12:交渉
「いた! ミラトあそこだよ!!」
「ああ!」
駅に着いた俺達は早速ミカヅキさんを見つけることができた。
ミカヅキさんの目の前には赤髪のプレイヤーが立っている。
「じゃあ、そういうことで。行こうか」
「はい」
「ちょっと待ったぁー!!」
そう叫びながらバイクをドリフトさせて停車させた。
間に合ったか!?
「ミラトさん!? シグレットさんまで」
「誰だアンタたち」
2人が豆鉄砲食らったような顔をしている。
「通りすがりの賞金稼ぎだ。その勝負、ちょっと待ってくれ」
「いや、通りすがりは無理があるでしょ」
知らん。そんなことは今重要じゃない。
「ミラトさん、どうしてですか? あ、そうか。依頼料まだ払ってませんでしたね」
ミカヅキさんが思い出したようにそう言う。
「違う、戦っちゃ駄目だ。今のあなたでは勝てない。勝負は一旦保留だ」
「どうしてです? 私はもう覚悟したんです」
「無理だ。人はNPCとはまったく違う」
「ちょっとアンタ、勝手に出てきて何の真似? もう決まったことなのだけど」
赤髪のプレイヤーが前に出てきた。こいつが件のPKerか。
「こっちで決まった話を邪魔しないで欲しいんだけど」
「それは困るな。この人はPvP初心者なんだ。お前には決して勝てないような、な」
「そんなこと関係ないわ。お互い合意の上でのことよ」
「初心者狩りが何を……!」
赤髪の態度にシグレットが怒りを表す。
だがここでそれはあまりよくない手だ。
「落ち着けシグレット、相手の思う壺だぞ」
「……くっ!」
「……で? もういい?」
赤髪のプレイヤーが退屈そうに聞いてきた。
もはや相手になどしないとでも言いたげだ。だがそういうわけにはいかない。
「いや、よくない。あんたには俺と戦ってもらう」
「ミラトさん……!?」
「……」
最後の切り札だったが、迷っている場合ではない。
さて、どう出る?
「なんで私がアンタと戦わなくちゃならないの?」
そうなるよな。しかし引き下がるわけにはいかない。
「あんた、金が目的なんだよな? 俺に勝ったらミカヅキさんの倍は出すぜ」
「へぇ、それなら後で戦いましょ」
「いや、今じゃないと困る。この後ログアウトするからな」
「それは残念」
まだだ……
「実はな、ミカヅキさんに依頼料として5万Gもらう約束になっている。それもやる」
「……」
「……そうか俺に勝てそうにないと思っているな? そうだな。だから初心者しか相手に出来んのか」
「なにを……?」
「これでも俺は対人戦で有名だからな。仕方ないか。ここらには俺を倒せるレベルのプレイヤーなんていないしな」
金をぶら下げるだけでなく挑発してみる。
押して駄目なら引いてみろって奴。なお、これでも相手が有利だ。
「アンタの魂胆はよくわかってるんだよ。私を怒らせて気を逸らせるつもりだな? その手には乗らないからな」
赤髪が自分の有利さに気がついた。だがその反応こそが目的だ。
「そ、それは困る! 今すぐ戦ってもらわないと」
「ふーん、やだね」
一気に下手に出る。
相手に自分が上だと錯覚させるためだ。
「頼む! 実は俺の首には賞金がかかってる! それも持って行っていい! なんなら武器なしでやってやってもいい」
「やってやる?」
「させてください!」
弱点をさらけ出す。ついでに額を地面にこすりつけた。
いわゆる土下座だ。これされれば大概の相手は調子に乗る。俺の勝ちだ。
武器なしと言ったが、そんなつもりは微塵もない。
「ミラト……僕からも、どうかお願いします」
シグレットが俺の横で土下座した。
助かる。
「……へぇ、ならいいよ。そこまで言うんなら相手してあげるよ」
釣れた!! へへ、ちょろいぜ。だがシグレット君を土下座させた罪は重い。ボコボコにしてやるからな。
「ありが」
「待ってください!!」
ちょうどいいところでミカヅキさんが割って入ってきた。
おいおいおい、こんなところでやめてくれ。
「これは私とテスタロッサさんの勝負です。それなら私も戦います」
こんなところで2VS1の要求!? それはさすがに無理だろ。
というかこいつテスタロッサっていうのか。初めて知った。
「ミカヅキさん、あなたは黙っててくれ。俺一人で戦う」
「いいぜ、2人で来いよ」
マジか、ラッキー!
相手が有利さを勝手に捨て始めた。馬鹿め。その慢心が命取りだ。
「ただし、使っていいのは2人で拳銃1丁。どっちかが死んだ時点で俺の勝ち。こういうルールでさせてもらうぜ」
そのかわり結構きつめのルールを指定された。
「分かりました」
「ああ、それでいい」
だが負けるわけにはいかない。
「よし、決まったな。じゃあ、行こうか」
赤髪がニヤリと笑った。
俺も内心でニヤリと笑い返す。
戦いが今、始まろうとしていた。
読んでいただきありがとうございます!
活動報告でも述べたのですが、あと1話か2話くらいで終わらせようと思います。
最後までよろしくお願いします。