9:要塞戦③迎撃戦
「パルチたんに栄光あれぇぇぇぇ!!! グハァ」
初っ端から突撃をかましてくるパルチたんに銃弾を浴びせかける。
先ほどまではまるで遠くの銃声をBGMにしていた廃墟周辺はすっかり戦場の顔をしていた。
「撃て撃て撃て!! 遠慮するな!!」
「リロード!」
「カバー!」
お互いに声を掛け合いながら射撃する。
撃たれれば撃ち返し、撃ち返されればそこに撃ちまくる。
どんどん襲い掛かるパルチたん。確実に60体以上いるだろう。
人数比にして10倍以上の戦力差を、廃墟の中の6人が覆そうとしていた。
「いっ! 被弾した!」
「援護します! 回復を」
「任せた!」
隣でアサルトライフルを撃ち続けていたオレっ娘、ストライカーが被弾する。
ミカヅキさんが回復の隙を作るため、撃って注意を引き付けた。
このゲームには防御力という概念がない。
基本的にどんなプレイヤーでもHPは100で固定だ。
そして敵の銃弾はそのHPを4、5発でたやすく吹き飛ばす威力があるため、1度2度の被弾で回復が欠かせなかった。
「うぐ、やべぇミラト! 敵が入ってきた!」
回復薬を口に含んだままストライカーが叫ぶ。
振り向くと、そこには今まさに廃墟のドアがあった跡からパルチたんが連なって侵入しようとしているところだった。
「入ってくるんじゃねぇ!」
入らせまいと撃ち続けるが、持っているのが拾った武器のせいでこのままでは弾が足りない。
「うらああああああああああああ!!!」
考えるより先に足を動かす。
「人間共め! 殲滅してくれる!」
「ふんッッ!!」
侵入しかけたパルチたんに走ったままの勢いで銃剣を突き刺し、そのまま引き金を引く!
――ズドドドドッ!! と決して避けることのできない弾丸が敵の身に穴を開けた。
「まだまだァ!!」
光になって消えゆくパルチたんから銃を奪い、そのまま別のパルチたんに弾を撃ち込む。
「撃て撃て撃ちまくれ!! 遠慮はいらんぞ!!」
ただ目の前の敵に銃弾を浴びせかける。
それだけに専念した。
「クソっ、一旦退却! 退却~!!」
「撃ち方やめぇ!」
まるで死を恐れないかのようなパルチたん達が俺達の銃撃に怯み、背中を向けて逃げ出した。
「逃がすかぁ!」
「やめるんだ!!」
撃ち方を止めるよう号令を掛けたのにも関わらず追撃しようとした初心者に、シグレットが珍しく語気を荒げた。
「……弾が無駄になるから」
「ご、ごめんなさい」
「……」
「……」
気まずい空気が流れる。
みんなアドレナリンが出まくっていた。
「……っぷ、ははは、あははは!!」
急に笑い出したのはストライカーだった。
「あ~おかし!! なんだよ、勝ったのにシケた顔しやがってさ、はははは!!」
「ん、ふふふ」
「ふふ、たしかに、僕たち、勝ったんだ!」
「俺たちの勝利だ」
「はははは!!」
「G G!」
「GG!!」
笑い声が次々に伝播していく。
さっきまでの緊張が嘘のように解けた。
「よぉし! みんな無事だな? 漏らした奴はいるか?」
「ハハッ! ストライカーさん漏らしたんじゃね!?」
「あっははは!! 脳汁ならドバドバだぜ!」
「もう、ミラトさんってば汚いですよ」
そう言いながらミカヅキさんの綺麗な顔はニッコニコだ。
とんでもない戦力差をひっくり返した俺たちには、奇妙な友情みたいなのが出来ていた。
多分これ終わったらフレンド登録しあうん流れになるんだろうな。
「だが、まだだ。油断するな。恐らく第二波が来る」
「いつでも迎え撃ちますよ!」
「いい返事だ。弾は足りているか? 回復薬は?」
それぞれがアイテム欄を開いて消耗品を確認する。
「回復薬がもうないや」
「僕のが余ってる」
「弾が心もとないかもです」
「俺は途中で拾ったAK使ってるから5.56mm弾がたんまり余ってる。みんなで分けよう」
「オレのも弾がない。AKを使うよ」
そうやって足りない物資をみんなで補い合い、それでも足りない物は敵のドロップ品を使った。
