ぐにサービス開始したかったのだが、私が編集した動画広告や配信者の動画が非常に注目を集め、希望者が国内外含め殺到した。
その為、私達は仕事の量が増え、てんてこ舞いだった。
おかげ様で当初に予定していたよりも2倍近くの販売量を上げた。
半年の間、毎日がキツかった。朝早くから体力作りのランニングや筋力トレーニング、勉強しながらの仕事、夜から始まる習い事の数々……。数えたらキリがないほど頑張った気がする。しかしまぁ、部長がどこからか手に入れたのか危険物系の国家試験の登録用紙を複数持ってきた時は肝が冷えた。
死ぬ気で体術や礼儀…様々な知識を貪り食らった。大学の受験生よりも勉強したんじゃないか? まぁ、資格は8割合格することができた頃にはだいぶ楽にはなった。
身体も40代の身体付きとは思えない程引き締まり、スーツも吊り下げ品では入らなくなってしまいオーダーメイドしたぐらいだ。元アメリカ軍人のおっさんに教えてもらった近接戦闘術はガチの殺しの技術がほとんどで、これを習った場合に障害事件を起こせば拳でも銃を持った時と同じような扱いを受けるという説明もされた程だった。
「……もう半年かぁ。」
思い出せば沢山のことを学んだ。それを全てこの《異世界オンライン》で部長の憧れのようなキャラを演じるために使う。まあ要はカッコいいスタイルで戦い、広告のネタになるような動画を撮りためるのだ。
「リリアナに会うのも久しぶりだなあ。おっと、向こうではお嬢様と呼ばなくては。」
機械の中に入り、ログインを開始する。
半年……ゲーム内時間は凍結しているのでログインしたら浦島太郎状態なんかにはならない。
久しぶりにあの世界にいくのはとても楽しみだ。
《網膜パターン照合……照合しました》
《……肉体の変化を確認……アバターに適応させます》
《新たな資格取得を確認……対応した制限を解除します》
《【新世界】にようこそ!》
ああ、忘れていた。β版と変わったことがいくつかある。
1つ目はアバターに対するリアルの体格とのリンクである。
これはゲームにのめり込みすぎて不健康な体格になってしまう人を律するためだ。
いくら顔をイケメンにしたとしても、体は誤魔化しが利かない。
これに対してはかなり批判もでたが会社としては「じゃあ、恥ずかしくないくらい痩せたり筋肉つけたりすれば? 身だしなみの整えは社会人の基本だろ?」というスタンスを貫いた。
まあ、リアル基準のアバターはプライバシーの保護のため作れないから顔についてはかなり自由だ。それを発表した瞬間に、かなりの批判が消えたのは会社のみんなで笑ったものだ。
2つ目は本人の持つ資格による制限の解除だ。
もし、リアルでの資格がない人が、再現可能な物質で爆発物を作ったとしよう。そうすると、警告がきてリアルでは絶対に流用しないことというサインを書かされる。
さらに品質は固定で最低値の1となり、初期装備と同じかちょっと高いぐらいの威力しかだせなくなる。
あまりにも資格がある人とない人の差がありすぎると思うかもしれないが、こうした制限があるのは当然、犯罪に使われたりしないようにするためである。
もちろん資格がない普通の人でも代用できる――というかそっちがメインだが――モンスターの素材を数多く用意してあるので選択肢が0になったわけではない。
さぁ、話が逸れてしまったが、ログイン開始だ。
《……ログイン完了 異世界を楽しんでください》
身体が横になってる感覚がある。ログアウトした時にベッドで寝ていたからだ。
起き上がり、部屋着から執事の制服に着替える。鏡で身だしなみを確認すると少しだけ身体が前よりガッチリしたせいか燕尾服が似合うようになった気がする。まぁ自画自賛だから他人からの評価はわからないが。
「よし、いくか。」
扉を開き、領主の待つ部屋へと向かっていった。
まずは領主様に着任した挨拶をしないと。
「失礼します。」
「ああ、おはようスチュワート。今日からさっそく頼むよ。」
「はい、全身全霊を以てお仕えさせて頂きます。」
部屋に入り、挨拶を済ます。こちらからすれば久しぶりではあるのだが、サービス開始の間は時間が止まっている。だから彼らからすれば、私とは昨日ぶりとなる。
「ああ、本当に今から仕事を頼むよ。今ちょっと困ったことになっていてね。」
「なんでしょうか?」
赤沼の残党狩りに手こずっているのだろうか?
