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《新世界オンライン》 執事は実は最強職?  作者: どら焼きドラゴン
第2章 《悪魔の血》と悪魔達
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012 領主サリバンと無茶振り

「はぁはぁはぁ!!」


 ファスナの街のとある裏通り。滅多に人がこないこの場所は、街に仕事を求めながらも大した仕事が得られず、かといって帰る場所がない者が身を寄せあっていた。当然、治安は悪そうに見えるが、意外とみんな秩序を守ったの生活を送っている。


「待てー!! 」


「クソッ まだ追ってくるか!?」


 それもその筈、このスラムエリアには1つの巨大なグループが治めており、そこのリーダーの意向で表街の人間に危害を加えないというルールを敷いていた。


「いたぞ! あそこだ!」


「クソッ! こっちにもいやがったのか!!」


 しかし、最近リーダーが新しくなった所から雲行きが怪しくなった。

 今まで上手く住み別けが出来ていたのに、少しずつ均衡が崩れ始めた。


「逃げようとしても無駄だ!」


「捕まってたまるかよ!」


 空き巣やスリが増え、酷い時には子供の誘拐事件ですら起こったのだ。領主はことの重大性に気付き、そのグループのリーダー格の男を調べあげたが、未だにその素性は明らかになっていない。


「はぁはぁはぁ……。」


 今も自警団に追われてこの裏通りを逃げる男は、とある商人が所有する屋敷から何度も押し入っては盗んだ骨董品などを売りさばいてその日暮らしをしていた。勿論、この裏通りのグループにも所属していたが、下っ端の金稼ぎ係の1人に過ぎず、売り上げのほとんどを取り上げられていた。


「クソッ! どこに行った!?」


「探せ! まだ近くにいるはずだ!」


 しかし、彼には1つ自信があった。生まれながら人より足が速く、これまで一度も自警団に隠れ家まで追跡されたことがないのだ。今回も追手からぐんぐん距離を離し、角をまわり近くにあった箱に隠れこんだ。


「………。」


 箱の蓋を閉め、息を殺す。走り続け息は荒いが、呼吸を整える時間はある。


「クソッ! またか! 」


「何処だぁ!!」


 しばらくして自警団の二人組が近くを走っていく音がして、そのまま遠ざかっていく。


(ケッ、お馬鹿さんめ。俺はここだっつーの。)


