4:オレンジ色の『災厄』
なんか気になったので、サブタイ変えました。
「えっと……それはどういう意味ですか?」
「私に、どうすれば人が撃てるか教えて欲しいんです」
困惑するシグレットに黒髪ロングの女性が返す。
事務所内の空気が一気に冷える。
ふむ、人の撃ち方、ね。
「お客さん、名前はなんて言ったかな? まだ聞いていなかったよね」
「ミカヅキといいます」
「ミカヅキさん、いくら出せる?」
「いくらならいいですか?」
「5万Gだ」
「ミラト!!」
俺の吹っかけにシグレットが非難めいた声を上げる。
プレイヤークエストは、プレイヤーが設定した賞金にプラスしてゲームから補助金として報酬が受け取れる。
ただ、錬金術を防ぐためか、補助金のあるプレイヤークエストは一人一回のみだ。
5万Gも依頼料があれば、貯金と合わせてなんとか家賃を払える。
正直そんなことなんかに、こんな非常識な額を払う奴はいないだろう。
だが……
「構いません。5万Gでいいんですね?」
「……」
「ミカヅキさん!?」
彼女の意思は変わらなかった。
しかし、撃ち方を教えろって言ってもな……
「銃に弾込めて撃鉄起こして相手を狙いながらトリガーを引く。当たらなければ当たるまで繰り返す。はい5万」
「ミラト、そんな適当な……」
「銃の撃ち方を聞いてるんじゃないんです」
ミカヅキさんが険しい目をしながら答える。
そんなことチュートリアル見れば分かるし、そうでなくとも数分調べれば分かる。
「このゲームでの人の倒し方を教えて欲しいんです」
「なぜ?」
「復讐したいプレイヤーがいるんです」
ありがちな理由だった。
「そうは言っても、これゲームですよ。PKなんてしても通報されるか報復されるだけですよ?」
シグレットが正論を述べる。
そうだ。これはただのゲームだ。死んでも手軽に復活できる。
一度PKしたとしても、簡単に相手がやり返してくる。
「だから倒し方を教えて欲しいんです」
「反撃に対して更に反撃、か」
そうなれば後は戦争だ。かなり面倒なことになる。
この話はなかったことにしよう。
正直に「はい、分かりました。お教えしましょう」とは言えないな。
「悪いなミカヅキさん。俺には力になれない」
「そんな! 何故です? お金ならまだありますから」
「いや、金の話じゃないんだ」
「じゃあ何が」
「こっちの都合なんだ」
「違うんです! 話を、話を聞いて下さい!」
「すまないがミカヅキさん、この件は……」
「あなたを! 『災厄』と見込んでの話なんです!!」
ミカヅキさんが机を勢いよく叩きながら立ち上がる。
横にいるシグレット君がビクッと震えた。
「噂で聞いたんです。ここにオレンジ色のツインテールした凄腕PKerがいるって。それが『災厄』って呼ばれてるって!」
『災厄』か……懐かしい響きだ。
昔、掲示板で名付けられたっけな。間違えても自称はしてない。間違えてもな。
あとな、オレンジ色って……これ一応茶髪なんだけど。
「『災厄の橙』……」
おいやめろ。余計なことを言うんじゃないぞ、シグレット君。
背中がむずむずするじゃないか。
「あなたがその『災厄』なんでしょう?」
「落ち着いて、座ってくれ。それは勝手に付けられた仇名だ。なんかこう、すごい恥ずかしいから連呼するのやめてくれ。あと俺の髪はオレンジ色じゃなくて茶色だ」
「……茶色なんだ。オレンジ色だと思ってた……」
シグレット君、ボソッと言ったが聞こえてるぞ。半年も一緒にいたのに知らなかったのか。
いや、今はいいや。ちょっと黙っといてくれないか。
「でも凄腕PKerなんですよね」
「凄腕でもない。それにPKerだったのも昔の話だ。人殺しなんて、今は……もう、やってない」
毎日パルチたん襲撃はこりごりだからな
「そんな、でも!」
ガラガラガラ!!
「オンドレぁぁ!!このオレンジ頭ァ!!よくもワシのシノギを」
パンパンパン!!
「でもじゃない」
ノックもせずに紫髪の女が乗り込んできたので、腰のホルスターからリボルバーを抜いて銃弾をブチ込んだ。
腹に赤いドットを3個表示させた紫髪が、すごい表情でのけぞりながら倒れ、光の粒子となって散った。
「ごっ、カハッ!……なんじゃあこりゃぁあ!」
≪おいしいゆかりん さんをキルしました!≫
「……」
「……」
気まずい空気が部屋に漂う。
「えっと、PKはもうやってないってのは?」
「でもじゃない。俺はもう足を洗ったんだ」
「いやいやいや、やり直そうとするんじゃないよ!! もう無理でしょ! 思いっきりミカヅキさん見ちゃったよ!!」
シグレット君、そんなに厳しくツッコむキャラだったか?
