第18話 細工と……
仕事きつい&腹痛い(´・ω・`)
はい、ログインしました。
昨日はお嬢様をベッドに寝かしつけた後に箱を作ろうとしたが、運営から呼び出しがありログアウトせざるをえなかった。
仕方ないのでミミック・デーモン達にはとりあえず倉庫にあった空き樽に入ってもらい我慢してもらった。
「よし、今日はお嬢様の呼び出しがくるまでに箱をつくるか。」
細工の工房に移動する間に二つの樽が転がりながら付いてくるのはシュールであった。
工房に入り、どういった箱にするか考える。
ミミック・デーモンは二体いる。小箱二つをお嬢様に持たせる訳にもいかない。それならば対になるようなアクセサリー、つまりピアスやイヤリングがうってつけだ。
【執事セット】にある【細工セット】を取り出し、材料が置いてあった棚から真鍮のインゴットを持ってくる。
とりあえず真鍮でアクセサリーを作ってみよう。
真鍮は比較的加工しやすい金属に入る。
炉に火を入れ、真鍮のインゴットを加熱する。
しばらくすると柔らかくなるので、取り出してハンマーで薄く伸ばしていく。
薄く伸ばしたあとに一旦冷ます。うんアイテム名も【真鍮の薄板】になってるな。
ここから製作者のセンスや技量が問われる。【真鍮の薄板】を2つに切り分け、ハンマーでちょっとずつ曲げていく。耳飾りになるからあまり重すぎてはいけないのだ。
【細工のススメ】を先に読んでおいて良かった。本によればあまり重すぎるアクセサリーを作るとバフの効果が失くなり、デバフの効果ばかり付くようになるそうだ。
板をさらに円形に切り出し、中心叩いて半球の形にしていく。それを4つ作り、手に持って重すぎないか確認する。
うん、これなら大丈夫そうだ。
半球にしたら側面に彫刻刀で模様をいれていく。ちなみに【細工セット】にある金属用彫刻刀なので、筆で絵を描くようなものである。
これならば、リアルで細工をやったことがない人でもやりやすいだろう。
彫刻刀を握りどんな模様にするか悩んでいると、うっすらと影のように模様が浮き出た。こいつをなぞるように削れということだろうか?
おや? 何かスキルが発動しているのか。
【悪魔のセンス】がどうやらこの模様を写し出してくれてるようだ。
【悪魔のセンス】
・悪魔的なセンスが身に付く。悪魔は優雅で美しくあれ。それは戦闘でも生産でも変わらない悪魔の礼儀作法である。
う、うーん。私にはちょっと手に余りそうなスキルだ。
だが、使えるなら使えるまでである。
彫刻刀でカリカリと模様をなぞる。金属なので力加減を間違えれば大惨事間違いなしなので、慎重にやった。
そのためしばらく時間はかかったが、ようやく一つ完成した。一つ作ればあとは慣れたモノ、流れ作業で作っていく。
そして、削り上げた2つの半球をつなぎ合わせ、金具を取り付ければ耳飾りの出来上がりである。あらかじめ半球には溝をつけているのでカチリとはまった。うむ、サイズもぴったりである。
それがこれだ。
【真鍮球の耳飾り】評価:6
・真鍮で作られた耳飾り。施された彫刻により、耐久力が上がっている。中は空なので何か入れることができそうだ。
《彫刻効果》
・耐久力上昇
・緊急回避(一回のみ)
【細工】はあまり触ってないつもりであったが、あの情報屋での床下修理でレベルが上がっていたのだろう。なかなか良い評価のものができた。しかも【緊急回避】の効果があるのがデカイ。
「よしお前達、完成したぞ。」
完成品を持って振り返ると、ミミック・デーモン達は既に樽から抜け出して待機していた。全裸待機というやつである。
【真鍮球の耳飾り】を二人に渡すと、しばらく靄の中に取り込み吟味しているようだった。そして、及第点だったのか球体部分に吸い込まれるように入り込んでいった。
ミミック・デーモン達が入った後の耳飾りは暗い金色から明るい金色に代わり、デザインも少し変わっていた。効果が変わったのか気になり、アイテムストレージに入れて確認してみる。
【悪魔球の耳飾り】評価:6
・悪魔が取りついた耳飾り。真鍮が元の為あまり耐久力はないが、悪魔の彫刻によりその懸念は解決している。認められれば絶大な加護を獲られるだろうが、彼らの許可なく身に付けた者は魂を抜かれるだろう。
《彫刻効果》
・耐久力上昇
・緊急回避(一回のみ)
《悪魔効果》
・悪魔の守護
・悪夢の双腕
おお、なかなか凄いことになった。
これならばお嬢様も安心して外に出られるようになるだろう。一人で出ていくことは流石に領主様が許さないだろうが、私が護衛に付きさらにこの耳飾りで守らせれば、最低限の許可は出るだろう。
《赤沼》の奴らはダナーが任せとけと言っていたからしばらくは大丈夫そうである。ちなみに【勢力図】は返している。あれは私には必要ないからな。まあ、そのうちまた顔をだしにいく予定である。
さて、嬢様が目覚めればおそらくまた私を呼び出すだろうし…、ああそうだ念のためにアレを作っておこう。
『スチュワート!今どこにいる!?』
領主様から連絡がきた。何かあったのだろうか?