 男は箱の蓋を開けて、外の様子を伺う。

 通りには兵士達の姿は見えず、完全に見当違いの場所を探しに行ったようだ。


「ふぅ、慣れたもんだな。」


 男は箱から出ると、服を裏返す。服は二重構造になっており、兵士達からの目から服装を誤魔化すのだ。


「……よし、いつものババアの店に商品を卸しにいこうかねぇ。今回は8万リア程にはなるだ────。」


 そう歩き出そうとした男は最後まで言葉を紡げなかった。


「──カハッ。」


 何が、という声を出そうとしても喉が焼け付くように痛かった。

 男の目には自身の首筋から伸びる赤く染まった鉛色の刃先が光って見えた。


「な……ぜ……。」


 背中に強い衝撃と共に、首に刺さっていた短剣が抜ける。それと同時に男は倒れ伏した。


「だ……だ……?」


 男は薄れていく意識の中、その人物の姿を見た。


 建物の暗闇に紛れるように立つその人物は赤黒いフェイスベールとアサシンローブを身に付け、こちらを見定めるような冷めた目で見ていた。


「………。」


 男は死にたくないと思いながらも、自身の血圧によって首の傷口から血を噴き出して倒れたまま起きることは無かった。



 その光景を淡々と見ていたその人物は死体にとある工夫をした後に建物の壁を蹴って、軽々と屋根へと登った。


 そして、屋根の先に腰を下ろしながら、【通話】を発動させる。


「……依頼完了です。」


「見事な仕事ぶりだなスチュワート。では次のターゲットにうつれ。」


「かしこまりました。」




 ……まったく、なぜこんなことになったのやら。





 ◆◆◆


 事の始まりは、ログイン2日目の朝にさかのぼる。


 リリアナと契約した私はあのあと、一旦部屋でログアウトし、録画の内容などを提出し、次の日にまたログインした。


 部屋から出て、厨房からリリアナの食事を運んだり、部屋の掃除などをしていると、急にリリアナから呼び出された。


 何事かと向かえば、部屋の中から怒号が翔んできたのだ。リリアナと対等以上に話ができる人物は限られる。つまり、その人物はリリアナの親族であることが窺えた。


「だめだ! それは認められん!!」


「いやよ! パパは従者を自分で見つけたら文句は言わないって言ってたじゃない!!」


「そうは言ったがあれはお前を納得させるための言葉のアヤだ! それすら察せないお前には外は危険なんだ!」


「パパのバカ!! もう一生口きかない!! 」


「なっ! ……おい!!」


 リリアナが扉を勢いよく開けて、扉の前で話が一区切りするタイミングを窺っていた私と目が合った。


「スチュワート! お前に命令を下すわ。パパになんとか外出の許可を取りなさい!!」


「え、お嬢様……え?」


 リリアナは吐き捨てるように言うと、困惑している私の脇を通って行ってしまった。


 《主からの【命令】が発動されました》

 《主が満足する結果を得なければ好感度と名声が下がります》

 《今の関係レベルは【良】です》


 クソッタレ!! 逃げることすら不可能になっちまった。


「……お前が、私のリリアナの従者に選ばれた男か?」


 その声で我に帰ると、部屋の肘掛け椅子に腰かけたひょろ長の男がいた。

 先ほどのリリアナの会話から彼がおそらく、リリアナの父であろう。


「はじめまして。私は昨日よりリリアナ様に仕えることになりましたスチュワートと申します。」


 そう言って腰を直角になるほど深いお辞儀をする。


「………ふーんお前がねぇ。私はこの街の領主にてリリアナの父であるグラース・デイ・サリバンだ。しかし、お前のことはまだ私は信用できぬ。」


「と、言いますと?」


「お前が本当に私のリリアナを護れるか心配でね。今、あの街にはキナ臭い噂だってある。」


 グラースは椅子から立ち上がりながらこちらを舐めるかのような目で見てくる。


「しかし、旦那様がリリアナお嬢様とお約束をなされたならば、いくら親子といえど守るのが筋であると愚考いたします。」


「なるほど、確かに貴族にとって約束を守ることは面子として大変重要だ。 しかし、リリアナにもしも何かあったら遅いのだよ。裏通りのグズどもが犯罪に手を伸ばし始めているのだ。そんな時にリリアナは格好の餌食になってしまうだろう。」


 クソッ。なかなか説得できない。このままでは任務が失敗になってしまう。この子煩悩領主め、早く納得してくれ。


「それならば、私がお嬢様の障害になるものを排除してみせます。お嬢様に汚い世界を見せるのはまだ早いでしょう。私は、たとえどんな障害があっても、全て私がお嬢様に外の素晴らしさを伝えてあげたいのです。」


 つい、熱くなって行ってしまった。すると、グラースは先ほどの否定的な表情を一変させた。


「そうか、そうか。どんな障害があっても排除してくれるのか。ではこのリストを渡そう。なぁに、簡単な仕事さ。そのリストの人間を影から始末してくれ。」


「え、あの。」


 あれ、ちょっと話が不味い方向で納得されそうな予感が。しかし、グラースは反論の機会を与えない。


「ああ、もちろん装備は支給しよう。君の仕事ぶりに期待してるよ。期限は設けないからじっくりやってもかまわないよ。そのリストに全て二重線が引かれたらこの街の治安はかなりよくなるだろう。そうすればリリアナが街に出ても大丈夫になるはずだ。」


「あの、ちょっと。」


「まーそれが私からの採用試験でもある、とだけ言っておくよ。じゃ、僕はリリアナと仲直りしに行くから後はそこにいるメイド達から説明してもらってくれ。」


 手に持っていたリストを渡すと、そのままグラースはスキップするような足取りで部屋を出て行ってしまった。


「リリア~ナ~今パパが行くよ~。」


 よりによって最後で盛大にキャラ崩壊していきやがった。


 あまりの変わり様にしばらく立ち尽くしていると、先ほど指名されたメイドさんが頭を下げた。


「……なんかすみません。普段は優秀な方なのですが、お嬢様のことになると……。」


「あ、いや。大丈夫ですよ。 それより、装備の方は用意があるのでしょうか?」


「あ、それならばこちらに。」


 メイドさんから装備が入っているという少し大きめの木箱を受けとると、さっそく部屋に戻って開けた。


 そしてその厨二チックなデザインの装備に膝から崩れ落ちるように、落ち込んだ。







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