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第21話 心残り

 普段、ハオランとイェジュンは橋のうえで落ち合うようにしている。が、この日はいつもとは違う場所にいた。

 ふたりは珍しく、橋付近にあった屋台に訪れている。

 ハオランは故郷にも帰らず、あと数日にはこの国を去る予定だ。最後とは言わないが、その餞別にイェジュンがここへ連れてきた。

「結局少年は人ではなかった。名高い呪術師のじじいも、本物の怪物には敵わなかったわけだな」

「負と負がぶつかり合った結果かな」

 酒を飲みながら焼き鳥を食べる。イェジュンは短くなったたばこを、灰皿に押しつけた。

 横目にハオランを捉えながら空のグラスに酒を注ぐ。そして新しいたばこを箱から取り出した。

「本当に行くんだな」

「一緒に生きるって決めたからには裏切れないだろ」

「まったく丸くなったもんだ。昔のお前はもっと、尖っていて俺は好きだったよ」

「そういうイェジュンは変わらないな」

 酒がなくなったことに気づき、店主に「もう一本」と注文する。店主から瓶を受け取り、栓抜きを使って開けた。

「イェジュンはこれからどうしてくんだ?」

「そうだな、ここでの事業も安定したらおまえが移住する国にでも行こうかな。事業拡大の一環として」

「はは、期待しなくても待ってるよ」

 イェジュンは冗談で言ったのだろうか、それもわからないまま適当な相槌を打つ。

「俺たちは兄弟、家族も同然だ。あの人の教えの通りなら」

「そんな兄弟を突き放せるのはお前くらいだよ」

「ふん、俺には俺のやり方がある。どちらにせよ、選ばれたんなら再会する日くらいあるさ」

 そう言って、ハオランのグラスに酒を注いだ。

 それからしばらくの間飲み続け、ふたりが別れたのは夜更け頃になる。最後は特に会話を交わさず、後ろも振り返らずに別れた。

 またいつか会えるだろうと信じて。


 それからというもの、一家が帰国する日はあっという間にやってきた。まとめた荷物を持って、旅行船に乗り込む。

 港から離れていく様を、ハオランはソファに座ってじっと眺めた。客室の窓から呆然と見つめる姿はどこか、悲しんでいるようにすら見える。

「ハオラン、本当によかったのか?」

 そんな彼の後ろ姿を見ていると、エヴァンは不意に怖くなった。ハオランは本当のところ、後悔しているのではないかと考えがよぎる。

 その不安を抱えたまま、窓の外を眺める彼に問いかけた。

「なにがだ?」

 ゆっくりと後ろに振り返り、エヴァンの問いかけに応える。そこには普段通りの、よく知るハオランの姿があった。

 それでも、一度抱えた不安は消えない。

「……後悔、してないか?」

「なにかと思えば……安心しろエヴァン、俺は後悔なんてしてない。するはずがないよ」

 そう言って、エヴァンに「おいで」と手招きした。

 不安な表情を浮かべたまま、エヴァンは言われた通りにハオランの隣に座る。

「前、雨の日に俺の隣にいた男を覚えてるか」

「ああ、なんとなくだけど」

「あいつは昔からの馴染みでな。身寄りのない俺の、唯一の家族と言っていい存在だ」

 ハオランがイェジュンの存在を打ち明けるのは初めてだ。

 首筋に刃をあてがわれようと、仕事でミスをして見限られようとも関係ない。イェジュンはハオランの数少ない友であり家族だ。

 港が見えなくなってもなお、窓の外を見つめている。きっと名残惜しいのだろう、そういう風に思えた。

「もしかして、家族と離れて寂しい?」

「んや。あいつにエヴァンを紹介できなかったことが、少し残念に思ってるかな……でもいいんだ」

「……そう」

 暗い表情のエヴァンを抱き寄せ、からかうように「どうした?」と問いかける。正直、本人が気にしていないことを気にされるのは癪に障る部分があった。

 それを悟られないようにキスをする。何度も何度も、噛みつくように繰り返した。

「はっ、ハオランっ……もういっ」

 だが、流石にしつこくし過ぎたのか途中からエヴァンが抵抗しだす。最終的には両手でハオランを押しやり、強引に距離をとった。

 普段なら余すことなく受け止めたいところではあるが、この後ふたりは会食に参加しなければいけない。

 おまけにいつ人が訪れるかもわからないため、これ以上の展開を迎えるのは避けたかった。

「なんだよ。今日は冷たいな」

 ハオランがつまらなさそうに口を尖らせる。申し訳なさはあるが、ひとまず「今はまずい」と答えた。

「エヴァンにひとつ、頼みたいことがある」

「なんだ?」

「もし指輪をはめる時がきたら、その時は初雪が降るときにしてほしい」

 理由はわからないが、エヴァンは即答気味に「わかった」とうなずく。単純にロマンチックだからだろうか、敢えて詮索はしなかった。

「ありがとう」

 エヴァンに一度距離を置かれたが、再び距離をつめて抱きしめる。その表情はどこか穏やかで、初めて見る表情にエヴァンは胸が高鳴るのを感じた。

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