015 PK(プレイヤーキル)
屋根からアクト君をじっくり観察する。戦い方をみる限り、おそらく私よりレベルもスキルも強力なものを揃えている。
それに打ち勝つためには【始末】からの一撃キルだけだ。
他の《赤沼》のメンバーらしき輩はそこまでレベル差は無いように見えるが、油断は禁物である。
『あの男は気に食わん、我が片付けてやろうか?』
「お前が出たら一発で身バレする。ダメだ。」
ディーノスと愚痴を少し溢しながらも、チャンスを伺う。すると、それは意外に早く訪れた。
「ッ!! 【破槌のダナー】が現れたぞ!!」
一人の兵士が声を張り上げた。
「ダナー? 誰だそいつは!?」
「《悪魔の血》の幹部です! 我々では少々分が悪い、どうか足止めをお願します!」
「まかせてくれ!」
アクト君は嬉しそうに飛び出していく。人の役に立つのが好きなタイプなんだろうか?
後からこっそりついていくと、聞き覚えのある大声と共に激しい戦闘音が聞こえてくる。
「ウォオオオアアア!! 《赤沼》め、許さねぇぞ!」
「ギャアアアアアア!!」
ダナーの雄叫びが上がるごとに悲鳴と、破壊音がまき起こる。
なんだあれ? パンチ一撃で三人吹き飛ばすとか化物かよ。
「クソッ! 弓だ! 遠距離から狙え!」
「そうなったらこっちはハンマータイムだぜ!」
ダナーは背中に背負っていたハンマーを構えると、両手で巧みに扱い放たれた矢を払った。
「クソッ! 化物が!」
そうだな、私も同感だ。だが隙を見せたな。
「早く! アクトさんをよ…………。」
声を張り上げそうになった一人の兵士が急に倒れた。殺してはいない、体がしばらく痺れる効果のある薬を塗った針を投げただけだ。
それでも急に味方が倒れていくのに《赤沼》の連中は恐怖に駈られたようで、アクト君の元に助けを求めに逃げていった。
「まてぃ!」
……ダナーのおまけ付きで。
まあ、ダナーに気を取られているうちに好きな位置から狙える。よしとしよう。
先ほどの場所まで戻ってくると、騒ぎを聞き付けたアクト君とダナーが向かい合っていた。お互いに武器を構えて、一触即発の状態である。
「お、タイミングがいいね。」
さて、今の瞬間が最高に良いタイミングだな。アクト君はダナーに気を取られて周りが見えていない。
「君がダナーか、話は聞いている。君を逮捕すればここは完全に制圧されたことになる。大人しく縄につくなら悪いようにはしないよ。」
「ハッ! そんな話には乗らねぇや。なぁ?《赤沼》。」
お、あの建物がいいね。
少し高い建物の上に登り、様子を伺う。
「《赤沼》!? 僕は【勇者】だ!」
「ハッ!そんなゴロツキに使われるような奴は勇者じゃねぇ! 愚者だ!」
お、なかなか酷なことを言うねダナー。さて、そろそろ頃合いかな?
「黙れ! 悪魔の手先め! 僕が成敗してくれる!」
アクト君が剣を振り上げ、飛び掛かろうとするモーションに入った、今だな。
「お前はここで終わりだ!」
「……お前がな。」
建物から両手を広げるように飛び下り、彼の頭上に鎧と兜の隙間にナイフを突き立てた。アクト君は糸が切れた人形のように倒れ付し、ポリゴン状になって消えていった。
《スキル【始末】【ジャイアントキリング】が発動に成功しました》
《プレイヤー:アクトをキルしました》
《レベルが10になりました》
《プレイヤーをキルしましたしばらく、レッドネームとなります》
《【鉄の剣】【聖なる書】【8,850リア】を入手しました》
アクト君はこちらに最後まで気が付かなかったようで、一撃キルを成功させることができた。
「ラ、ランスキー!? なぜ……。」
急な出来事に目を白黒させているダナーは吃りながら尋ねた。
「なに…祭り囃子が聴こえたからやって来ただけさ。」
その言葉を発しながら周りの残党兵達に毒針を飛ばし、次々無力化する。
「ハハッ! そりゃ残念だったな!」
「残念?」
「祭りはもう終わりだ! 最後に最高のフィナーレが必要だろ?」
まさか! やべー技ぶっぱなすつもりかこいつ!?
「おい、程々にしておけよ。」
「んー? 別に街を破壊するわけじゃねぇから安心しな。」
ハンマーを振り上げガハハと笑い飛ばすダナー。笑えねぇよ。
「ほらいくぞ!」
ダナーのハンマーの中にある仕掛けが動きだし、チェーンソーのような音をあげる。ダナーが振り下ろすと同時にハンマーが型を変え、ドリルのような突起が回しながら飛び出し、地面を抉った。
「【破震爆剛槌】!!」
その一撃は初激はそこまで激しくないが、その後が酷かった。二段階で打ち付ける内部のドリルが地震発生装置のように大地を揺らし、ダナー以外の人間は歩くことさえ難しくなった。
「うわぁああああ!?」
「あのバカやりやがった!」
「うわっ! 地面がぁ! グハッ!」
「歩けねぇ! やめろダナー!」
まともに食らった偽兵士である《赤沼》のメンバー達は部分的に液状化した地面に足を取られて動けなくなったり、隆起した岩盤に顎を砕かれノックアウトされていた。
私も例外ではなく、地面に四つん這いにならないといけなかった。
「ガハハハハッ! これで全員拘束完了だ!」
「お前さぁ、ちょっとは……。」
「なーにが拘束完了だ! 街を半壊させるつもりか!?」
私が言う前にアクト君らに拘束されていた商店街の人の一人がダナーにげんこつを食らわせた。
「いてででで! 何すんだよ兄貴!」
「どうもこうもあるか! 店をめちゃくちゃにしやがって!」
マジか。この強面のおっさんダナーの兄ちゃんなのか。
「……まあ、《赤沼》の連中が全員捕まって良かったじゃないか。」
二人の中に入って仲裁をする。
「……あんたに言われちゃ仕方ねぇな。」
おっさんはダナーを離すと、こちらに向き直って頭をさげた。
「今回は助けてくれてここの商店街を代表して感謝する。礼として、俺達の商店街は全部顔パスで使えるようにしよう。俺達《悪魔の血》には恩知らずはいねぇ。だよなお前ら!?」
「「「おうっ!」」」
おっさんが声を張り上げると、先ほどの弱々しい姿を見せていた住民達が力強く賛同の声をあげた。
《住民から一定の信頼を得ました》
《【裏町:商店街】が利用可能になりました》
マジで最近忙しくなってきましたね。
そろそろ年の瀬ですからね。
皆さん体調管理には気をつけてください。作者は腹を盛大に破壊して地獄の苦しみを味わいました(^_^;)




