010 リリアナ様
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ありがとう!!!
「リ、リリアナ様……。」
1人の兵士の呟きに、どよめきが起こる。
そして、兵士達は慌てて整列すると、彼女の前に跪いた。
「あなた達は下がってなさい。」
リリアナ様は兵士達にピシャリと言い放つ。
「しかし……。」
「私に何かあったらパパが黙ってないわ。大丈夫よ。」
「……かしこまりました。」
兵士達が下がると、リリアナは私の方へ向き直った。
「こんばんは。私の名前はリリアナ・サリバン。ファスナの領主の娘よ。」
そう言い、彼女はニコリと微笑んだ。
その笑顔にしばらく見とれていたが、ハッとすると、失礼のないように深く腰を折り、挨拶をした。
「私はスチュワートと申します。しがない執事でございます。」
「そう、スチュワートという名なのね。となりの騎獣はなんというの?」
「我はディーノスだ。主の忠実な僕だと思ってくれ。」
「ディーノスね。いい名だわ。 地獄獣は初めて見たけど、案外見た目は普通のモンスターと変わりないわね。」
リリアナは目をキラキラ輝かせながらディーノスの頭を撫でようと、つま先立ちになって手を伸ばす。しかし、ディーノスはそれが煩わしいようで、顎を引きながら嫌々と頭を上げていく。
「……ちょっとは触らせてよ。」
「断る。ガキは御免だ。」
リリアナは不満そうに更に手を伸ばす。
「あ、あまり刺激すると噛まれますよ。」
【地獄獣】が実際の馬とは違うだろうが、馬は噛むのだ。もしかしたらディーノスも噛むタイプの馬かもしれないからな。
「えっ! ……なら今回は諦めるわ。」
注意をすると、リリアナは手をスッと引っ込めた。やっぱり馬系のモンスターを見るのが初めてだったか、知らなかったのだろう。
「馬は過度なストレスを与えると噛むことがあります。嫌がってる時は特に注意が必要ですからね。」
「心外な……我は余程のことがなければ噛まんぞ。」
ディーノスは鼻息を鳴らしながら否定する。
そういうことなのでもう一度トライする? と聞けば、リリアナはひきつった顔をして遠慮した。
「こ、今回はもういいわ。……では、中でお茶でもいかがかしら? その騎獣とあなたについて、もっと詳しく聞きたいわ。」
「かしこまりました。」
貴族の誘いにノーの選択肢はない。断れば失礼にあたるからだ。
リリアナに案内されながら城の中に入る。内部は壁に照明が灯されている割には薄暗く、気を付けなければ大理石のような床石の繋ぎ目に足を取られてしまうだろう。
ちなみにディーノスは現在、アクセサリー化してモノクルになっている。その為、初期装備のモノクルを外し、装着した。
「ここよ。」
リリアナはとある扉の前で止まると、扉は自動的に開いた。
「自動ドア……。」
「自動ドア? まあそういう人もいるわね。さ、入って。」
部屋の中に入ると、高級そうなカーペットや様々な人形が飾られた部屋に、青の金の刺繍入りのソファと、銀のように磨き上げられたテーブルの上には二人分のティーセットが用意されてあった。
貴族の子供部屋ですらこんなに高級品ばかり揃えてあるのか……、【鑑定】系のスキルがあればもっと見てみたいな。
「座って。紅茶にミルクと砂糖はいかが?」
気がつけば、リリアナはティーポットを傾けながらこちらを伺っていた。
「ああ、ミルクと砂糖は結構です。私は甘いお茶は苦手でしてね。」
椅子に座りながら、やんわりと言う。注いで貰った紅茶は香りが良いのか、部屋の中に充満していくようだ。
「それで、あなたのあの地獄獣はどうやって見つけたの?」
リリアナは自分のカップに砂糖とミルクをドボドボ入れながら聞いてくる。
……というかそれ、甘過ぎて飲めたもんじゃないだろ。
おっと、いけない。またどうでもいいことを考えてしまったな。
「ディーノスは私がとある知人からお礼に貰ったものを何とはなしに使ったら出て来ました。その後、私と彼は利害が一致していたので、契約が上手くいきました。……運が良かっただけですよ。」
「ふーん、そう。そのお礼に貰ったものって何?」
「騎獣召喚の書ですね。虫食いだらけでとても見せられたものではありませんがね。」
まぁ実際は題名は掠れて読めなかったがな。 あれ多分【悪魔騎獣召喚】といった感じの本だったんだろうな。
「召喚本かぁ。私には【読解】のスキルはまだ無いから見せられたところで無駄ね。 ハァー、私もあんな騎獣が欲しいわ。」
「地獄獣は下級とは言え悪魔は悪魔です。軽々しく召喚は控えるべきかと……。」
「でも、私にもあんな強そうな騎獣がいたらパパも外出を許してくれるでしょうね……。」
パパ……領主様か。まぁ、まだ見た感じ10歳超えたか超えてないかってところだし、親としてはまだ外は危ないと判断しているのだろう。
「私は、私はまだ生まれてから一度もこの城の敷地から出たことがないの。パパが外は危ないから駄目だって、でも私は外に行きたかった。街のにぎやかそうな騒ぎ声と、市場の騒がしさが窓から入って来る時はいつも悲しかった。外の世界を見たい、この目で見たいの。だけどパパは頑なに駄目って言ってきた。」
リリアナはそこで一旦言葉をきった。俯いたまま身体を震わせ、腕を握り絞めている。
「だから、私はいつの日か【千里眼】というスキルに目覚めていたわ。見たい所を見たいだけ見えるスキルをね。だけど、千里眼でいくら見ても満足できなかったわ。むしろ逆、もっと直に感じたいと思うようになったのよ。そして、ある日パパにいつも以上にごねて頼んだら、『11歳の誕生日までにお前の従者を探しなさい。お前の【千里眼】なら直ぐ見つかるだろう。』って。」
おお、頑張ったな。普通10歳でそこまで親に正面からぶつかる子供はなかなかいないぞ。
「でも、駄目だった。」
「…駄目だった?」
「パパが一枚上手だった。私の千里眼が届かない位置までフリーの従者を追い出したり、先に子飼の商人の秘書にしてしまったり、私が見つけるより先に一手を打たれていた。そして、今日まで見つけることは叶わなかったわ。」
リリアナは顔を上げた。その顔は泣き張らした顔というよりか、闘志に燃えるような顔であった。
「先月、神託が教会にあったの。今日からこの街ファスナを筆頭に、異界から人がやってくると、そして彼らはこの世界を滅ぼさんとする悪を退けてくれるとね。だから私は今日血眼になって従者系の職業の人を探したわ。……そして見つけた。」
そしてリリアナは私に手を差しのべると、こう言った。
「主を持たぬ《執事》スチュワート。あなた、私に仕える気はない? 」




