第6話 人がいない道
本当ならばあの日、ハオランは死ぬはずだった。
いったい誰がそれを信じるだろう。無論、嘘じゃないと断言されてもエヴァンは全く信じていなかった。
「数週間前に仕事でへまをやらかしてな。依頼主から怒りを買ってあの日に死ぬ呪いをかけられた」
島国に来る前にあった出来事を淡々と話す。そして最後に「実際に死にかけた」と付け足した。
「でも俺は今も生きてる」
「な、なにを言ってるのか俺にはさっぱりだ……」
多くの情報が飛び出し、うまく処理しきれずに混乱する。とうのハオランは「頼む。教えてほしい」と懇願した。
「エヴァンは何者だ?」
「俺は俺だ、そんな呪いなんかをどうこうできる力はないに決まってる! もうこの話はやめだ!」
目の前にいるハオランを突っぱね、エヴァンは逃げるようにして踵を返す。
が。それもほんの束の間で、ハオランによって手首を掴まれ逃げられなくなった。
「占い師にも俺はあの日に死ぬと、絶対に逃れられないと言われた。それだけ相手は強かった」
「俺はなにも知らない」
ハオランと目を合わせないまま、必死に抵抗を続けた。しかし、ハオランはエヴァンの抵抗をものともしていない。
力の差に情けなさを感じつつも、エヴァンは諦めずに「放せよ」と抵抗を続けた。
「エヴァン、君を数日の間観察してわかったことがある」
「なんだよ。いいから放せ」
「嘘をつく時、エヴァンは目を合わせない癖があるな」
ハオランがそう言ったことで、エヴァンの動きがぴたりと止まる。エヴァンは後ろめたさから顔をうつむけた。
「何度か俺に嘘をついてたね。気付いてないと思った?」
「だ、だからなんだよ。放せって言ってんだろ」
「なにをそんなに隠す必要がある? ただ俺は、エヴァンのことを知りたいだけなんだ」
手首を掴む力は緩めないまま、エヴァンの頬にそっと手を伸ばす。うつむいた顔を上に向けると、今にも泣き出しそうなエヴァンにきつく睨まれた。
「そんなに睨まなくたっていいじゃないか。教えてくれ、相手を知ることは悪いことじゃない」
そう言ってエヴァンを諭す。
ハオランに真剣な眼差しで見つめられ、少しだけ心が揺らいだ。だからといって、話そうと思ったわけではないが。
「お、俺は……」
言葉がつまる、普段はそんなことないがこの時は不思議と言葉が詰まった。同時に在りし日の苦い記憶が蘇る。
「……ごめん。言いたくない」
応えられない自分を憎みながらハオランにそう告げた。ハオランは納得がいかないのか「どうして」と食い下がる。
「言いたくないんだ」
「どうして言いたくないんだ? 俺はただ、あの日の辻褄を合わせたいだけなんだ。俺たちは友だろう?」
「……っ」
友でも言えないことはいくらでもある、そんな事を思いながら「しつこいぞ」と突っぱねた。それでもハオランの中では諦めがつかずにいる。
「どうして言いたくないんだ。もしかして俺に嫌われるのが嫌とでも?」
「……そうだよ。好きな相手に嫌わらたくないと思うのは当たり前だろ」
ハオランがあまりにもしつこいため、エヴァンはやけくそになって答えた。適当に思いついた冗談のはずが、想像もしなかった返事にハオランは目を大きくする。
「それは友だちとしてか?」
「もういいだろ」
ハオランが呆気にとられている隙をついて、掴まれた手を強引に振りほどいた。これ以上答える気もないため、振り返らずにきびすを返す。
顔が徐々に火照っていくのを感じた。どんなに呼び止められようと、今だけは応えることができないだろう。
置いて行かれていることに気づき、ハオランは慌ててエヴァンの後を追った。エヴァンが言った言葉の真意を理解できず、どんな言葉をかけるべきかわからずにいる。
帰りはふたりの間に会話はまったくなく、始終無言のまま帰路に着いた。