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3:のーがんず

 作物を出荷した後、俺達は仕事場にしているギルドハウスへ向かうため、町中を歩いていた。

 

 ストロベリータウン。それがこの町の名前。


 石畳の道路に赤いレンガの三角屋根を持つ家々が並ぶ、ヨーロッパ風のこの町は、このゲームの名前に“ファンタジー”と付いていることを辛うじて思い出させてくれる風景をしていた。


 だが、戦闘可能エリア最大の町であるここは、そのファンシーな名前と見た目に反して、頻繁に銃撃戦の起こるような、昨今のオンラインゲーム界隈でも有数の犯罪都市である。


 具体的に言えば、「きらら系ゴッサムシティ」「綺麗なスラム」「FPSのマップに人が住んでる」「森の中のほうが安全」と某SNS上では例えられているレベルだ。


 道行く人たちは皆それぞれ銃を持っている。

 当然、俺も腰のベルトのホルスターに拳銃を入れていた。


 ベルギー製のリボルバーハンドガン、ナガンM1895だ。


「こんにゃろー! やるのかこらー!」


「おまえこそぉ! なめてんのかー!」


 見て! ロリっ娘たちがドンパチしてるよ。かわいいね。



 勝負がついたのでロリっ娘たちはドンパチをやめてしまいました。あーあ。


「相変わらず治安悪いね」


「いつものことだろ」


 相変わらず平和(?)ないつもの風景を見ながら、目的の場所に辿り着いた。


 この愛らしくも危険な町角に佇む、レンガと木材造りな建物。

 銃、じゃなくて純喫茶『ラピッドファイア』……の二階部分『なんでも屋のーがんず』


 俺達のギルド『のーがんず』の拠点の一つである。


――――


「まぁ、依頼なんか来るわけないよな」


 ポストの中を覗きながら、ため息が出た。

 このゲームでは、なにか困ったことがあったとき、欲しい物があるとき、それをクエストとして賞金をかけ、他のプレイヤーに手伝ってもらうことができるのだ。


 このシステムで稼ぐ者たちを『賞金稼ぎ』と呼び、腕利きならばいろんなクエストが出されて大儲けできるとか。

 実際、俺達のギルドマスターは個人レベルで指名がかかっているのが常で、いろんなプレイヤーから尊敬と憧れの目で見られている。


 ただし残念ながら俺はそうじゃなく、この事務所はいつも閑古鳥が鳴いているという体たらくだ。


「しゃーない、フリークエスト受けに行くか」


「いやいやいや、今来たとこだし、もうちょっと待ってみようよ」


 このゲームには、プレイヤークエストのほかにも、ゲーム側が出しているフリークエストなるものも存在している。

 普通のプレイヤーはまずこちらを受けるのだが、フリークエストはプレイヤークエストに対して報酬も貢献も低い。


 つまり罪線を消したい俺みたいなプレイヤーはプレイヤークエストを取るべきなのだ。


「だからといって誰も来ないのに待ち続けるのはなぁ……せっかくシグレットもいるんだし、どっか遊びに行かないと面白くなくないか?」


「まぁまぁ、僕は別に構わないからさ。……あ、ほら誰か来た」


 ピンポーン、という間抜けなチャイムが鳴った。

 おいおいおい、まさか本当に依頼しに来たプレイヤーか……?


 俺は小躍りしながら玄関をガラガラと開けた。


「はーい!どちらさ、ま……」


「……」


 そこに立っていたのはガスマスクを被った和風メイドという、いかにも珍妙な少女だった。


 子供みたいな小さな体格だが、無機質に赤く反射する大きなガラスの目が、威圧感たっぷりにこちらを見ていた。


「……?」


「……」


「……なんだ鈴目(スズメ)じゃねーか。何の用だ?」


 すでに見知った顔だった。

 この少女もまた、ギルド『のーがんず』のメンバーの一人だからだ。

 普段は下の喫茶店で従業員をしている。


 その仮面を被った無口で、まるでロボットみたいな姿が一部のマニアには大ウケらしく、なんか噂では常連で構成されたファンクラブもあるらしい。


 まあ、たしかにちんまくて、とことこ歩く姿はどことなくからくり人形みたいで可愛げがあるしな。


「あれ、依頼じゃなかったの?……ってスズメさんじゃん」


 後ろからシグレットも顔を出した。


「……ミラト、シグレット、店長から、伝言」


「うん」


 スズメが口を開く。抑揚のない平坦な声だ。

 この子、伝言役に致命的に合ってないと思うんだけど。


 んで、伝言とはいったいなんだ? 俺、またなんかやっちゃいました?


