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《新世界オンライン》 執事は実は最強職?  作者: どら焼きドラゴン
第2章 《悪魔の血》と悪魔達
20/30

第20話 《赤沼》攻防戦

2話連続投稿じゃーい


「敵襲~!敵襲だー!」


「お嬢ちゃんこんな所に一人でくるなんて危ないよぉ! こわぁいトカゲさんに食べられちゃうからねぇ! ギャハハハハハハ!」


「ウワッハハハハハハ! やれやれー!」


「この馬は俺がもらっ、ギヤァアアア!」


「バカじゃねーか!噛まれてやんの!」


「女だからってバカにするなぁぁ!【スラッシュ】!」


「ギャアアアアアア!」


 赤沼とかいう上半身裸のような汚いおじさん達が武器を持ちながら襲ってきた。


 何あれキモイ!


 たまにちゃんとした鎧を着けた人もいるがだいたい私を見た瞬間に半分裸のようになった。


 つまり、捕まったらR18不可避。


「もう!もう!もう! なんで私がこんなことに!」


 嘆きながら襲ってくる悪漢達を切り捨てる。最初は抵抗があったものの、相手が性的に襲ってくるなら話は別だ。


「はあぁ!【スラッシュ】!【回転切り】!」


 股の下から剣を切り上げ真っ二つにすることすら忌避を覚えなくなってきた。


『うわぁ……』

『股裂き……うわぁ』

『ヒェッ……股関を蹴りあげるか普通』

『ああああああ! 見てるだけで痛い!痛い!』


 コメント欄を見ている暇はなかった。アジトらしき古い砦からは虫のように敵が次から次に飛び出してくるので、対応に追われていた。


「ギュオオオオオオン!」


「ぐぁぁ!」


「くそっ!何だこの馬は!」


 背中はあの馬に任せている。最初は半信半疑だったが、この馬、ただの馬ではなかった。


 いきなり火を吹くわ、(たてがみ)がバチバチっとスパークしたと思えば物凄い速さで体当たりをかますわ、噛みついて喉笛引きちぎるわ……なんなのアレ。


「まあ飼い主も飼い主ね……あんな距離から矢を当てるなんてどんだけよ。」


 背後から奇襲を狙っていた男の眉間に矢の羽が生えたのを尻目に、剣を振りかぶった。








「ふむ、なかなかやってくれているようだ。」


 森のちょっとした丘の上から男の眉間に矢が突き刺さったのを確認して、武器を収めた。


「しかし、まだまだ実用化はできんな。ブレが酷いし弦が切れてしまった。」



 この武器はカテゴリー的にはボウガンに入るが、パッと見ればライフル銃のように見られるだろう。銃ならばチャージングハンドルや薬室になっている場所に弓の弦が張ってあり、前床部には小型のクランクが設置されている。


 撃つ時にはライトマシンガンのようにカバーを開き矢をセットしてからクランクを回して弦を張り詰めさせ、そこから狙いを定める。


 海外のサイトを漁り、銃とボウガンの構造を調べてから作ってみたのだが、アレンジするには早すぎたかな。


 ライフルは銃身が長いから狙いやすいと思ったんだけどな。課題は多い。撃った時と狙った先がめちゃくちゃズレるし、普通の矢も長いからいちいち削ってから撃たないといけないし、装填にも時間がかかる。メリットと言えば圧倒的な射程距離と威力ぐらいだ。


「……さて、武器の実験はここまでにしといて、そろそろかな?」


 《赤沼》のアジトをじっと観察していると、周りの奴らよりも豪華な格好をした女が一人の少女の手を引きながら裏口から逃げようとしていた。


 少女の顔は遠くて見えなかったが、あの嫌がり方からしてリリアナお嬢様だな。


「やっぱり出てきたか。まあ、この場所から無差別に矢を放てば混乱するのも無理はないな。」


 先回りして崖の上から細剣を構え、じっと待つ。


「放してよ! 私はあなたと一緒にいたくないの!」


「あーあーそうかよ! アタシとしちゃもっと仲良くしたいもんだがね! 来な!」


 来たな。さぁ、お嬢様に手を出した報いを受けてもらおうか。


 崖から飛び降りると細剣を突き出した。スキルにより音を限りなく消したその一撃は女の首を捕らえていた。


「お前はこれから見せしめに殺さなきゃならないねぇ? あんたの親父さんが私達との約束を破ったんだからねぇ?」


「い、いやよ!? 」


「嫌かどうかはアタシが決める! まずはそのおしゃべりな舌から切り取ってあげようか? ああ! 死に怯える生き物を見るのはどうしてこう高ぶるんだろう! ほら!来な! お前はこれからっ………。」