お客さんが目をパチクリさせていたから、いけると思ったんだがなぁ。
「……やはり、やっぱり凄腕じゃないですか。ロクに見てないのに一発も外してない!」
「うおっ」
一変して目をキラキラさせたミカヅキさんが俺の左手を胸の辺りで握りながら迫る。
困ったな、手に柔らかいものが当たる。
≪他のプレイヤーが異常接近しています!警告しますか?≫
ハハッ、無粋なこと言うんじゃねーよ。
「あっ、すみません。異常接近でしたね」
チッ、向こうにもメッセージが出たか。
「ミラト……」
「ふ、復讐したい相手がいるって言ってたな、話を聞かせてもらおうか」
シグレット君が呆れた目で見てきたので、ミカヅキさんを再びソファに座らせて話題を進める。
なんだ、お前もうらやましいくせに。
「話を聞いて頂けるんですね?」
「ああ、もう仕方ない」
「ありがとうございます。実は、私は最近アウター・リーフにやってきたんです」
「いままではラグーンにいたんですか?」
シグレット君が質問した。
ラグーンか、あそこは良かったな。パッケージそのままの世界だった。
このゲームを始めたプレイヤーは、まずそこに出る。
アウター・リーフとはアプデで追加された修羅の国。そう、ここだ。
ラグーンとアウター・リーフは線路で繋がっている。
そして俺は罪線がある限りラグーンには帰れない。
「はい。ずっと一緒にやっていた友達に誘われて来たんです。ここならたくさん物があって、稼ぎやすくて、それに楽しい、と」
「ふむ」
「でもそれが間違いでした。駅から出てすぐに勝負を挑まれたんです。赤い髪をした背の高い女性に『金を賭けてPvPしない? 2対1でいいよ』って」
「受けたのか?」
「武器も何もないんだからやめようって言ったんですが、友達が挑発に乗ってしまって……すぐに武器屋に行って拳銃を買って、それから近くのフィールドで勝負しました」
ミカヅキさんの声が暗くなる。
「結果はひどいものでした。私達は何度も負け続け、友達は一文無しになりました」
このゲームのデスペナルティは所持金とスキルポイント半分、それにアイテムをその場にドロップだ。
ちなみに、さっきの紫頭は何もドロップしなかった。つまり何も持ってなかったということだ。
「通報しなかったんですか?」
シグレットが聞く。
「そりゃ無理だ。同意をしてのPvPでは通報できない」
「はい、それどころか怒った友達がPvPモードを使わずにその人を撃ったんです」
「で、逆襲されて通報された、と。」
「すごい速さの早撃ちでした」
ミカヅキさんがコクリと頷いて答えた。
いくらPK可能なゲームとはいえ、なにも言わずに人を撃つと通報の対象になる。
そして通報されると即BAN……にはならず、指名手配されてクエストの対象になるのだ。
≪おいしいゆかりん さんに指名手配されました!≫
……こんなふうにね。
あの野郎それが狙いだったな、ゆるさん。
「あの、大丈夫ですか?」
「大丈夫、気にしないで、いつものことだから。続けて」
「は、はぁ。それで赤髪の人が言ったんです。『あたしに勝てば通報を取り下げてやる。もしくはこのまま負け続けて全額あたしに寄越すか』と」
ただの初心者狩りじゃなくてバトルジャンキーでもあるっぽいな。
「だからお願いです。私にあの人を倒す術を教えて欲しいんです!友達はそれから怖くてログインしてないんです」
「なるほどね、シグレットはどう思った?」
「ひどいですね。初心者相手にそんなこと……それにお金を取るなんて」
「ああ、まったく同じ思いだ。怒りで身が震えてきたぜ!卑劣な手段で金を得るやつはクズだ!」
「お二人とも……!」
ガラガラガラ!!
「おんどれー! この負けヒロインみたいなオレンジツインテー!! しゃっきん返さんかーい!!」
パンパンパン!!
「俺達が必ず金を取り返せるようにする。約束するよ。ご友人にも安心するように伝えてくれ」
≪みらくるきゃらめる さんをキルしました!≫
「……ミラト、どんな奴がクズだって?」
突然乗り込んできたロリっ子を勢いで撃ってしまった。
ぐへー! と言いながら倒れたロリが光の粒子になって消えた。
あと、これはいつか返すつもりだから卑劣な手段ではない。そんな目で見るんじゃない。
「あの、おこがましいんですが、お金はちゃんと返したほうがいいですよ?」
ミカヅキさんが申し訳なさそうな顔で言った。
まったくもって正論である。
すまないな、みらくるきゃらめる。あとでお詫びのチャットを送るか……
≪みらくるきゃらめる さんに指名手配されました!≫
あの野郎ぉ……!! 絶対に許さねぇ!!
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