8:要塞戦②必要な犠牲
すみません、前話の制限時間なのですが、14分としていたところを30分と変更します。
かなり早足となってしまうので……
「包囲された……?」
「マジかよ、どうすればいいんだ」
「ええ~ホントですかぁ?」
俺の放った一言に数人かがざわつく。
倉庫ほどの大きさの廃墟が大きく感じる。
「はぁはぁ、クソッ! あんたらが来た道、すでに敵だらけだったぞ。どうやって来たんだ?」
俺達とすれ違ったJKっぽいのが息を切らせながら飛び込んできた。
恐らく、さっきの銃声はこの人が受けたのだろう。
「ミラト、どうする?」
シグレットが密かに聞いてきた。
「そうだな……」
ここからどうするか。
俺は考えられる3つの方法を明かした。
「まず一つ、諦めてワザと倒されて自陣に戻る。これが一番手っ取り早い」
「もう一つ、敵の包囲を突破する。一番理想だが、これはデメリットが多すぎる」
「そしてもう一つ、ここで迎え撃つ。パルチたんは決められた数以上湧かない」
「だからここで多くの敵を引き付けて、その間に他のプレイヤー達に攻略を任せる」
すべてにメリットもデメリットもある。
もしかしたら今回の要塞戦はこの判断にかかってるかもしれない。
ここで勝ち負けが決まる。
慎重に決めなくてはいけないのだ。だからこそ……
「ミカヅキさんはどうしたい?」
俺はミカヅキさんに聞いた。
「え?」
「俺達はあんたに雇われた。あなたの意見が聞きたい」
「わ、分かりませんよそんなこと!」
当然の反発が返ってきた。
だがこれは俺が決めることじゃない。遊び方はもう提案した。
「別に指揮を執れって言ってるわけじゃあない。好みでいいんだ」
「私が決めていいんですか?」
「ああ、方法はさっき挙げた3つ。俺達はあんたに従う」
「……分かりました。ただ一個質問させてください」
ミカヅキさんの表情に真剣みが増す。
「一番他人の役に立てるのはどれですか」
「ここで迎え撃つ作戦」
「それでいきましょう」
ミカヅキさんは覚悟を決めるように言った。
――――
「みんな聞いてくれ」
俺は廃墟内にいるプレイヤーに声をかけた。
残っているのはオレっ娘のJKと初心者っぽい二人組、それに消耗しているのか、座り込んでいる女の子。
いずれもどう行動すべきか困惑しているようだ。
「さっきも言ったがここは敵に包囲されている」
残ったプレイヤーたちがこちらに視線を向けた。
「そこで俺達3人はここで包囲してきた敵を迎え撃つことにした。協力してくれるなら俺に続いて欲しい」
「マジかよ」
「どうする……?」
「ん~」
「もちろん無理強いはしない。これには報酬も何もない。各自で戦ってもいいし、自陣に戻っても構わない。自分達で決めていい」
「……」
その場が静まり返った。
協力してくれるだろうか? それとも3人だけで戦うことになるのだろうか。
「……わかった、聞いてくれてありがとう」
「待てよ、オレは乗るぜ。その話」
諦めようとしたとき、口を開いたのはオレっ娘だった。
「いいのか?」
「ああ、これでもMVP目指してるんだ。出来るだけ死にたくないんだ。アンタといると生き残れる気がする」
「ありがとう」
オレっ娘が戦列に加わった。
「……自分たちも戦います」
「そっちのが楽しそうだ」
「私も~」
残る三人も声を上げる。
この場の全員が一緒に戦ってくれるようだ。
正直、7人いればかなり心強い。
「みんな……!! ありがとう」
「んで、どうする? 隊長サン」
オレっ娘がニヤつきながら聞いてきた。
隊長か……悪くないな。
「そうだな、まずは偵察だ。……君、名前は?」
「オレはストライカーだ」
「よし、ストライカー、君は引き際がよく分かってる。シグレット、二人で行ってくれないか?」
