第24話 これからの動き
お久しぶりです
更新がノタノタして申し訳ありません。
それでは今年最後の話をどうぞ。
屋敷に戻った時には、領主グラースは正面玄関を通った先にある庭で待っていた。リリアナの姿を見た途端、弾丸のように飛び出し、泣きながら抱きしめていたのはかなり印象的であった。
リリアナは鬱陶しそうな顔をしていたが、やはり親の気持ちを受けたのかいつものように突き放すことはなく、受け入れていた。
そして、しばらくしてから私に後で部屋にくるようにと伝えると、リリアナを抱き上げて、行ってしまった。
そして、私は今領主グラースの部屋の前で緊張していた。
やはり、今回のことで護衛の価値がないと解雇通知されてしまうのだろうか? 守れない護衛なぞいらんと言われてしまえば私の職業的に後先がキツくなる。
「ほらやっぱりできないと思っていたのだ。」と言われてしまえば、私は何も口答えできないのも事実である。やはり、形振り構わず頭を下げるしかないのだろうか?
様々な場合を考えてシミュレーションしていたのだが――――。
「今回は危なかった。スチュワートよ、感謝するぞ。」
部屋で待っていたグラースは嬉しそうに語った。
まず、リリアナを無傷で救出してきたことと、《赤沼》を全滅させ再起不能にしたことを褒められた。警備隊にも【勢力図】を持つ私から、《赤沼》の拠点らしき場所を教えていたので残党達も時間の問題だろうとのこと。
結局、今までの街での犯罪の首謀者の8割は《赤沼》の仕業だったらしく、《悪魔の血》は完全な濡れ衣だったようだ。
しかし、リリアナを拐われたことは気付けなかったことに苦言を申されてしまった。ここら辺は探知能力を伸ばすべきだろうと心のノートにメモをしておく。
そしてさらに。
「今回の貴様の功績を以て、我がサリバン家の執事として正式に雇おうと思うのだが、いかがかね?」
私の答えは決まっていた。
「謹んでお受けいたします。」
「ふぅ…。さて、編集で……も…。」
ログアウトし、今回の録画のデータを編集しようと思っていたら、目の前には一人の男がいた。
「お疲れ様。君の動きをリアルタイムでモニタリングしていたけど、なかなか面白いことになっていたね?」
「誰ですか?」
「おや? 兄から話は聞いてなかったのかな? 私は下田 将彦 君の元上司の弟だよ。」
弟…ってことは部長!?
「君の動き、執事としてあの世界を遊ぶと決めた君の行動に最初は酔狂な男だと思っていたよ。なぜわざわざゲームの世界で使用人の真似をしなければならないとね。」
部長はそこで言葉を切るとカッと目を見開いた。
「しかしッ! 君の行動を見て素晴らしいと思ったのだ! 一人の主の為に不慣れながらの献身ッ! 主の為なら人を殺めるをも厭わない仕事人の鏡ッ! 拐われた時の出撃なんかまさに囚われの姫を助ける王子のようだった! そしてあの女に最後に言い放ったセリフッ! 最高だ!最高なんだよ!!さらにっ!―――――――。」
肩を掴み揺さぶりながら部長は早口で喋る。まるで限界突破したオタクが推しについて語るかのように、部長は語り続けた。
「―――――という訳で君の動き、行動に魅られてしまったのだよ。はっはっは!」
「は、はぁ。ありがとうございます。」
そこまでベタ褒めされたのは大学に合格した時以来だ。ちょっとくすぐったい。
「しかし、君には足りないものがあるのだ。」
「足りないものですか?」
「そうッ! それはズバリ………礼儀作法についてだ!」
部長はズビシッ!と効果音が出そうなほどの早さで指差した。
確かに礼儀作法についてはズブの素人。部長の意見ではそのせいでせっかくの良さが半減するという。
「幸いこれからβ版が一旦終わり、正式サービス開始に向けての期間がある。そこでだ、君には執事としての働き方を学んでもらおうと思ってるのだ。当然私が支援しよう。」
「しかし、広告は……私がいないと回らないのでは?」
編集作業までが仕事内容だった気がするのだが。
「……そこ込みでスケジュールを組もうか。」
「あ、はい。」
「それで、君は受けるかい? 」
「受けます………しかし、一つだけ質問を。なんで私にそこまでしてくれるんですか? 」
言ってしまえばゲームをプレイして金もらうという傍目から見れば、あんまり褒められた仕事はしていない。普通ならば自腹で学びにいくのが筋だと思うのだ。
「……ファンの一人だからさ。」
部長はそれだけ言うと、スマホを取り出しどこかに電話をかけた。
「私だ。彼は承諾した。手配どおり頼む。…ああ。逸材だぞ。ではまたな。」
