第21話 執事の力
めっっっっちゃ久しぶりの更新
ちょっとずつ時間を見つけて書いているので遅くてすみません
「なぜだ……、ありえない……なぜ貴様がここにいる!」
女の顔は驚愕に包まれ、一歩ずつ近づくと後退りするほど焦っていた。
「主の危険の為に盾となり剣となる最後の砦が私だからだ。」
【暴虐】によって膨れ上がった力は殺気となり女に迫る。気圧された女が更に一歩下がった瞬間に細剣とマインゴーシュを構え、肉薄する。
これ以上お嬢様の目の前にこの汚物を見せる訳にはいかない。
「くたばれ、ビッチ。」
【暴虐】と【呪撃】をのせた細剣の一突きは女の腹を貫き、身体を吹き飛ばした。
「ぎぃぃぃああああぁぁぁぁぁ!!」
大木に身体を打ち付けられ、腹に強力な一撃をもらった女は金切り声に似た悲鳴をあげた。
耳に悪いが、不思議と不快感はなくなっている。もしかしたら戦闘による興奮で頭に入ってこないのかもしれない。
「うっ……ウウッ。」
女は木にもたれ、腹を押さえながらうめき声をあげる。もう終わりかと近づくと、急に嫌な予感がして歩みをとめる。
何かが空を切る音がして地面が抉れた。あのまま進んでいたら切り裂かれていただろう。
「チッ、外れたか。」
「嫌な予感がしたもんでね。」
「くそっ! 【風鎌】!」
「こんなものか?」
確かに見えない斬撃は怖いが、飛んでくる前に空気の流れが乱れる。それに合わせればマンゴーシュだけで対処可能だ。
「まだまだ! 【風刃】【乱舞】!」
女はだめ押しとばかりに魔法を連射した。これは流石によけれないな。
見えない斬撃を空気の流れを読むだけで飛んでくる場所を特定し、弾く。数発ならばなんとかなるが、この数はキツイ。
いくつもの風の刃が身体を襲い傷がだんだん増えていく。防ぎ切れなかった所から血が滴り、腕が重くなる。
「魔法ってのは厄介だな。ッと、やっちまった。」
弾く場所を間違えて左腕が切りとばされてしまった。
「スチュワート! 」
リリアナが悲鳴をあげるが問題ない。
【再生者】のスキルで切りとんだ腕を傷口にくっ付けるとスライムのように血肉が蠢き、癒着、再生する。
「化物がぁ!」
女は魔法を乱射するが、当たった端から再生する。何度も当たるうちに痛みも慣れてきた。眉をひそめる程度には耐えれるようになった。
「お前の方が化物らしいぞ?」
散歩でもするかのような足取りで女に近づくにつれ、彼女の顔は見るに耐えない醜いものに変化していた。
「あああああああ!!なめるなぁぁぁぁ!!【轟風】!」
先ほどとは比べものになはない程の風が自分を中心に起こり、巻き上げられた砂や小石、枝が肉をミキサーの刃のように襲ってきた。
気を抜いたら自分も巻き上げられそうな風の濁流の中で、全方位からの攻撃は避けることはできない。地面に剣を突き刺し身体を固定するだけで精一杯だ。
しかたない、アレを使おう。
「その魔法はアタシのとっておき、虎の子だったのに…。貴様には使わなきゃ不味いと判断させてもらったわ。でもアタシの勝ちね! 貴様は傲慢すぎなんだよ。勝つまで気を抜くのは二流以下よ!」
暴風の渦の中そのスキルを発動させた。
「ふぅ、ふぅ………今のうちに…。」
「逃げる気か? 逃がしはしない。」
地の底から沸き上がるような恐ろしい声が風の渦の中から辺りに響く。女はその声を聞いて恐怖に足の感覚がなくなっていくのを感じた。
「邪魔な風だ……消え去れ!」
片腕を降っただけで【轟風】はつむじ風のように弱々しい風に成り下がり、霧散した。
「ああ……ああ……。」
風の中から現れた怪物を見て女は更なる恐怖に飲まれた。
暗殺者のようなローブから漆黒の執事服へ年も若返ったかのように白髪や髭が消え去り、黒髪になっていた。しかし、頭から生える2本の巻き角と縦に裂けた赤い目が彼を人間とは違う生き物だと認識させた。
一歩踏み出すと女は腰が抜けているのか腕を必死に動かして後ずさりする。
