10:要塞戦④廃墟の七人
「わああああああ!!」
RPG-7の爆発音と悲鳴が響く。
視界の端に2人吹き飛ぶのが見えた。
「大丈夫か!? 今そっちに行く!」
やられた! 初心者二人組だ。このままでは戦線が崩壊する!
俺は急いで彼女らのほうへ走った。
「あ、脚が動かない! どうなってんの!?」
「う、ぐぅ」
「しっかりしろ! 大ダメージによる機能停止だ。今治してやる」
脚にダメージを負ったほうに回復薬を使った。
それよりシグレットはどこだ? 姿がどこにも見えない。
「シグレットさん、シグレットさんが俺をかばって……」
「直撃するのが見えた。あの人はもう……」
「……わかった。相方にこれを使ってやれ」
回復薬を初心者二人組に渡す。
俺は地面に落ちたAK-47を拾った。
「いたぞ、人間め、もう逃がさん」
RPG-7の着弾地点からワラワラと敵が入り込んできた。
「うおおおおおおあああああああああああああ!!!」
乱射しながら突撃する。
「なんだこいつは、あぐぅ!?」
「うらあああああああああああ!!」
銃弾を食らい、消滅したパルチたんの後に来たパルチたんに銃剣を突き刺す。
そのまま抜かずに銃を奪い取って乱射した。
「次はどいつだァ!?」
侵入を試みる敵を撃ちまくる。
敵がいなくなれば次の敵を、そいつも倒せば次の敵を、その次の敵を、その次を、次の敵を。
弾がある限りトリガーを引き続ける。
弾がなくなれば銃剣で突き刺し、銃剣が使えなくなれば銃を奪ってまた撃つ。
殺戮のサイクルがそこには出来ていた。
「人間……共、め……」
「どうした! そんなもんか!? 俺はここだぞ!!」
まだだ、まだ足りない!!
俺はパルチたんを撃ち続けた。
「オラアアアア!! もっと撃って来い!!」
「なんだ、なんなんだあのニンゲンは!!」
「災厄、災厄だ!!」
敵が動揺している。チャンスだ。
「どうしたモフモフ! 人間ごときに負けるのか!?」
「ひ、ひい!」
「ならこっちから行くぞ!!」
攻撃の手が緩んだパルチたんに突撃する。
怖気づいた敵にも区別なく銃弾をお見舞いしてやった。
「シグレットの分だ!」
もはや目の前の敵を打ち倒す以外のことなど頭になかった。
「退却だ!」
「逃げろ、こんなの勝てないぞ!」
「逃げるな! もっと戦え!!」
俺は逃げる敵の背中にも容赦なく銃弾を叩き込んだ。
だが、すべてを倒しきることはできなかった。
50キルを越えた辺りで、気づけばパルチたん達はまた退却していた。
廃墟周辺はまた静かになった。
「はぁ、はぁ、やった……のか?」
誰かがフラグを口にしたが、ツッコんでやる余裕などなかった。
「勝った……のか」
「ふう、生き残った」
「すげぇ、また勝ったんだ」
「しかもこの人数で!!」
「でもシグレットさんが……」
「俺達のせいで……」
初心者二人組はシグレットが倒されたことに気に病んでるようだった。
「何言ってんだ。別に本当に死んだわけじゃないし、自分から進んでかばったんだ」
火照った感情を鎮めてフォローする。
シグレットはそんなことでいちいち怒るような器量の奴ではない。
シグレット君はマジ天使だからだ。
「ミラトさん……いや、隊長!!」
「みんなお疲れ様。5人生き残っただけでも万々歳だ」
「隊長のおかげです!!」
「隊長!!」「GG、ミラト隊長」
「へへ、よせやぁい。みんなが頑張ったからだよ」
初心者二人組とストライカーが俺を褒める。
英雄になってみたい! なんて願望がないといえば嘘になるが、なんか、こう、恥ずかしいなこれ。
「ミラト隊長に敬礼!!」
「ビシッ」
「よせって。そんなことより、外はドロップ品でいっぱいだ。早く行かないと全部もらうぞ?」
「マジか。こうしちゃいられねぇ!」
「あ、待ってくれよストライカーさん!」
「2人ともずるいぞ! 待ってくれ~」
「ふう」
3人とも俺を置いて外へと走っていった。
俺はその場にへたり込んだ。今までの疲労が一気に来る。
「お疲れ様です。ミラトさん」
「ミカヅキさん。お疲れ様」
ミカヅキさんが俺の顔を覗き込むようにしゃがんだ。
黒髪の良く似合う、優しい微笑をしながら。
「ミラトさん、すごく楽しかったです」
「ハハ、タフだな」
「ふふ、ミラトさんのおかげですよ」
「ミカヅキさんが戦うと決めたんだ」
「あなたの指揮がないと無理でしたよ。あなたのおかげです。素直に喜べばいいじゃないですか」
だからそういうのは照れる。
素直じゃないのは認めるが、謙虚だというものだ。うん。
「あとは攻略待つだけだな。ぺペロンさん、ちゃんと伝言できたかなぁ?」
「心配性ですね。別に攻略できなくてもいいですよ。十分戦ったじゃないですか」
「……そうだね。俺達、がんばったしね」
「ええ、よくがんばりましたね。ミラトさん」
互いに健闘を褒めあう。
そうだ、要塞戦の成功などどちらでもいい。
ミカヅキさんに自信が着くこと。それが俺達の勝利だから。
「本当にお、つ……」
そう言いかけた瞬間、自分の目を疑った。
ミカヅキさんの背後に何かいる。
「え?どうし」
「我らパルチたんに栄光あれぇぇぇ!!」
「危ない!!」
ミカヅキさんを右に引き倒した。
後ろから現れたのはボロ雑巾のようなパルチたんだった。まだ生き残りがいたのだ!
