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第22話 揺れる

 長い旅の末、エヴァンたちは本土にたどり着いた。その途中で祖父母とアマーリとは別れ、ふたりは故郷方面に向かう汽車に乗る。

 船旅の次は汽車による長距離移動のためか、心なしか疲労が溜まっていた。ふたりは相対席に座り、流れゆく景色を揺られながら眺めている。

「俺は一旦家に帰る。家は郊外にあるし遠いから、その前に街で宿を探しておこう」

「あぁ。そうしようか」

「それで、ハオランには宿で待っていてほしいんだ」

 言いづらいのか、目を伏しがちにして要件を口にした。途端にハオランは「どうして?」と驚いた表情をする。

「俺の存在を知られるのは嫌か?」

 そんなことはないだろうとわかっているが、敢えて訊ねることにした。昔ほど酷くはないが、今も同性愛は排斥される側にある。

「いや、ハオランの存在は知らせてある。でも、なんというか、義父に会わせたくないんだ」

「どうして?」

「昔ながらの家っていうか、お堅い頭の家系の人なんだ。だから俺たちの関係を快く思ってないと思う」

「でも会ってみないことにはわからないだろ?」

 エヴァンの伝えたいことは充分にわかった。だがそれでもわからないふりをして、意地悪なことを口にしてみる。

 案の定、エヴァンは困り果てた顔をした。

「知らないからそんなことが言えるんだ。ともかく宿で待っていてくれ、その日か次の日には戻るから」

「なんだ、この国に来て間もない愛しの恋人を宿に放ったらかしにするってか。あぁそうかそうか、わかったよ」

 ハオランの身を案じているはずが、それを逆手にとられる。あげく好き放題に言われ、エヴァンは苦虫を噛み潰したように表情を歪めた。

「寂しいな〜。この国で初めて泊まる宿はひとりっきりか」

「なにが望みだ」

「なにも言ってないけど?」

 怪訝な顔をするエヴァンとは相対的に、ハオランは平然としている。それが余計に怪しさを倍増させた。

「いやなに、俺はただ寂しいんだ。長い船旅も終わって、ようやく地上に来れたと思ったらひとりにされるのはな」

「俺と一緒に来たいと?」

「そういうふうに聞こえるんならそうなんだろうな」

 どこか煮えきらない態度のハオランを前に、眉根にしわが寄る。寂しいのはエヴァンも一緒だ、だが恋人の身を案じるのも恋人の役目だ。

「はぁー、わかった。一緒にくるか?」

「もちろんだとも」

 エヴァンの問いかけに満面の笑みを浮かべて答える。ハオランが嬉しそうにする姿を見て、癪に障る反面嬉しさも感じた。

「運が良ければ義父さんは出張とかでいないかもしれない。家にいないことが多いし」

「ふーん、着いたときが楽しみだな」

 そう呟いて、再び流れゆく景色を眺め始める。エヴァンも駅で買った新聞に目を通すが、ふとあることを思い出した。

「そういえばハオラン」

「ん? どした?」

「俺たちって普通に会話ができてるけど、あれだろ。役所であれを所得してるんだよな」

「あぁあれね。してるよ」

 ふたりの言う『あれ』とは、外国に行く際にほとんどの人が契約する翻訳書のことである。それがあれば契約した期間だけ、どの国の人とも通訳なしで話すことが可能だ。

 もちろん、ふたりともあの国へ行く前にちゃんと申請している。しかし帰国したエヴァンは必要なくなるが、ハオランはそういうわけにもいかないはずだ。

「契約書の期限は覚えてる?」

「あー、いつだったっけ……。半年くらいだった気がする」

「残りの期限は?」

「あと二、三ヶ月……くらいだったと思う」

 本人もあまり覚えていないようで首を傾げている。エヴァンも同じように首を傾げるふりをした。

「今度、新たに申請しに行こう。案内するから」

「そうだな。頼むよ」

 不意にハオランが座席で横になる。上着を枕にして腕を組んで、エヴァンに「着いたら起こして」と言った。

 汽車に揺られ続け、もう数時間は経っている。それでもまだまだ故郷からは程遠かった。

 空がようやく暗くなりつつある。それを尻目にエヴァンは「わかったよ」とうなずいた。

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