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《新世界オンライン》 執事は実は最強職?  作者: どら焼きドラゴン
第2章 《悪魔の血》と悪魔達
19/30

第19話 《赤沼》へ突っ込むぞ

「はぁーい、どうもーエリカ・エルガでーす。今日は異世界オンラインベータ版やっていきたいと思いまーす!」


 私はエリカ、配信者として活動している。

 本名は違うが配信するのに個人情報を発するのは利用契約的にも社会的にも不味いので、エリカ・エルガという配信者名で通している。


『お、はじまった!』

『エリカちゃああああああん!』

『これが《異世界オンライン》かー、早く製品版でないかなー』

『公式から発表あったぞー来月に予約受付開始だって』

『おー!』


「はいはーい、それじゃ今日は森エリアに向かっていきたい

 と思いまーす!」


 ここで少し跳ねて、胸を強調する。こうすると、ウケがいい。


『おおおお…』

『相変わらずすげぇ』

『肩こりそう』

『あああああああああああかわいいいいいいいいいいいい』

『この笑顔、いい…』


 ほら、いい感じでしょ?


 エリカとしてのアバターは私の夢と希望を完全に取り入れたからね。身長はあんまり変えられないから165センチくらいに、手足はスラリと細く、白く美しく見えるように。胸は当然Gカップ!!これだけは譲れない! 更に! 髪は大海のように深い青、目も青くしてアンバランスを出さないようにしたのだ!


 まぁ、拘り過ぎてアバター製作に1日費やしたのはナイショ。


 さっ、気を取り直して森エリアに向かおう。


「さあ、きてピーさん!」


「ケケケーン!」


 腕に装備しているミサンガからグレーターチキンのピーさんを呼び出す。

 グレーターチキンは街から出て直ぐの草原にいるプレーリーチキンの進化個体らしく、体長は2メートル以上もある。



『ピーさんww』

『相変わらずエリカちゃんはww』

『ネーミングがww』

『おーグレーターチキンだ。』


「もー酷いですよぉ。ピーさんもそう思いません?」


「ケケケ?」


 ピーさんは首を傾げるだけであった。頼りないチキンである。


「さて、それでは森エリアに行きたいと思いまーす。あ、ちなみに森エリアに行くには騎獣を持つのが条件になってるみたいなんで、森に行きたい人は《獣の社》という店で騎獣を購入しましょうね。」


『あーだから前回あんなに金集めてたんだー。』

『ああ、街のお使いクエストを沢山やってたもんな。』


 この森への情報は掲示板から仕入れた。配信してない時に下見に行こうとしたが、門番の人から森へは行けないと言われてしまったのだ。理由を聞いてもギルドに聞いてくれとしか言わなかったので、手っ取り早い掲示板を見たのだ。


「さぁ、街の外にいくまではのんびりいきましょう。」


『おー』

『おー』

『おぉン』

『↑汚いの混ざるなw』

『草』


 うん、コメントもいつも通りだ。

 ピーさんに跨がり、リスナー達とたわいもない会話をしながら街の外に繋がる大通りを進む。

 のんびり進むピーさんの頭のアホ毛を会話のネタにしつつ、配信用のカメラに写るリアルの方の現在時刻を見ながら今日は長めにできそうと考えていると、急にピーさんが足を止めた。


「おや?ピーさん?」


 私が声をかけてもピーさんはとある方向を向いたまま固まってしまっている。首筋を撫でようとすると、ピーさんが震えていることに気付いた。


「ピーさんが怯えている?」


『え? 何? 何?』

『ファーwwトラブルキター!』

『ピーさんのアホ毛がピンと立ってるな。』

『毛もなんか逆立ってない? なんか来てるのかな?』

『ピーさんが何を見ているか見てみたい!』


 コメントから言われたように私も気になり、ピーさんが向いている方を見た。

 外へ向かう大通りとは逆方向の奥、そこにピーさんは視線を固定していた。

 あそこはたしか領主が住まう御屋敷だった筈……。


『ん?なんか黒いのがこっちきてね?』


 そのコメントを読んだ瞬間それは現れた。


 鼻から火の粉が呼吸するごとに吹き出す巨大な黒馬にまたがる赤黒いローブの男が、大通りを進んでいたのだ。


『え、何アレ。』

『やべー厨二心が擽られる!』

『ヤメロォ!(建前)ヤメロォ!(本音)』

『でもかっけー! あれ?エリカちゃん?』

『エリカちゃんー?』

『配信固まってる?あれ?』


 周りを見渡してみると、街の人達やプレイヤー達は何とも思ってないようだが、荷台を引く牛型のモンスターや他のプレイヤーがまたがるグレーターチキン達が軒並み怖がっているようだった。


