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《新世界オンライン》 執事は実は最強職?  作者: どら焼きドラゴン
第2章 《悪魔の血》と悪魔達
16/30

015 悪魔の呼び笛

久しぶりに書く暇ができたので投稿です

「ふーん、昨日の騒ぎは有名な犯罪集団の《赤沼》の仕業という見解が濃厚……ね。」


 そう呟きながら、リリアナはヴァームクーヘンを口に運ぶ。

 ここは、あの領主が愛娘の為に作らせた温室庭園だ。昼の陽だまりが差し込むこの温室に設えられたこのテーブルから眺める景色は目を見張るものがある。


 しかし、それはリリアナには見慣れたものらしく、それには目もくれず号外新聞として配られたビラを読み耽っていた。


「先ほどの爆発音はそれだったのかしら? それだったら私も見てみたかったわ。」


「いけません、お嬢様。旦那様がまだダメだとおっしゃってます。」


「私はいつになったら出られるの!?」


「…………それは今はお答えできません。」


 治安悪化の原因が解るまで外出禁止と言われたとは言えない。


「もう! パパもスチュワートも同じことばかり言って! 」


 リリアナが声を荒げ、ティーカップをガチャガチャ鳴らした。


「そう言われてもダメ………。」


「うわぁあああああん!! やだやだやだぁ!」


 床にスプーンを投げ捨て、とうとう泣き叫び始めた。公では絶対に外に見せられないような醜態だが、年相応の女の子の癇癪である……っ痛! ティーカップ投げつけてきたの!?


「ちょ、お嬢様!」


「わぁああああああん!!」


 ああもう、どうやって宥める? ディーノス、何かアイデアはあるか?


『我に振るか……。そうだな、主殿は確か菓子作りのスキルがあったはず、それで気の引く菓子を作ったらどうだ?』


 無理だ、私はクッキーとチーズケーキくらいしか作れないし、まず材料が足りない。


『ふぅむ…………ならば、先ほどのブラックマーケットのやつらから礼にもらった品を使って、我の同胞を呼び出したり……とかか?』



 あ! それだ! それで行こう。確かにいろいろもらったもんな。

 よし、どうにかして興味を引こう。



「ンン、お嬢様。実は私先ほど外に用があると出ていましたよね?」


「……それがどうかした?」


「えぇ、実は私その時にとある場所からおもしろそうなモノを頂きまして……。」


「………どういうの?」


 リリアナは少し興味を抱いたようだ。


「残念ながら、ここではお見せすることはできません。……少し特殊なモノでして、私の騎獣……【悪魔】系統を召喚、使役する力がある呪具です。それを使って新たな私の従僕を召喚します。」


「つまり?」


「私達の戦力が増せば、旦那様が外に出ることを多少考え直してくれる可能性があります。」


「っ! それはいいわね! さっそく召喚しにいきましょ! 」


 よし! 食いついた! 機嫌もある程度直して貰えたようだ。


「では、悪魔召喚の書物の準備をしてきます。地下の《召喚研究室》にいきましょう。」


「そうね! 準備ができたらよびなさい! 」



 ふぅ、なんとか立ち直ってくれたよ。



 ◆◆◆


 この屋敷の地下にはいくつかの生産用の部屋がある。《錬金研究室》、《細工工房》、《織物工房》など様々である。普段は屋敷に住み込みで働く専門職のNPC(住民)が生産を行っている。


 元は、屋敷に籠りっぱなしのお嬢様のためにと領主が作らせたらしいが、手芸には興味があまり湧かなかったそうだ。


「さて、ここだな。」


 ドアにかけられた板には《召喚研究室》と書かれていた。やはり、あまり使われていないようで埃が積もっていた。


「………先に掃除から初めよう。呼ばれる方も、汚い場所に呼び出されたら気分が悪いだろう。」


【ボロい掃除セット】を取り出し室内を軽く掃除していく。壁にかけてある召喚用の触媒らしき何かしらの生物の角や、瓶詰めにされた赤黒い眼球、古ぼけた彫刻なども1つ1つ丁寧に手入れをしていく。


 床に彫ってある魔法陣にも埃がたまっていたので細い棒に湿らした布を巻き付けて、なぞっていく。


「………よし。このくらいでいいだろう。」


 あらかた片付けが終わると、次は召喚の準備だ。


 アイテムストレージから【召喚本・悪魔】を取り出し、【読解】で召喚の手順を追っていく。


 ふむ、なるほど。悪魔を呼び出すには主に《供物》、《触媒》、《魔法陣》そして《召喚本》を使うようだ。《触媒》はあってもなくてもいいらしいが、より強い悪魔を呼び出せる可能性が上がるようだ。


 《供物》は呼びかけに応えた悪魔に契約を結ばせる時に機嫌を良くしてもらうためにするらしい。まあ、菓子折りみたいなものだ。ディーノスのように自ら求める悪魔もいるようなので大量に用意することにこしたことはないだろう。


「よいしょ………。」


 食糧備蓄倉庫から持ってきた大量の野菜やプレーリー・チキンの肉を大皿に盛り付け、魔法陣の前にある祭壇のような場所に置く。そして、付けているモノクルからディーノスを呼び出した。