電話を切ると、部長はニヤリと笑った。
「なぜと言ったな? 簡単だ、私の思い描く最高のキャラクターに君を育ててみたいと思ったからた。推しキャラに金を貢ぐのは当たり前だろう? それに看板みたいなキャラがいたほうがゲームの箔がつくからね。一応、いっっっっちおう経営のことも考えているよ。」
経営に私のこと組み込むのすごい嫌そうに言うんだね。しかし、そこまでしてくれるならば応えないともったいない。
私の応えは決まっていた。
「謹んでお受けいたします。」
部長も私もおどけて笑った。
数日後、私は半ば後悔した。
最初の一週間は編集作業の後、本物の執事さんにレクチャーしに来てもらい、執事とは何をする仕事なのかを詳しくまなんだ。礼儀作法の先生からも作法を学ぶくらいだったのだ。
そこからじわじわと部長が段々と自分の理想的なキャラのための資料や習い事を盛り込みはじめたのだ。剣術、体術、逮捕術、クレー射撃……etc.多岐に渡る資格講座等々。
正直目が回るがそこまで期待してくれているということだと割り切り、情報の波を飲み干すべく、正式サービス開始まで戦いに明け暮れた。
「なんのこれしきぃ~!! やってやるわぁ!!」
「ほう、まだ余裕がありそうだな……あれも増やすか。」
すいませんやめてくださいほとんど空元気なんです。
赤暗い雲が空を被う暗い森。空には巨大な鳥や飛竜が飛び回り、地面には見るのもおぞましい怪物達が食物連鎖を繰り返していた。赤沼が従えていたトカゲですらこの森の最弱たるネズミ一匹すら勝てないであろう。
ここは悪魔達が普段住まう世界。
通称《魔界》
その森の最奥に一つの館があった。この館には森の怪物達は近づくことはなかった。当然だ。近づけば館の主の不快を買うことになる。そして待っているのは無惨な死だけだ。
その館のとある一室にて血のようなワインを飲みながら景色を楽しむ者がいた。
「…………いやはや面白い人間だったな。選ばれて本当に良かった。」
そう呟いてまたワインを傾ける。
「あらぁ、あなたがそこまで気になる人間なんて興味深いわ。」
女の声がした。しかし、部屋にはワインを飲む悪魔しかいない。しかし、その悪魔には見えていた。
「…貴様か。ここに来る時は正面から来いと言った筈だが?」
男が腕を振るうと、風のような魔力が迸り彼女の幻術を強制的に剥がす。
「だって面白くないじゃん。」
「だから貴様は嫌いなんだ。」
男はこいつはいつもそうだと言わんばかりに目頭を押さえる。
「そんなー。」
魔法で(´・ω・`)のマークを浮かべ彼女は泣いたふりをする。
「ま、それはいいとして! 天使達によって封印された貴方が人間界に行ってる気配がしたのはなぜかしら?」
女の悪魔が聞きたかったのはそこだ。神々の眷属たる天使達に封じられた悪魔は本来、魔界でも決められた場所から動くことすらままならない筈。しかし、この悪魔は限定的にだが人間界に出入りしていた。何のカラクリを見つけたのか聞きたかった。
「簡単なことよ【悪魔法】の持ち主が現れた。《等価交換》の交換者としてたまたま選ばれた訳だ。」
「ちょ、ちょっと待って! 【悪魔法】を手に入れた人間がいるの!?」
【悪魔法】悪魔が使う魔法とされているが、実際はちょっと違う。支配階級になれる素質の悪魔のみ得られる。《等価交換》も本来は悪魔から人間に対して行う。人間達の言う悪魔を召喚し、願いを叶える代わりに魂を奪われた話などその代表だ。
では人間がそれを持てばどうなるか。悪魔を指名し取引をノーリスクでできるようになる。
「そうだ。」
危険だ。女はそう思った。だが、男は逆に機嫌が良かった。
「儂は感謝してるよ。呼びかけをされた時は目の覚めた気分だったしな。しかもこんなものまでくれた。」
男は部屋の壁にかけてあるボウガンを指差し笑った。
「なにこれ?」
帝国でライフル銃とよばれた鉛を打ち出す武器に似ているが弓のようにも見える不思議な形をしていた。
「素晴らしいだろう。私も様々な武器を作ってきたがこんなのは初めて見たぞ。」
男はケラケラ笑う。本当に今日は機嫌が良いみたいだ。
「そうなのね。」
女は興味がないとばかりに話を切った。
「まあでもわかったわ。残念ね。封印の解き方がわかったのかと思っていたのに。」
「封印は儂ですらどうにもならんかったんだぞ。お前でも無理だ。」
「あっそ。もう帰るわ。バイバーイ。」
女は最早目的のものがないとわかるとさっさと消えてしまった。
「……やれやれ、興味のないものと興味のある時の差が酷いなあやつは。」
少し疲れたように笑い、またワインを流し込んだ。