「どうやらあの馬にピーさんが怯えているようですね。早く離れてしまいましょう。」


 そう言ってピーさんに合図を出すが、リスナーからは不満が出た。


『えー、なんかのイベントっぽくない?見逃していいの?』

『私ははやく離れた方がいいと思う』

『話しかけてみたら?NPCぽいし。一度きりのイベントかもよ。』

『森に行くよりあの馬とローブの人見たい!』



 いや、話しかけるって…かなり勇気がいるし、いきなり話しかけたら警戒されちゃうし……。


「うーん、どうしましょう?」


「………すまない、進まないのなら道を譲ってくれないか?」


「うえっ?」


 顔を上げるとあのローブの男がこちらに話かけてきていた。


『あっ(^o^ )』

『ヤバ(笑)』

『直ぐ近くに来ていたww』


「すまない、先程から道を塞いでいるようだったから後ろの者がつかえてしまってるんだ。」


「え?」


 後ろを見てみると、確かに沢山の荷馬車や騎獣に股がる人達がつかえていた。どうやらふらふらとピーさんを歩かせているうちに、道のど真ん中で留まってしまっていたようだ。


 え、何これめっちゃ恥ずかしい。


「…あ、す、すいません。」


 直ぐにピーさんを歩かせ道を譲る。ピーさんはガタガタ震えていたが、なんとか歩かせた。


「ど、どうぞ」


「すまないな。」


 そのまま男は通り過ぎようとした。


 しかし、このままでは配信が滞ってしまう!

 ええい! ままよ!


「すいません! 」


「……まだなにか用でも?」


 男は馬を止め、振り向いた。


「今からクエストですか?」


「クエスト? ああ、依頼のことか。まあ、そうだ。」


「それは討伐系ですか? 採取系ですか?」


「………討伐系だ。」


「ならば私を雇う気はありませんか? 私は剣士ですから前で戦うことができますよ!」


「……前衛職か。」


「そうです! もしよければ、一緒に!」


「…………。」


 言った!言ってしまった! というか、めっちゃ強引で厚かましい人じゃんこれ! 黙ってしまったよ!


『おぉう、意外と強引』

『うわー』

『どうしてそうなったww』


「……いいだろう。」


「え? 」


「……雇おう。」


「あ、ありがとうございます!」


 やったー! なんかイケた!


『おー!』

『おめでとう!』


「依頼内容については移動しながら説明する。時間がないのでね。」


「はい!」


 ピーさんに股がり、付いていくように促す。ピーさんは一旦こちらを見て『マジ?』というような目をしたが、無視した。


「ほら、いくよピーさん。」


 ピーさんは諦めたように歩きだし、馬の後を付いて街の外へと向かった。






「はぁ。」


『どうした主?』


「いや、最近の若い子はわからないなと思ってね。」


 ディーノスの後ろをトコトコ付いてくるグレーターチキンをチラリと見ながらそんな会話をする。


 エリカと名乗った彼女は街の途中で連れてってくれと話しかけてきた。最初は断るつもりであったが、若い子が知らない人にあそこまでアプローチするのはかなりの勇気がいるだろうという経験的な同情と、ディーノスの助言から雇うことになった。


『だが真正面から突っ込むデコイ()がいれば警備もそちらに行きがちになる。』


「そうだな。だが、最初はお前を突っ込ませようかと思っていたがな。」

 

『まあ我も突っ込むのだが、人間がいた方が相手の気持ちも変わるものさ。』


 なるほどね心理的に焦らせるのか。


『ところで主よ。』


「なんだ?」


『こちらで合ってるのか? 森の中に《赤沼》のアジトが?』


「ああ心配するな。領主様からの情報にダナーが持っていた勢力図、それから私の特殊スキルによってお嬢様の居場所が特定できるからな。」


 執事の特殊スキル【あなたの仰せのままに】は主に定めた人物からの命令をこなすためにありとあらゆるスキルが限定的に取得しやすくなるスキルだ。

 こいつの副効果で主に危険が迫っている時等に本人が助けを求めれば居場所を教えるというのがある。


 それを使うと森の中にある《赤沼》のアジトの一つから反応があったのだ。





「………そろそろか。」


 ディーノスから降りると、後ろにいるエリカに合図を出す。

 目標地点の近くにまできたのでここからは二手に別れるのだ。


「あの、作戦の概要を教えてくれませんか?」


 エリカからそう言われて、自分がまだ説明していなかったことに気付いた。


「ああ、すまない。つい、考え事をしていたら忘れていたよ。」


「ええ…。」


「まあ、作戦といっても簡単だ。この500メートル先に《赤沼》のアジトがある我々の仕事はそこにいる人質の救出だ。」


「あ、盗賊討伐系の依頼だったんですね。」


「その為に、君が真正面から斬り込んでくれ。君の仕事は赤沼の注意を引いて貰うことだ。」


「はいはいなるほど………うぇっ?」


「よし、ならば早速取りかかろう。ディーノス、彼女と一緒に一暴れしてこい。」


『承った。』


 エリカは狐につままれたような顔をしたまま突っ立っていたが、ディーノスが先に行ってしまうと、弾かれたように追いかけていった。


「さて、私も急ぐか。こいつも試したいからな。」


 背負っている試作品を確かめ、ディーノスらとは違った方向から《赤沼》のアジトを目指した。









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