「んん! どうした主? 私をこんな場所で呼び出して?」


「今からお前の新しい仲間を呼び出す予定だ。契約しやすい知り合いとかいたら少し呼びかけの手伝いをしてほしくてな。」


「……契約しやすい知り合いはいるにはいるが………あやつを呼び出すのは…………。」


 心当たりはあるようだが、ディーノスはあまり気乗りしないようだ。こりゃ期待しない方がいいかもな。


「まあ、呼び出される方も、仲間がいたら話安いかもだ。付き合ってくれ。」


「うーん、かまわないが………正直我も知り合いが多い故に誰が来るのか予想が付かんのだ。それでもいいか?」


「かまわないさ。元を言えばお嬢様のボディーガードに最適な悪魔が欲しいだけだからな。」


 そう言われたディーノスは少し表情を和らげた。ちょっと気負っていたのかもな。




「……ふむ。貢物はまあまあ結構な量があるが、【触媒】となるものはまだ使わないのか?高位の悪魔が来やすくなる効果があるのだが……?」


 しばらく準備を進めていると、ディーノスからそんなことを言われた。


「いや、迷っている。実はこんなものを手に入れてな。」


 ストレージから例のモノを取り出し、ディーノスに見せた。


「なっ!? 主、こいつを何処で?!」


「ちょっとした知り合いに礼の品でもらったものだ。正直私の手に余るものでな。」


「それもそうだろう。こいつは【悪魔呼びの笛】だ。それを使えば召喚陣を介せずとも魔界やダンジョンから悪魔を呼び寄せることができる。触媒にすれば召喚陣の通りが良くなってより、高位の悪魔が呼び寄せれるだろう。」


 なるほど、かなり貴重なものだが、使う価値はあるかもな。


「よし、では【悪魔呼びの笛】と【聖なる本】を触媒にしようか。」


 聖なる本はあの勇者くんをキルした時に手に入れたモノだ。読んでみたがこの世界の神話しか載ってなかったし持っていても役に経たない。そのくせレアリティは高いので触媒にはちょうどいい。


「ほう?それは【聖なる本】だな。それを使えば下級の悪魔はまず召喚に応じないのだが………そんなのは主の望みではなかったな。」


 そんな効果あったのか。それは僥倖だったな。


「よし! 準備はできた。私はお嬢様を呼んでくるよ。」




 ◆ ◆ ◆


 ………コンコンコンッ


「そう! ようやく準備できたのね!」


「グハッ!?」


 部屋に迎えにいくと、ノックした瞬間に勢いよくリリアナが扉を跳ね開け吹き飛ばされた。


「………ん? どこよスチュワート?」


「………ここでございます。」


 イテテ………ドアノブがダイレクトに腹にきたぜ。


「もう! だらしないわね。早くいくわよ!」


 誰のせいだ誰の……いかんいかん、腹の痛みを我慢しながら執事としての仕事を全うせねば。


「かしこまりました。それではご案内させていただきます。」




「………で、これで本当に呼び出せるの?」


「はい。もちろんでございます。」


 リリアナに一通りの召喚の手順を伝える。


 簡単に言うと、私が術を発動させ私が契約するのだが、そのあとにその悪魔をリリアナの専属騎士としてつけるつもりだ。専属騎士がつけばあの親バカでも上町までなら許してくれるだろう。


 もし癖の強い悪魔や危ない悪魔なら私が押さえつける必要があるがな。


「それではいきますよ。」


「ええ! 期待してるわよ!」


「【来なさい来なさいおぞましい者よ。開いてる、開いた。次元の門が………】」


 召喚書にあったフレーズを思い出しながら歌う。恥ずかしい一面もあるが魔法陣が歌に呼応して光を発してる。……ここからだな。歌の続きを唱えよう。


「【来なさい来なさい強き者。呼ぶ者がいるよ、呼ぶ者がいるよ。荒ぶる者よ来なさい来なさい…………。】」


 あとは反応があるまでこのフレーズを繰り返すだけだ。


『ディーノス、反応は?』


『まだだ、知り合い達は門の前までは来ている。しかし入ろうとすると弾かれるそうだ。おそらく【聖なる本】が邪魔をしてい……………ッ!?きたぞ!』


 ディーノスから強い思念を感じると同時に魔法陣が光りを失う。


 代わりに全てを飲み込むような漆黒の渦が巻き起こり、中から誰かがこちらに歩いて来る。


 その影を見た瞬間に酷い寒気が身体を突き抜けていくのを感じた。足の感覚がなくなり、立っているのかいないのかわからない。


 ………これが死の恐怖か?


 どうやら私はあまりの恐怖を感じると冷静になるタイプだったようだ。不思議と焦りや逃げ出したいという気持ちにならなかった。


『ディーノス………知り合いか?』


『知らないな。あんな強力な魔力………伯爵クラス? いやもっと強い!………いったい、いったい奴は何なんだ………?』


 ディーノスがひどく脅えている。

 リリアナをチラリと見ると、あまりの恐怖に固まっていた。

 どうやら私しかこの局面を通り抜ける人がいないようだ。



 渦の中から出てきた影は人の形をしていた。黒銀に光る甲冑を身を包みながら擦れる音を一つ立てない。


 こいつは…………ヤベェ!

 なんかカッコいい! けどヤバい!


 語彙力を失うほど冷静かつ興奮していた。


「………お前か? 魔界に扉を開いた者は。」


 兜から覗く青白く光る目が私を見据えた。





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