「くるなぁ!くるなぁ!くるなぁ!くるなぁ! 私の側に近寄るなぁ!【風玉】【風玉】【風玉】【風玉】【風玉】ァ! ああ? 魔力が…【風】【風】【風】【風】【風】【風】ェ!」
女は魔力が尽きるまで魔法を放つが見切りは簡単だ。【暴虐】には魔法すら綺麗に合わせれば無力化できる。歩を止めることなく魔法を細剣で切り裂きながら、女に近づく。
「諦めろ、もはやお前に逃げ場はない。」
「ぐぎぎ……【泥壁】!」
分が悪いと感じたのか沼の壁を作り、逃げ出そうとした。
「逃がさないといっただろ。」
泥壁を蹴り崩し、這いつくばって逃げようとするところを細剣で足を貫き動きを封じた。もはや女は詰みだ。
「ああああああっ!」
女は悲鳴を上げてこちらを睨み付ける。その目は卑屈で後ろ向きにしか考えれなくなった者の末路の目をしていた。
「私は貴様のように虐める趣味はない。一撃で楽にしてやろう。」
細剣を使うまでもない。鋭い爪が伸び、【呪撃】と【暴虐】が乗った一撃は女の首を抵抗なく切り飛ばした。頭のなくなった体から血が噴水のように溢れた。
そこでちょうど効果が消え、暗殺者モードの姿に戻った。
使ったのは【悪魔法】レベル1でできる悪魔化だ。
一定時間自らを悪魔化させ全ステータスを超アップするスキルだ。しかし、1日1回しか使えないという制限があるので、気楽には使えない。
さて、この女は少々やり過ぎた。償ってもらおう。
「……魂をもって罪を償え。【等価交換】」
【悪魔法】のレベルが上がり2となったことで使えるようになった。
この魔法はNPCもしくはモンスターに限定されるが、キルした直後の相手の魂を縛り、ランダムにアイテム化させるという強力な効果がある。
『益を求めるか、ならば対価を。』
女の体付近から光る何かが飛び出し、天に行こうとするが魔法陣から現れた鎌をもつローブ姿の骸骨がそれを虫網のようなもので捕まえた。
そして手で持つタイプのルーペのようなもので魂を査定する。
『ふむ、レベルも低く純度も悪い。本来ならば交換する価値に値せぬ。しかし、久しぶりの客だ。サービスしよう。……お主の武器をちょっと見せてみい。』
細剣を差し出したが首を横にふり、インベントリの中の物がいいと言った。
「これのことか?」
インベントリからあの試作品だったボウガンを渡す。
『おお、まさにそれよ。』
ビンゴだったようだ。骸骨ローブはボウガンを受けとるとあちこち弄り回しはじめた。
『…ふむ、帝国の銃に型は似てるがパーツはもっと簡素。しかし普通の弩よりかは射程、精度は増す筈だったが………ははぁ、糸の耐久性と装填速度に問題アリといったところかの?』
一瞬で試作品の問題点を見つけてくれた。なかなかの腕前なのかもしれない。というか、骸骨がライフルのような型のボウガンを構えている姿は普通にホラーだった。
『…たしかちょっとまっておれ。』
骸骨ローブは魔法陣の中に一度戻り、たまにガサガサ音を立てたり爆発音が響いていたが、やがて1巻きの糸を持ってきて現れた。
『お主に今ちょうどいいのはコレだろう、素材なら等価交換の制限もある程度は融通は利くからの。では、サラバだ。』
『やめろぉぉぉぉ!! いやだぁぁぁぁぁ!!』
糸をこちらに渡すと、骸骨ローブはランタンのようなものに魂を放り込み、魔法陣と共に消えていった。
試作品のボウガンごと。
いや返せよ。
もう一度呼ぼうか? と考えていたら、背後から誰かに抱き着かれた。いや、誰かはわかっている。
「どうされました? お嬢様。」
「……もう終わったの?」
服が伸びるほど力強く抱き着いているリリアナは震えていた。確かに、骸骨ローブ姿のアレは怖かったのかもしれない。
「大丈夫です。もう全てカタがつきました。ディーノスが今、残党達を始末しています。それが終われば街へ戻りましょう。」
その言葉に安心したのか、リリアナは気を失うように倒れた。受けとめて、予備のマントを地面に引きそこに寝かせた。
「さて、私は務めを果たしますかね。」
そう呟き、どうやって上手く報告するか考えながら、領主に向けて【通信】を使用した。