損耗は覚悟していたが、何とか誰も落ちずに乗り切れるかもしれない。
そんな希望が見えてきた。
「そうしたらもう一回偵察だ。今度は俺が行く」
「ミラト隊長自ら?」
「ああ、誰か一緒に来てくれないか?」
「私が行きます」
声を上げたのはミカヅキさんだった。
今回の偵察は危険だ。
別部隊がクリアするまで敵に移動されるわけにはいかない。
だから敢えてこちらに攻撃するよう仕向けなければいけない。
いうなれば蜂の巣を突きに行くような物だ。
「わかった」
だが同行を拒否することはしなかった。
ミカヅキさんの目に闘志が宿っていたからだ。
「じゃあ、行こうか」
俺達は廃墟を出て敵陣へと向かった。
――――
「そういえば」
身を隠しながらの進行中、ミカヅキさんが不意に口を開いた。
「何かな?」
「なんでミラトさんのギルド名って『のーがんず』なんですか? 銃持ってるのに」
ギルド名に関する素朴な疑問だった。
よく聞かれることだ。『No Guns』ではないのかと。
「うん、たしかに『のーがんず』は銃を普通に持ってる。銃を持たないって意味じゃないんだ」
「じゃあ、どういうことなんですか? もしかして、し、下ネタ、だったり……」
「うん? 何で?」
「な、なんでもないです!!」
ミカヅキさんが顔を真っ赤にして手をブンブン振り回す。どういうこと?
「まあいいや。『のーがんず』の『がん』は銃だけど、『のー』は否定の『No』じゃないんだよね」
「なら、なんですか?」
それは……と言いかけたところでやめた。
前方の瓦礫の陰から何か見えたから。
俺は人差し指を口に当てて静かにするようジェスチャーしてから銃を構えた。
「……」
また何か動いた。モフモフの毛が生えた物体。
パルチたんだ。
照準を合わせて引き金に指を掛ける。
「撃ちますか?」
「俺の後に続いて撃って欲しい」
瓦礫の奥の敵が横切る。
一人じゃない。確実に大勢いる。
間違いない。敵の残存部隊だ。
「恐らく撃ったら猛反撃が来る。程々で引き上げるよ」
「はい」
ミカヅキさんに注意を促す。蜂の巣を突く覚悟は出来ている。
俺は敵の司令官らしきパルチたんに狙いを定めた。
相手はまだ気がついていない。
「……すぅー」
一呼吸してブレを安定させる、そして銃を撃った。
「敵だ!!」
「どこからだ!?」
「探せ!」
敵陣が混乱する。
完全に不意を突かれたパルチたん達が慌てて武器を手に散開する。
俺とミカヅキさんは、そんな瓦礫から出てきた敵を次々に撃った。
「頃合だ! 行こう!」
「はい!」
ミカヅキさんが先に走る。
それに続いて俺が撃ちながら走る。
「いたぞ! 追え!!」
こちらを捕捉したパルチたんが次々に飛び出してきた。
「ミラトさん! 走って!」
ミカヅキさんが援護射撃する。
俺は走りながら弾倉を代え、ミカヅキさんを援護する。
そうやってお互いをカバーしながら、皆の待つ廃墟に逃げ込んだ。
「おかえり! ミラト隊長、ミカヅキ!」
「ああ、ただいま。奴らすぐ来るぞ」
「了解、配置に着こう」
あらかじめ決めた配置に着く。今度は全方位に散らばらなくてもいい。
「来たぞ、撃て撃て撃て!」
火薬音が一斉に鳴る。
鉛の雨に打たれたパルチたん達がバタバタと倒れて行く。
「オラオラオラァ!! 食らいやがれ!!」
「ヒャッハー、まるでゲームだ!」
口々に勇ましいことを叫びながら、銃を乱射する。
いいぞ、このまま押し切れば……
――そのとき、視界に嫌なものが映った。
緑色のデカイどんぐりみたいなのが刺さった1メートルはあろうかという筒。
パルチたんがそれをこちらに向けて発射した。
「アールピージー!!」
とっさに叫んだがもう遅かった。
飛翔した弾頭はすごいスピードでシグレットと初心者二人組の方角へ突っ込んだ。
今回二話投稿です。(出来れば9時半頃)
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