「……あれ、君の関係者かい?」
目が笑っていない笑顔で領主様は窓を指差した。よく耳を済ますと窓から太鼓やラッパの音が聴こえる。
「音楽隊ですか? 私は呼んでいませんが……。」
「いいや違う。もっと先、なんなら街の外を見たらわかる。」
「街の外……ッ!?」
領主様に言われたとおりに視線を動かし、そして固まった。
街の外、外壁の草原にあたる場所に沢山の旗を掲げた軍隊がいた。師団クラスの部隊が数えて5つ。いや、もっと多い。
戦争イベントでも始まったのか!? と思っていたが、もしそうだとしたら領主様はもっと焦っている筈だ。
「……なんですかあの軍団は。」
「私が聞きたいよ。なんだいあの戦力は……。それに兵士の報告では君の名前を出していたよ、あれらは。」
領主様はこちらを笑顔で睨む。
「…あの悪魔達はキミを主だと言ってたよ。」
その言葉にとある鎧の悪魔を思い出した。
『しばらく待っていてくれ、準備してくる。』
あの言葉の意味を今理解した。
「……私の知り合いですね。むしろ、私が呼び出しました。お嬢様の警護を頼みたいと呼んだのですが。」
「…あ、娘のための軍団か。ならまあ、及第点だな。よし、なら早く迎えにいってやれ。住民が混乱している。」
この親バカが!娘のためにって言ったら急に態度かわりやがった! と声を大にして言いたかった。が、我慢である。
「かしこまりました。急いで向かいます。」
「はーい!皆さんこんにちは~♪エリカ・エルガの配信にようこそ~。今日は待ちに待った《新世界》の正式サービス開始の日です!」
『(゜∀゜ 三 ゜∀゜)キター!』
『うわああああああああああああ!』
『倍率が高いから当たらなかったぁ!』
『人が沢山いるぅ!』
『リアルの世界にそっくりなくらい画質綺麗だな』
今日はサービス開始の日。私は生配信をしながら最初の街に立っていた。今日はいつもより視聴者が多い。それはそのはず、β版組は全員元のデータを引き継ぐことができたが、一般で発売された時は予約が殺到し、抽選になった。ニュースにもなり、それがまた知名度を高め、倍率が高くなってテレビ局が軽く炎上しかけたのはSNSでは有名な話だ。
「ここは始まりの街ですね! 地図で言うなら大陸の先っぽです。だから港町でもあるんです。魚人を選んだ人は海側の広場が初期スポーン位置みたいですよ。」
カメラを自分の目線とのリンクから外して具現化させ、海の方に向けた。追従モードにすればちょっと高い位置から撮ってくれる。メニューから映像を見ると、港の先に沢山の帆船とキラキラ光る青い海が見えた。
『うわぁ!綺麗だなぁ』
『イタリアの街みたいだ!』
『ギャングスターに憧れてる少年がいそうな街だな』
『wwww』
「そして反対側には草原が広がっていますね! 遠くには森が見えます!」
『おおおおお!』
『綺麗ー!』
『あそこであのジェノサイドが…』
『( ̄b ̄)しー!』
「ちょっと!ジェノサイドはやめてくださいよ! あれは…ちょっとやりすぎただけです!」
『やり過ぎ(-ω- ?)あんなことして?』
『首切り落として死体を消えるまでの間拾った槍で串刺しにして突き上げて雄叫び上げてたのに?』
『あまりにもエグすぎて配信にR18規制かかったのに?』
『ファッ!? こんなかわいい子が?(((・・;)』
「みんな…やめて…やめてください!」
この流れはまずい、早くいつもの配信スタイルにもどさないと。実際、あれは私は悪くない! 胸を触ってきた赤沼が悪いのだ!