「今月の家賃早く払わないと殺す」


「……」


「……以上、伝言、終わり」


 まったく変わらない声色で死の宣告を終えた、伝書鳩ならぬ伝書スズメさん。


 コクリと一礼して、玄関をガラガラと閉めると、何事もなかったかのように階段をコツコツと降りて行った。

 何もしてないがゆえの伝言だった。


 この建物はギルドで運営しているが、その費用のほとんどは喫茶店のメンバーで賄われていた。

 俺もこの建物を使っている以上、払うべき物は払わなければならないのだが、普通に遊んだり、欲しい物買っていたらいつのまにか滞納していた。


「そ、それでいくら必要なの?」


「えっと、大体100万Gだっけな……?」


「100万!? 無理だよそんなの!」


 シグレットの声が驚きで裏返る。

 たしかにキャベツ売ったり銃売ったり、パルチたんを倒して稼ごうものならかなり大変だ。


「ま、待て! とりあえず今月分だけ持っていって怒りを鎮めてもらおう!」


「いくら!?」


「じ、12万! 月末まで何日ある?」


「あと2日」


「……駄目だな逃げようそうしよう、よし準備だ」


「ええええ! 逃げるの!?」


「しかたねぇだろ! リスキルされまくって身包み剥がされっぞ!」


「無理だよ! 逃げ切れない」


「無理じゃねぇ、やるしか」


ピンポーン……


「「ひっ!」」


ピンポーンピンポーン……


 も、もう来やがったのか!? 早すぎる! 死の宣告から5分と経ってないぞ。


 だが、あの女は、ラピッドファイアの店長なら、やりかねない。

 やると言えば絶対にやる。速射(ラピッドファイア)の名前は伊達じゃないからだ。


「……殺るしかねぇ」


「やるの!? いまここで!?」


 腰のリボルバーに手を伸ばす。

 ここでやらねばこちらがやられる。

 

 そしてそのあと50回くらいリスキルされる。


 そんなのはゴメンだ。


 勝負は一瞬。一秒もいらないだろう。ドアが開いたとき、それが決戦の合図だ。


――ガラガラ


 うおおおおあああああああああああ!!!!


「あのぅ、すみません。なんでも屋『のーがんず』?ってここですか」



 あやうく貴重なお客さんの頭に風穴を開けるところだった。



――――



「シグレットくぅん、お茶を用意してくれたまえ」


「え、えぇ? は、はい」


 おい! 有能に見えるようにしてくれ! 命がかかってるんだぞ!


「ま、掛けてくれ。今助手が茶でも持ってくる」


「は、はぁ」


「助手になった覚えはないんだけどなぁ……」


 俺は困惑するシグレットを無視してお客さんを事務所のソファに座らせた。


 サラサラな黒髪ロングの、いかにも大和撫子ですって感じだが、どこか自信のなさげな女性だ。

 着ているものがセーラー服なので清楚な雰囲気だが、妙に背が高くてなんかイケナイ感じが漂っている。


「粗茶ですが、どうぞ」


「ありがとう」


「え、あ、どうも」


 シグレットがコーヒーカップを持って来て、ソファに挟まれたテーブルに置いた。

 いいぞ、コーヒーか。まるでハードボイルドな名探偵だ。

 俺はお客さんの向かいのソファに腰掛けた。


「ん~いい味だ。やはり最近のVRは格が違う!まるでリアルのコーヒーを越えている」


 とりあえずブラックのまま一口飲み、適当に感想を言ってみる。

 当然だが俺にコーヒーの味の違いなど分かるはずがない。


 だが……


「シグレットくぅぅん、いけないなぁ。砂糖とミルクを持ってきてくれないか?」


 お客さんが口をつけないのを見かねて指示を出した。


 こういう細かい気遣いが有能さを引き立てるのだ。

 いやー、出来る男で申し訳ない。


「ミラト、それ麦茶なんだけど」


「……っすぅー」


 なんで?

 なんで今の季節に麦茶?

 なんでコーヒーカップに麦茶?

 というか濃いくね? 薄める奴だろこれ!


 仕返しか?助手扱いして顎で使った報復か!?


 ……いや、これは多分天然だな。しまった、そういえばお茶もってこいって言ったもんな。

 シグレット君素直だからな。ごめんよ。


「はっはっは。いや、冗談だよ、お客さん。ジョークジョーク。緊張してたからな、さっきのは場を和ませようと……」


「あの!!」


 お客さんが急に大声を出した。そして……


「私に、人の撃ち方を教えて欲しいんです」


 彼女はストレートに、確かな声でそう言った。

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