「いやぁぁだぁぁあ……あれ?」


 肉を突き刺す独特の感覚のあと女は肩から血を吹き出した。肩に突き刺さった時に細剣をねじったため大動脈を傷つけたのだろう。


「……死んだか。ずいぶん呆気ない。」


 鮮血を浴びながらそんなことが自然と口からこぼれる。


「や、やぁだ……あなた誰………?」


 可哀想に、服もあちこち擦りきれ、ホコリまみれになっていた。今も私を見て腰を抜かしたのか尻餅をついて固まっている。


「お怪我はありませんか?リリアナお嬢様、領主様の命により救出に参りました。」


 手を差しのべながら簡単に説明する。


「そ、その姿……まさか、スチュワート……?」


「はい。ですが、この姿の時はランスキーとお呼びください。」


「わ、わかったわス…ランスキー。」


「それでは、早くこの場所から離れましょう。この女を始末したとは言え、ここは奴らのテリトリー。何をされるかわかりません。」


「そうね、一刻も早く街に戻りましょう。」


「はい、その前にこちらを。」


 お嬢様に作っておいたアクセサリーを渡す。


「これは……?」


「デザインが気に入らないかもしれませんが、もしも私に何かあった時はそれが代わりにお嬢様を守ってくれます。」


「いえ、この際仕方ないわ。」


 リリアナお嬢様は文句も言わずに身に付けてくれた。

 もしかしたら、拐われた時に何か考えを変えたのかもしれない。そうだとしたら、一歩成長したのを見るみたいでなんだか嬉しいな。まあ勘違いかもしれないが。


「さあ、それではディーノスを呼び寄せます。しばらくおまち…」


 な、なんだ、胸が熱い………?

 視線を落とすと、胸から真っ赤に染まった腕が生えていた。


「こ、これは……。」


「おやおやおや……アタシを仲間外れだなんて酷いじゃないか。ちゃんと忘れずにいてくれよなぁ?」


 背後からそんな声がした。

 そんな、あり得ん………たしかに始末したはず……。

 その声はリリアナお嬢様を連れ出したあのサイコ女のだっだのだ。


「なんでだって顔してるねぇ? お前は油断しすぎだねぇ、《赤沼》のボスであるアタシを舐めちゃあ、いけないよ? こんな風に死んじゃうからねぇ!」


 胸から腕が乱雑に引き抜かれ、蹴り倒された。


「ゴホォッゴホッ !」


 地面に投げ出され、肺から空気が抜けるような感覚があった。痛覚が元から半減されているからか、あまり現実味がないが、かなりヤバイ状況だ。


「んー、なぜ《赤沼》が赤沼たるか。それを知らないできたみたいねぇ。これ、わかる? 」


 女は気持ち悪い笑みを浮かべながら腕を見せた。

 彼女の二の腕あたりから赤い鱗に被われ、手はモノを引き裂くだけのためにあるかのような鋭い鉤爪が生えていた。


「貴様……人ですらなかったか……。」


「ん、半分せいかーい。アタシはね、とある魔物と契約してるの。だからね、強いのよ。まっ、あんたは今からその魔物のエサになるんだけどねぇ!」


「く、エサになんぞ………なって……たまる、か。」


「アハハハハハ! いいね! いいわ! そういう気骨がある男の方がかの魔物も喜ぶわ。 さ! 来なさい!」


 女が声を張り上げるとしばらくの後、地面が揺れだし、這い出るようにそいつは姿を現した。


 のっぺりした薄い身体にテカテカと光る赤い身体。大きく裂けた口には三列にもなる歯が並んで、噛まれたらひとたまりもないだろう。ぶよぶよとした皮膚は刃が通りにくそうである。そして、そいつは何よりもアレに似ていた。


「…………サンショウウオ?」


「フフン、こいつがアタシ達が《赤沼》と言われる由縁さ。 まあ話は済んだ。エサを食べてまた私に力を貸しなさい!」


 女が叫ぶと赤いサンショウウオはガバリと口を開けた。

 丸呑みにするつもりか?


「グェェェェェェェ!!」


 足元から咥えられるようにゆっくりと奴の口に引き摺りこまれていく。


「あ、ああ……いやぁ! やめてぇ! スチュワート、起きてぇ!起きてよぉ!」


 お嬢様の悲鳴が聞こえるが、身体が痺れたように上手く動かない。そのまま呑み込まれてしまった。


「やめて! 吐き出してよ! この!この! 」


 真っ暗で狭いそして、めっちゃ臭い。あとお嬢様叩かないでください。それ地味に骨が動いて痛いんです。


「あんたはこっちにくるんだ!」


 少し狭い感覚がなくなった。もしかしたら胃についたのか?

 手は……よし動く! 【タフネス】のおかげでじわじわ回復していた、もうすぐで身体の穴も塞がるだろう。


「やだぁ! スチュワートぉお!! 」


 お嬢様の声も聴こえる、早く脱出しよう。


「うるさい子だね! 」


「キャァッ! 痛ッ!」


 《警告:主が攻撃を受けています!》

 《主の強い望みを感知。緊急自体につきスキルを限定付与します》

 《【再生者(リジェネーター)】【暴虐】【呪撃】が限定付与されます》


 システムの声の後になんだか力が湧き出るような感覚があった。スキル欄を確認すると、先ほどの3つのスキルがあった。


 よし、これならなんとかなりそうだ。

 脱出すべく懐からナイフを抜き出すと胃の壁に切りつける。

【暴虐】の効果により力が何倍にも膨れ上がった一撃は胃をあっさり切り裂き、大量の血が吹き出した。


「わぶっ!? きたねぇ!」


 そして血と胃液まみれになりながらも内部から肉を解体するように切り進んでいった。







「グッ……グギャアアアアアアアア!!」


「なっ!? どうしたんだい?!」


 リリアナを連れていこうとしていた女は急に魔物が暴れだし、困惑した。契約したことにより魔物の感情がある程度わかる彼女は魔物が耐え兼ねる苦痛に苛まれていることがわかったが、原因がわからなかった。