「ゴホン、それでは気を取り直して! 今日は森で狩りをしていきますよ! β版のデータを引き継いだ私が今さらプレーリーチキンを狩ったって対した経験値になりませんからね! 」
そう! 今回私達β版組はデータを全て引き継げたのだ。普通ならば平等性をもつ為にデータの初期化されるのだが、運営いわく、「この世界は自分の2つ目の人生だと思え」だそうだ。
不公平だ! と騒ぐ人もいたが、このゲームはひょんなことから最強クラスの職業やNPCと仲良くなれたりする。まさに人生万事塞翁が馬を体現したゲームだ。
『いいなー! 俺も明日始めるからお下がりでもくれないかな。』
『あーずりーぞ! 俺にも装備のあまりくれよ!』
『でたな!妖怪クレクレめ!』
『先に始めただけだから(笑) 』
『急に民度悪くなって草』
『この手の連中はどの世界にもいるから…』
コメントはこの際無視だ。こうしたコメントは読んでしまうと調子にのる。
「さぁ!街の外にでました。来なさいピーさん!」
「ケーン!」
アクセサリー化を解除して、グレーターチキンのピーさんを呼ぶ。騎獣がいないと森へはいけず、永久に広がる草原を無駄に歩く必要がでてくるのだ。
「さぁ!森にいくよ!ピーさん!」
「ケーン!」
ピーさんに股がり森を目指して草原をかける。リアルだと絶対にやれない爽快感だ。こういうところで本当に凄いゲームだと気づかされる。
『あー!追走してる感じで爽快感あるわー!』
『まさに冒険って感じだな!』
『んでー右端のところから禍々しいの来てるけどあれ何なんだ?』
「ん? 何かありましたか?」
気になるコメントを見つけ、聞いてみる。
『んーなんかあったか?』
『いや黒い霧みたいなのが画面はじチラチラ映るからなんだろーって』
『チラチラ見てただろ?』
『いやそんなこと…』
『汚い汚いw ちょっと右側見てみたら?』
「右側ですか?ちょっと…って、うわっ!?」
ピーさんがいきなり止まり、一点を見つめだした。あ、この感覚は覚えがある。ヤバい存在がくる時だ。
「ピーさん! 」
「ゲッ!? ケーン!」
ピーさんを奮い立たせ、その場から離れた。三十六計逃げるに如かず! 遠くから観察よ!
彼女らがその場から離れた数分後、それらは現れた。
黒い霧は濃くなり、黒い蠢くナニカになる。それは虫であったり蛇であったり、人であったり。ナニカは集い始め、門を組み上げる。呼び出された彼らの役目は主の為に世界をつなぐ門を創造することだ。
やがて彼らそのものが門の一部となり、門は完成する。
そして扉は開かれる。
闇の中から現れた者達は一見、普通の騎馬隊だった。しかし、乗っている生物が異形であった。通常の軍馬の2倍の体格がある黒い馬の部隊、ゴキブリのようなのっぺりした巨大な蟲に跨がる部隊、さらにはドラゴンのような飛竜に乗り、まるで戦闘機のように隊列を成す部隊まであった。
その中に紛れて歩兵が歩みを進める。全員が統一された武具で身を固め、槍を持ち統制の取れた動きをするのは壮観であった。
そして彼らを率いる将軍が現れた。その騎馬隊の黒馬よりもさらに巨大で、鼻から火を息吹く馬に股がった全身鎧の人物。兜の中から蒼白く光る目が獲物を探すように草原を見渡す。
「『集結』」
将軍から拡声された号令が響き渡り、草原に散らばっていた各部隊が整列してゆく。そして全てが集結すると、将軍は遠くに見える街に剣を指した。
「『進軍! 白旗を掲げよ!』」
軍団が一斉に旗を掲げる。これは降伏の意味ではなく敵意なしの意味を持つ旗でもあるのだ。
軍団が街へ向かってゆく。街は大騒ぎだろう。しかし、派手にしたほうがよいこともある。将軍たる彼、アグレアスは仕える主の為に良かれと思ってやったのだった。
主からすれば頭を抱えたくなる事態だっと知らずに。
私「やっべーめっちゃ忙しくて書けなかった。」
友達「おう?おう?おう? 随分遅延してくれたじゃないの? 何してたの?」
私「しごr」
友達「何してたの?(圧)」
私「グ…」
友達「ぐ?」
私「グラン◯ヴァイパー!!(不意打ち)」
友達「今だ(上強攻撃)」
私「ぐわっ!」
友達「まだ本気ではありませんね?(煽)」
friend W I N
すいませんアホな茶番劇考えたら遅くなりました(建前)