「了解」
「まかせて」
俺は二人に指示を与えた。
シグレットがストライカーを連れて外へ出る。この二人ならうまくやってくれるはずだ。
「あとは……しまった、伝令だ」
「どうしたんです?」
重要なミスに気がついた。
この作戦は、俺たちが耐えている間に他のプレイヤーが敵陣を攻略することで完遂される。
だが、指揮官のコマちゃんはこのことを知らない。こっちに味方の援軍を出してきて時間切れなんかもあり得るのだ。
「まずいな」
「私が行きましょうか?」
ミカヅキさんが手を挙げた。
「いや、包囲を一人で抜けるのは危険だ」
「倒されれば自陣に復活するんですよね?」
ミカヅキさんの言うとおりだ。
ワザと倒されてデスワープするのが一番早くて確実だ。
「そのとおり」
「なら私をここで撃ってください」
「しかし、」
「あの~」
突然横からふわふわした声がかけられた。
消耗していたプレイヤーだ。
「それなら私が行きましょうか?」
「いいのか?」
「いいですよ~。私、HPもうないし回復薬忘れちゃったから、足手まといになりますから~」
「……回復薬なら持ってるぞ」
「構いませんよ~、それに私、さっきの攻撃で何も出来ませんでしたから。こんなことでお役に立てるなら喜んで」
ふわふわした雰囲気の少女が自己犠牲を表明する。
たしかに合理的だ。だが、他人にそれをさせるのはかなり酷だ。
「……すまない。あなたの名前はなんと?」
「あやまらないでくださいよぉ。あと私はペペロンモッチンって名前、ぺペロンでいいですよ」
「ありがとう、ペペロンさん。感謝するよ」
ペペロンモッチンさんに感謝の意を表す。
野良でここまで協力してくれるプレイヤーは珍しい。本当にありがたい。
「いえ、それで何を言えばいいんですか?」
「指揮官に、『A地点は包囲されている。引き付けておくから別地点から一気に攻略を』と」
「わかりました」
「頼みます」
俺は伝言をお願いすると、腰のホルスターからリボルバーを抜いた。
ベルギー製の拳銃、ナガンM1895だ。
そしてアイテム欄から消音器を取り出すと、銃口に取り着けた。
「行ってきます」
ぺペロンさんはそう言うと、座ったまま笑顔で敬礼した。
俺は姿勢を正して敬礼をし返すと、眉間に狙いをつけた。
「あなたの勇気に、敬意を」
人差し指に力を入れてトリガーを引く。
――パシュッ、というくぐもった銃声が鳴る。
≪ペペロンモッチン さんをキルしました≫
少女の腕がだらりと下がり、光の粒子となって戦場の空へ消えていった。
「ミラト! 敵が来た。かなり多い」
「ああ、やべぇぞ。って、あれ、1人どこ行った?」
偵察に出ていた2人が無事に帰ってきた。
ストライカーは人数が減ったことに気がついたようで、疑問を呈する。
「分かった。……彼女には伝令に出てもらった」
「……ふーん、そうか」
知ってか知らずか、素っ気なさそうな返事が返ってきた。
だが落ち込んでいる暇はない。敵はすぐそこまで来ている。
「よし、全員戦闘準備だ。シグレットは二人組と一緒に南側を、ストライカーとミカヅキさんは俺と一緒に北側の敵を!」
「了解!」
「分かった」
「同じく」
「任せろ!」
「分かりました」
それぞれの返事が廃墟内をこだまする。
士気は十分だ、いける。
「味方の援護を第一に! 撃たないときは物陰に隠れて! あと、一発でも被弾したら回復するんだ、弾もアイテムも惜しんじゃいけない!」
シグレットが注意を促す。緊張が場に満ちる。
パルチたんたちの走る足音と話し声がもうすぐそこに聞こえてきた。
軽く50体はいるだろう。
「さあ、作戦開始だ!!」
ブクマ、感想、評価お待ちしてます