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第7話 路地裏

 ハオランに自身の気持ちを吐露して以来、ふたりの関係はよそよそしくなった。会話をする回数も減り、顔を合わせることもほとんどなくなる。

 ある日、どこを探してもハオランがいないことがあった。家族にハオランの行き先を訊ねても誰も知らない。

 なにも言わず出て行ったのかと思えば普通に帰ってくる、そんな日がたびたびあった。

 彼がなにをしているのか、知っているのは誰もいない。

 エヴァン自身、気になっているが気まずさから聞けずにいた。ハオランが自ら話すことを期待しても、その瞬間がやってくることはない。

 素直になれない自分と掴みどころのない彼、募る歯痒さは次第に苛立ちへと変わっていった。


 晴天の日差しが眩しい昼下がり。

 エヴァンはある会話を耳にした。先日隣の地区で見つかった複数の死体は、異国からやってきた者たちらしい。

 井戸端で話す女たちのひとりが、身振り手振り話している姿が目に入った。周りの女は興味津々で聞き入っている。

 その声は大きく、数メートル離れていても聞こえてきた。

 ずいぶんと楽しそうに周囲への配慮は欠片もない。そんな会話に耳を傾けながら、エヴァンはその場を通り過ぎた。


 複数の死体が異国人というなら特定の標的を狙った残忍な事件か、はたまた別の陰謀がある事件か。

 世間体に疎いエヴァンには想像することも難しかった。そして耳にした会話も、数分後にはすっかり忘れる。


 今日もハオランは行き先を誰にも言わず、家を留守にしていた。彼なしでは話す相手も碌にいないエヴァンは、憂さ晴らしがてら外を出歩いている。

 今日こそは話そうと意気込んでいたが、ハオランがいないと知ったときエヴァンはひどく落ち込んだ。

 それくらい、エヴァンはハオランにのめり込んでいる。彼に想いを募らせるほど、酷く息苦しくなるのを感じた。

「はぁ〜……」

 適当な道を歩いて時間を潰すが、ハオランの顔が何度も脳裏をチラつく。そのたびにあの晩のことを思い出し、気がつけばその事ばかり考えていた。

 ハオランがなにを思っているのかわからない、あの取り繕った笑顔では嫌われているのかどうかさえも。


 ふと、遠目にだが見覚えのある姿を捉えた。

 人混みの中におり、認識することもやっと。だがエヴァンが見間違えることはない、あれはハオランだ。

 ハオランは人混みの中におり、エヴァンの存在には気がついていないようだ。

 求めていた人物を見つけ、胸が高鳴るのを感じる。敢えて人混みを避けていたが、自らその中に突っ込んでいく。

 面と向かって話したい、ただそれだけだ。あわよくばあの晩した話の続きを、さらに願ってしまう。

「ハオラン!」

 遠くから彼の名前を呼んだ。しかし本人には届いていないようで、どんどん遠のいていく。

 それでも人混みをかき分けて追いかけた。

 彼が好きだ、どうしようもないほどに。叶うなら友だち以上の関係を望んでいるくらいだ。

 これまで無理な願いを乞うことはなかった、しかし今はハオランの傍にいたいと心から願っている。


 ハオランが路地裏に入っていく姿が見えた。

 その後を追うようにしてエヴァンも入る。しかし、路地裏には人っ子ひとりいなかった。

 たしかに路地裏に入っていく彼の姿を見た、エヴァンが路地裏に入るまでの時間差もそうないだろう。

 不思議に思いながらも先へ進んだ。路地裏は特にこれといった物はなく、人が隠れられそうな場所もない。

 ゆえに、ハオランがいなくなった原因が尚更気になった。

「エヴァン?」

 廃屋の前を通り過ぎたとき、不意に背後から声がする。振り返るとそこにはハオランがいた。

 ハオランは廃屋の中にいたようで、わずかに開いた障子を閉じる。そして「ここでなにしてる?」と問いかけた。

「ハオランを見かけたから追ってきたんだ」

「ふーん、さっさと帰りな。俺もしばらくしたら帰るから」

「ハオランは、此処でなにをしてるんだ?」

「俺は仕事」

 質問にそう答えて、エヴァンの肩に手を置く。取り繕ったような笑みを浮かべて「また後でな」と告げた。

「あ、あぁまた後で……」

 此処でなにをしていたのか、聞こうに聞けないまま立ち去ろうとする。

 その時、不意に「助けてくれ!」と男の声がした。声がした位置的に廃屋から聞こえたように思う。

「なぁ、ハオラン」

 彼の名前を呼んだ。反応はない。

「聞こえてるんだろ。ハオラン」

 それでもめげずに彼の名前を呼んだ。

 すると突然羽交い締めにされ、建物の中に引き摺り込まれる。なす術もなく、気がつくと中にいた。

「ハオラン、なんで」

 部屋の片隅には男がいる。傷だらけで、かつ縄で縛られ身動きが取れずにいた。

 先程の声は、男が猿ぐつわを外して助けを求めたものらしい。背後にいるハオランはなにも答えない、振り向くことも恐ろしくできなかった。

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