「地下の細工アトリエですが? 如何なされました?」
『リリアナが! リリアナがいなくなったのだ!! 貴様護衛執事だろう! 何をしておる!!』
「お嬢様はお部屋でお休みになられていました、あの部屋はこの屋敷で一番安全な部屋だとメイド長から聞いていましたので、離れておりました!」
『くっ! 確かにあの部屋ならば……しかし、部屋からはいなくなっている! しかも、紙があったのだ!』
「紙?」
『ああ、【貴様の娘は預かった。これから起きる騒ぎには兵を出すな、さもなくば娘の命はないと思え】だと書いてある! おそらく《赤沼》の仕業に違いない!赤いトカゲの模様があるからな。』
「では私がいきましょう! 私ならば旦那様の部下ではありませんので言い訳が立ちます。」
『もとよりそのつもりだ! 武器庫を開かせる! 好きなモノを持っていけ。 そして、必ず! 必ず娘を助け出せ!』
「かしこまりました、必ずやお嬢様は助け出してみせましょう。」
これは私のミスだ。屋敷のセキュリティを過信していた。
「《赤沼》め、やってくれたな。報いを受けさせてやる。」
目の前の作業台に鎮座する試作品を背負うと、急いで武器庫に向かった。
武器庫には既に領主の兵が待機しており、到着と同時に門を開けてくれた。
「旦那様の命により貴方をサポートするよう言われた。必要な武器を教えてくれ。案内する。」
「細剣、レイピアのような突きに特化した剣と、マインゴーシュを。それと矢をあるだけくれ。」
「わかった、それなら直ぐに持ってこよう。」
話が早くて助かる。変な質問をするような人でなくて良かった。
それにしても、武器の支給は助かった。ディーノスを召喚する時に【初心者の剣】は供物に捧げてしまったからな。
「持ってきたぞ。矢はこの箱だ。100本の矢が入っている。」
兵士が持ってきたのはレイピアだった。飾り気もなく実用重視の黒い鞘に入っていた。刀は両刃で突きにも切ることにも使えそうである。
何度か振って癖を確かめる。ふむ、これならまあ及第点であろうか。
マインゴーシュは普通のナイフのように見えるが、防御特化の武器なのでこれでいいのだ。
「感謝します。」
「ああ、お嬢様を頼むぞ。」
用意してくれた兵士に礼をいい、裏口に向かう。正門から出れば、領主が嘘を付いたと早とちりされかねないからである。
「来い、ディーノス。」
裏口近くの小屋でランスキーの装備に変え、ディーノスを呼び出す。
「うむ、話は聞いている。乗るがいい。」
「話が早くて助かる。」
「我はあの娘は好かんが、主のためだ。力を貸そう。」
ディーノスは口から火の粉をチロチロさせ、意気込みを感じさせる。先程【細工】で作っていた馬具を装備させ、手綱をつかみディーノスに跨がる。
「門をあけろ。」
裏口の門番に合図を出すと、落とし格子が開く。
「だせ! ディーノス!」
その掛け声と同時にディーノスは飛び出し、力強い蹄の音を鳴らしながら街へと向かっていった。




