2:敵はだいたい前にいる
※2/27,シグレット君の描写が少ない。と思いましたので修正しました。
朝の日課を済ませた後、収穫してダンボールに詰めたキャベツたちをギルド所有のトラックまで運んだ。
このゲームではアイテムを持ちすぎると、重量過多で動きが鈍くなってしまう。そのため、実体化した状態で運ばなければならない。
ただ、そのままにしておくと「捨ててある」という判定になって10分で消えてしまう。
だから箱に詰めておかなければならないのだ。
「ふわ~、こんばんはミラトさん」
「んあ? ああ、シグレットか、おはよう。あとさん付けはしなくていいって」
背後から声を掛けられた。
振り返りながら挨拶すると、青髪ショートヘアの女の子がそこにいた。同じギルドのメンバーで、フレンドのシグレット君だ。
ん? なぜ君と付けるのかって? そりゃだって……そういうことだ。
女の子にしか見えないが、彼も男だ。
このゲームには特殊な声帯システムが使われていて、どうがんばっても声が可愛く変換されてしまう。
そのうえ、がんばって男にしようとキャラクリしたせいで、中性的な顔立ちをしていて、身体つきも少年のようだが、かえってそれがボーイッシュな女の子感を強めていた。
格好も半袖の白いTシャツ一枚にミリタリーカーゴとミリタリーブーツというのが、男の子っぽく見られたいというのがひしひしと伝わってくる。
「ん、そうだった。でもおはようって、今は夜の8時だよ。変な感じだけどね」
シグレットがクスクスと笑いながら答えた。かわいい。だが男だ。
ゲーム内時間と現実時間が違っているとこういうことがよくある。よーし、いい時間だから寝るかー。なんて言ってログアウトしたら真昼間で眠気が覚めましたなんて、フルダイブVRゲーマーにはあるあるの現象だった。
「……で、ミラト。あの燃えてるのはいったい?」
「さっきまでお客さんだった物」
「え……ああ、パルチたんのテクニカルかぁ。また派手にやったんだね」
シグレットがトラックの残骸について聞いてきたので手短に答えた。
テクニカルとは、普通の車を改造した即席の戦闘車両だ。たまにガトリングガンなんか載っけてる時なんかもあるな。
今回はただ銃を持ってるのが同乗してるタイプだったから楽に対処することができた。
そうだ、さっき拾ったAK-47がまだ残ってたな。シグレット君は銃好きだし、ちょうどいいや。
「シグレット、これやるよ」
「え、何さ急に。いいの?ありがとう。……いや、これパルチたんのAKじゃん!絶対さっき倒したのじゃん!」
「ログインボーナスだよ。今日の」
「いやいや、こんな物騒なログボなんかないよ! 処理に困ったから押し付けたんでしょ?」
俺のプレゼントに笑顔を見せたのと一転して見事なツッコミをいれてくれるシグレット君。
そうだ……所詮AKなんていっぱい拾えるから押し付けたのだ。
「そうかっかするなよ。別に売ってもいいからさ」
「もう……いいよ、別に。あ、でも修理とカスタムして返すよ」
「マジで?」
「うん、スキルポイント稼ぎに使わせてもらう。元はミラトが手に入れた物だから、ミラトが売ればいいよ。お金、困ってるんでしょ?」
「うおぉ、ありがとうシグレットくん様ぁ!」
シグレット君マジ天使。だが男だ。
このゲームの銃には耐久力が設定されており、拾った物なんかは壊れるギリギリだったりする。
当然、そんなものはキャベツのほうが高いレベルの値段でしか売れない。
修理した銃なら高く取引される。カスタムされたのならなおさらだ。
ただし、それには相応のスキルが必要で、他のスキルに振っていればそんな余裕がない。
そのため、カスタムが施されている銃は貴重で、シグレット君はゴミから宝を生み出す名ガンスミスの一人なのだ。
「そのかわり」
「ん?」
「仕事、ちゃんとしよ?」
「う、はい……」
弱みを握られてしまった……
まぁ、仕事といってもゲーム内のことなのだが。
「そうと決まればそれ、早速出荷しちゃおうか」
「へいへい」
シグレットがトラックの荷積みを手伝ってくれた。
一緒に町まで行ってくれるようだ。
――――
「そういえば罪線、まだ消えないんだね」
町に向かう車中、助手席にいたシグレットが唐突に口を開く。
「うん? そうだな」
運転してる最中だが、バックミラーに映る自分の顔を見ながら言葉を返した。
俺のキャラの顔には右半分には眼を跨ぐように雷型の曲がった赤と黒のマーカーがある。
これは罪線というもので、ゲーム内での犯罪行為をしてキルされたり、捕まったプレイヤーが収容所に送られたとき、顔に描かれるものだ。
罪線があるプレイヤーは少なくはない。むしろPK可能エリアにはかなり多いし、それが一種のステータスみたいなところもあるという。
まぁ、あんまり褒められたことではないんだが……
「赤と黒……なんだっけ?」
「PKと建築物破壊だな」
罪線の色は犯した行為の種類によって変わる。
だから、あんまりやりすぎると顔にドイツの国旗が描いてあるみたいになって恥ずかしい思いをすることになる。
「いつ消えるんだろうね?」
「さあ? 分からん。でも早く消えてもらわないと、さすがに毎日ログボは飽きるなぁ」
「じゃあ、なおさら依頼をがんばらないとね」
なんか俺がまともに働いてないみたいになってない?シグレットさんや。
まあ、実際シグレットが正しいのだがな。
犯罪行為をするとパルチたんに襲撃される確率が上がるのだ。運営からのペナルティの一つなのだろう。
俺の場合は、それがほぼ毎日になっていた。
これを消すにはプレイヤーに貢献する行為をしなければならず、その代表が「依頼解決」なのだ。
「クエストねぇ……」
「あ! ミラト、前、前!!」
「え」
ドガシャッ!!
「ぱ、パルチたんに栄光を……」
≪+50G獲得しました!≫
……ボーっとしていたら野良パルチたんを轢いてしまった。
「……またログボ貰えるね」
「……NPCだからセーフ」
ま、まぁパルチたんってプレイヤー見境なく攻撃してくるし、他のゲームで言うゴブリンみたいなもんやし……
可愛いのは見た目だけで、言葉も行動もヤベーしな、あれ見た目おっさんだったら完全にテロリストだぞ。
「でも気をつけて運転してね?」
「はい」
町への道のりはまだ遠い。
車を運転するときはシートベルトをきっちり締めて、ちゃんと前を向こう。お兄さんとの約束だぞ!!
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