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第20話 うち明ける

 エヴァンとアマーリは居間にいた、その場にハオランはいない。つい先ほど、エヴァンが散歩に行ってくるよう促したばかりだった。

 なにしろ、これから祖父母にハオランとの関係を打ち明ける。そのためにアマーリと一緒に居間で待ち構えていた。

 仮にこの関係を罵られようと、ハオランは聞かなくて済む。最悪、ハオランが罵られようものならこの家を飛び出すつもりだ。


 アマーリが頬杖をついて、興味深そうにエヴァンを見つめている。その視線に気付いたエヴァンが、照れ臭そうにオーケーサインを出した。

 それを見たアマーリが途端にぱっと明るい笑顔を見せる。

「よかったじゃない。これからふたりはどうするの?」

「俺について来てくれるって。それで、帰ったらすぐにふたりで暮らせる場所を探す」

 エヴァンの台詞に「ふーん」と相槌をうつ。その横顔は相変わらず赤いが、今までにないくらい幸福そうに見えた。

「だめ元で結婚してくれって告白したけど本当によかった。責任を取ると決めたからには必ず幸せにしてみせる」

「いろいろとツッコミどころがあるけど、あなたが幸せそうでなによりだわ」

 握り拳を作り、ひとりでに掲げた目標を口にする。

 先日のアマーリとの会話で、エヴァンのなかで妙なスイッチが入っていた。そんなこともつゆ知らず、アマーリは大人しく考えるのをやめる。

 エヴァンの行動力は少々型破りだが、敢えて口には出さなかった。交際期間が極端に短いことも、男同士の結婚はできないことも、アマーリが口出しすることではない。

 アマーリにとって、エヴァンが満足しているならそれで充分だった。

「残る問題はグランマたちにどう説明するか……」

「そうね。でもあのふたりなら大丈夫だと思うわ、私が問題視するならあなたのお義父さんよ」

「あぁ、両親には紹介しない。特に義父さんには、どうせくだらないことを言って傷つけるに決まってる」

 だから帰国後は家にとどまらず、そのまま出ていこうと考えている。世間体を気にする両親であれば、そこから離れてしまえばいいだけだ。

 それが大切なものを壊すような行動だとしても、エヴァンの決意は揺らぐことはない。

「ぶっちゃけた話、アマーリは俺にひいてるだろ」

「どうしてそう思うの?」

「俺自身、一般的な恋愛観とかけ離れてる自覚がある」

 たしかにエヴァンの恋愛観は他者と違っていた。元来、エヴァンの住む国では付き合う前に何度かデートをする。

 それからお互いの人格を知り合い、結婚に至るまでも数年はかかるほどだ。

 だが、エヴァンとハオランは付き合って数ヶ月も経っていない。むしろ、知り合って間もないうちに入るくらいだ。

 そんなふたりが結婚を視野に入れているなど、馬鹿げるにもほどがある。

「そうね。たしかにそうね」

 アマーリがくすりと笑う、たしかにエヴァンの型破りな行動に驚いているのは事実だ。しかし、だからといってどうということはない。

「あなたを見てるとあの人を見ているようで、なんだか不思議な気分になるわ」

 あの人とは、エヴァンの父親のことだ。変わった思考の持ち主で、今でもアマーリの記憶に鮮明に残っている。

「一度決めたことは曲げない、強い信念の持ち主だった。あなたのお母さんとの馴れ初めもね、今でもちょっと考えられないなって感じだったの」

 エヴァンのさらさらな髪に触れながら、過去の思い出にふけった。きっと型破りな部分は、亡き父から受け継いだのだろう。

 アマーリにはそれがなんだか、微笑ましく感じた。

「へぇ、また今度聞かせてよ」

 エヴァンがそう答えたとき、襖が勢いよく開く。そこには祖父母が立っており、ふたりと目が合った。

「グランパ、グランマ……話したいことがあるんだ」

 最初に切り出したのはエヴァンだった、神妙な面持ちの孫を前に祖父母の表情も硬くなる。

 その隣で、アマーリは三人の様子を見守ることにした。

「グランパは前、思い思いのことは片付けるようにって俺に言ったよね」

「うん、言ったね」

「それで、思い思いのことを片付けてきた。んだけど、ふたりに伝えたいことがあって」

 心から慕っている祖父母といえど、やはり言いづらいのだろうか。口ごもるエヴァンを見つめ、ふたりはただじっと待ち続けた。

「ハオランと俺……結構前からお付き合いしてて、今回の件をふたりで話し合ったんだ」

「それで、どうだった?」

 幸助が問いただす。男同士が付き合っていることに関しては、祖父母は大した反応を見せなかった。

 元々、エヴァンが同性にしか関心がないことを知っていたのもあるだろう。

「俺と一緒にいてくれるって。ずっと、一緒に」

 照れ臭いような、とても幸せそうな孫の表情を見たとき、幸助は目を伏せた。そして少し考えるそぶりを見せた後、にこやかな表情を浮かべる。

「そうか……わかった、僕たちはエヴァンの味方だ。でもこのことは娘に送る手紙に書くけど、それでもいいね?」

「うん。それは構わないよ」

 手紙とは故郷にいる母親に送る分のことだ。エヴァンの母親はふたりの娘にあたる。

 故郷に帰ったとしても、両親にハオランを紹介する気は全くなかった。そのため、手紙ならいいだろうと考える。

 エヴァンは過去の一件で両親に不信感を抱いていた。特に義父とは、思春期ゆえのわだかまりが存在する。

 祖父母もそれを知っているためか、それ以上なにかを言うことはなかった。


 話しを終えると同時に、アマーリが嬉しそうにエヴァンの背中を叩く。エヴァンは表情を歪め、痛そうに「なんだよ」と言った。

「ふふふ、よかったわね」

 まるで自分のことのようにニコニコと笑っている。どうしてそんなに笑んでいられるのか、エヴァンは不思議に思った。

 が。アマーリは他人との境界線が曖昧な部分がある。こうして他人事でも喜ぶときがあった。

 きっと今も、アマーリは自分のことのように喜んでいるのだろう。それにつられて、エヴァンもついはにかんだ。

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