 魔物は痛い痛いと騒ぐだけで女の質問に答える余裕すらないようであった。


「クソッこいつがまともじゃなきゃアタシが力をつかえないじゃない! 」


 リリアナはその隙を逃さなかった。女が魔物に気をとられているうちに駆け出した。訳もわからず逃げるのは悪手であるが、【悪魔の耳飾り】からニュッと出た矢印が道を差し示してくれた。

 ミミック・デーモンが気を利かせて、ディーノスの居場所を探知しリリアナに教えているのだ。


「……チッ仕方ないね、まあお嬢ちゃんだけならアタシだけでもなんとでもなるか。さあ、きな!」


 しかし、反応する筈の少女の悲鳴はなかった。不審に思い少女に括りつけていた縄を引っ張る。


「イタッ。」


 勢いよく引っ張った縄が鞭のように飛んできて女の顔を打った。よく見ると、縄はスッパリと切られていた。


「あのクソガキっ!」


 縄が飛んできた方をみると少女が一生懸命走っている姿がかろうじて見えた。


「あんまり使いたくなかったけどそうも言ってられないね!【逆風】。」


 女が魔法を唱えるとリリアナに強い向かい風が吹き始める。それはだんだんと強くなり、地面に伏せていないと吹き飛ばされかねない状況に陥った。


「ぐっ、はやく………逃げなきゃ……いけないのに。」


 リリアナは地面を這いつくばって進む。ミミック・デーモン達も背後からくる女に最大限警戒をしつつ、リリアナをサポートする。


「這いずりながら逃げるお嬢様……んーいいわねぇ。」


 そんな声が背後から大きくなってくる。


「そんなので逃げてるつもり? ほら? 走らないの?」


 ―――逃げなきゃ! 逃げなきゃ!


 背後からの声をかき消すようにリリアナは自分を叱咤する。

 しかし、女は既に彼女のすぐそばまで来ていた。


「チェック。」


 女は短剣を抜きリリアナの足目掛け振り下ろす。ミミック・デーモン達がすかさずガードしたのでリリアナには届かない。


「チッ! 使い魔の類か? 小癪な!」


「【火玉(ファイヤーボール)】!」


 ミミック・デーモンが牽制するように腕を振り回し、たまらず一歩退いた女に向けてリリアナは魔法を放つ。


「ぐっあああっ!?」


 女はとっさに回避しようとするが、ミミック・デーモンの一体が腕を伸ばし、女の足を掴んだ。

火玉(ファイヤーボール)】が女の顔に命中し、火傷の痛みに怯んだ。


「今のうちに!」


 リリアナは急いで立ち上がると、女から離れる。


「………ぐぎぎ。私の顔によくも!【沼地化(スワンプ・ダウン)】」


 女を中心に地面が波立ち、田んぼのようなぬかるんだ湿地になる。リリアナもそれに巻き込まれ、膝まで沼に沈んでしまった。

 

「ぐっ! ぬ、抜けない!」


 ミミック・デーモン達が頑張って引っこ抜こうとするが、彼らも地面に力を入れると腕が飲み込まれてしまい、踏ん張りが効かない。


 それを見た女は顔を不気味な笑顔に歪めながら近づく。火傷により赤黒くなった彼女のその顔は悪魔より悪魔らしかった。


「やっと捕まえたぁ。はい【沼の拘束(スワンプ・バインド)】。」


 泥が生き物のように蠢き、リリアナを捕らえる。ミミック・デーモン達も抵抗したが、数に圧され取り押さえられた。


「おっと、呪文を唱える悪いお口はとじちゃいましょーねー。」


「ンンッ!」


 リリアナの口にも泥が被われ、しゃべることすらままならない。

 女はナイフを取り出し、もてあそびながらリリアナに近づく。


「さあ、どこから削いでやろうか。アタシに傷を付けたんだ。簡単に死んだらこまるんだよ。腕の皮? 頭の皮? 顔? それとも胸? 」


「ンンン!!」


「いいわ! その顔! 最っ高。恐怖に怯えるその顔!」


「ンンン! ンンン!!」


「それじゃあ、ま・ず・はそのかわいいお目から剥ぎ取っちゃう! 最高の悲鳴をあげなさい!」


 女のナイフが狙いを定め、リリアナに迫る。


「ギャアアアアアアアアアアア! 腰がぁぁぁぁぁぁ!」


 しかし、獣のような悲鳴をあげたのは女のほうであった。


 リリアナは女を蹴り飛ばした人物を見て目を見開き涙をながした。


「ンンン!(スチュワート!)」


「助けに参りましたお嬢様。」


 執事はそう言って、不敵な笑みを浮かべた。

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