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《新世界オンライン》 執事は実は最強職?  作者: どら焼きドラゴン
第1章 執事は主を主は執事を求める
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01 新たな仕事

「はぁ、リストラ…。」


 部長から呼び出され、久々に昇進かと思えばこれだ。俺は営業成績も悪くない筈だし、部下からの信頼もあった筈なのに…。


「ごめん、社長からの命令なんだ、君は業務成績も悪くないけど良くもない。至って普通だ。だけど…この会社も年々経営が厳しくなってる。もう、君しかいないんだ。」


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。なんで……いきなり。」


 慌て反論しようとするが、部長に手で制される。


「神崎君。これ、わかるかい? これには社会や他の部門を合計してリストラ200人出せっていうお達しだ。君の部下、君の先輩、同僚、ほとんど私の部門からは100人以上出した。いや、出させられた、というべきかな。この医療機器開発部門は今月をもって消されることになったんだ。」


「そんな……。」


 部長の話が理解できなかった。この会社の稼ぎ頭であるこの医療機器開発部門を廃止? 上は一体何を考えているんだ?


「ほんと、醜い出世争いだよね。君の考えている通りだよ。この会社もそろそろ潮時だろうね。だから……君は僕がリストラする99人目だよ。最後の一人は、僕自身だ。」


 部長はため息をつく。部長のオフィスもいつもより片付いてあると思っていたら、元からそのつもりだったのだろう。


「神崎君……今夜、よかったら飲みに行くかい? 」


 俺はその話に乗った。こんなクソッタレな日には酒でも飲みたくなるものだ。


「美味しい店がいいですね。」




 自分の机を片付けるのに半日もかけてしまったが、なんとかなった。最近やっとローン返済を終えた乗用車で自宅であるアパートと会社を何回か行き来して荷物を運んだのだ。

 俺の部門にいた仕事仲間達は数人を除いてクビになったので、今日だけ会社は引っ越し騒ぎのようだった。しかし、それは新たな職場への期待などなく、御通夜のようなムードだ。


 課長であった俺はみんなにこの部門は終わると伝えなければならない、みんなから冷たい目を向けられる覚悟をつけて、いざという時に、部長がみんなにそのリストラ騒ぎのことを話していた。

 部長は当然みんなからブーイングの嵐にあった。本来であれば俺が受ける筈だった罪を、彼は1人で背負ってくれたのだ。


 理想の上司とはこのことだろうか? それとも只のお人好しだろうか? 俺にはよくわからない。だけど、その瞬間俺は悟った。「彼には人間的に負けたな。」と。


 その夜、電車で待ち合わせしていた場所に向かうと、部長はもう来ていた。


「部長、遅れてすみません。」


「もう部長はよしてくれ。僕の名前は下田(しもだ) (つとむ)だ。呼び方は任せるけど、部長はよしてくれ。」


「はい。下田さん。」


「ん、じゃあ行こうか、今日は僕の奢りだ。」


「ありがとうございます。」



 

「じゃ、乾杯。」


「乾杯。」


 手頃な店に入った俺らはそこでジョッキ生の(大)を頼み、飲んだ。

 部長もとい下田さんの奢りなので、好き勝手に注文できないのは残念だが、だから言って、年上を立てないわけにはいかない。なるべく手頃かつ、美味しいつまみを食べながら、ビールを流し込む。うん、最高だな。


「── ところで神崎君は次の仕事の当てはあるのかい?」


「いえ、ないですね。急なものだったんで、まぁしばらく退職金もないし、バイトで食い繋ぎながら次の職場を探すつもりです。」


 下手したらフリーターになるしかなくなる。


「……神崎君。もし、僕が新しい仕事があると言ったら君はどうする?」


 下田さんはジョッキをテーブルに置いて、真面目な声で言った。


「…そうですね。やってみたいとは思いますよ。他に仕事もありませんし。」


 そう答えると、下田さんは嬉しそうにある話を持ちかけた。とあるゲーム会社の開発運営の仕事でテスターが足りてないから、やってみないかのこと。


 最初はテスターも下田さんがやるつもりだったそうだが、そのゲームはフルダイブ型で、その機械に寝ようとしたら、腰をやってしまったそうだ。

 

 そこで、俺に白羽の矢が立ったらしい。なんせ、家を開けることの多い仕事なので、妻子持ちの知り合いに頼むわけにはいかない。……って、オイ。


 まぁ、いいだろう。なんせゲームをプレイして動画を投稿し、新たなゲームとしての注目を集めることが俺の仕事内容だ。


 基本的にプレイするスタイルは自由、そのゲーム会社本社のビルにある装置でログイン、ログアウトをすること、タイムカード制……。あまりの高待遇に一瞬詐欺では? と思ったが、よく話を聞けば、ゲーム会社運営部の部長が下田さんの弟らしい。


 いや、兄弟揃って出世頭ってすげえな。


 そんなこんなあって、新たに下田さんと入社した俺は職員のおねーさんに連れられ、早速フルダイブ型の装置と対面した。


「意外とコンパクトですね。」


「…そりゃ一般家庭にも売り出す予定だからね。」


 それもそうか。

 

「んじゃさっそくログインしてきまーす。」


「うん、君の世話はゲーム内のAIがやってくれる。それでも解らなかったらGMコールしてくれ。」


「了解です。録画はキャラメイクからですか?」


「うん、キャラメイクもウチの自慢になるから最初から頼むよ。『録画』って念じたら録画モードになるから。」


「はい。」


「じゃあ、楽しんでね。このゲームはプレイヤーの行動で千変万化するからね。」


 千変万化か。それは楽しみだ。


 《~~IDを承認しました。ログイン開始~~》

 《……ようこそ、ここがあなたの『新世界(Neu World)』になりますよう……》




 《……録画を始めます。》



 







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