パルチたんはそのまま俺のほうへ突進してきた!
「ぐぅ!!」
すんでのところでパルチたんの手にある“何か”を抑えることができたが、勢いを殺すことが出来ない!
そのまま後ろへ押し倒される!!
「ぐわあああああああああああ!!」
HPバーが急激に減る!
急いで顔を前に向けると、自分の胸にパルチたんが“何か”を突き立てたのが見えた。
鈍い黒色の金属。20センチほどの刃を持つ銃剣だ!
「クソッ! 放せ! クソックソッッ!!」
「栄光を、パルチたんに栄光を……」
馬乗りになったパルチたんがその両手に体重を掛けた。
どんどん銃剣が刺さりこむ。と比例するようにHPバーがグングン減る。
痛みはないが、身体に異物を挿し込まれた不快感が満ちる。
「うぐあああああ! やめろ! こんな、こんなところで死にたくない!!」
なんとか押しのけようジタバタするが、パルチたんは微動だにしない!
「人間、コロス……ニンゲン……コロス」
だからゆるキャラにあるまじきこと言うんじゃねぇ!!
≪スキル『虫の息』が発動しました。≫
「がああああああああああああ!?」
遂にHPが尽きた。
スキルのおかげでまだ生きているが、スキルのせいで手が鉄のように重くなる。
もう支えることもできない。
限界だ……
――ズドドドドッ!!
死を意識したとき、銃声が聞こえて目の前のパルチたんが光になって消えた。
「ミラトさん! 大丈夫ですか!? ミラトさん!! 今回復を」
ミカヅキさんが俺を呼んでいる。
俺を助けてくれたのか。
「あ、ああ。もういい。外に、外に出してくれ」
しかしもう回復させる必要はない。
ただ、外に出たい……
「おい、さっき銃声が……ってどうしたんだ!?」
「敵の残党が……それより外に……」
ストライカーも来たか……駄目だ、もうほとんど何も聞こえない。
俺は2人に肩を支えられて外に出た。
「ここでいい、限界だ……」
「ここで?」
「こんな泥だらけのとこで」
「いいんだ……」
廃墟を出てすぐの泥だまりで降ろしてもらった。
むしろここがいい。
1分が経ってしまうとアウトだ。
時間はない。
「がんばれ隊長!」
「ミラトさん……私もすぐデスして戻ります」
「そんなこと、しなくてい、い……ぐふっ」
俺はうつ伏せに倒れて泥水の中に顔を突っ込んだ。
「うわあああ!! ミラトさん、すぐ起こし、ま……」
「ジュゾゾゾゾ……」
「す?」
「ゴクッゴクッ!!」
「……は?」
「プハー! まっず!!」
泥水の味とジャリジャリした感触が口に広がる。
やっぱり最近のゲームはすごいな、こんなとこまで再現してて。
……いや、実際の味は知らないのだが。
「……えぇ」
「……うっわ」
「いやー、死ぬかと思った……どうしたの? 2人とも」
運んでくれた2人が信じられないような目で見ている。
「え、いや、なんで?」
「何飲んでんだアンタ……」
「ああ、これか。特殊なパッシブスキルだよ。言ってなかったっけ?」
『泥中に活』は泥水を飲むことで回復できるようになる恒常スキルだ。
普通に使えば回復量の小さいゴミなのだが、『虫の息』のデメリットに阻害されない効果をもつ。
「生存力上がるからおススメだよ」
「あ、はい、さ、参考にしますね……」
「そんなもん使いたくねぇ……」
は? なんで?
≪おめでとうございます!!敵要塞を占領しました≫
≪帰還まで残り90秒……≫
勝利のファンファーレが鳴り響く。
「お、向こうがクリアしたみたいだな。おつー」
「……」
「……」
あれ? 今お疲れ様でした~とかまた遊びましょうね~とか言い合う場じゃねぇの?
2人は微妙な顔のまま見合った。
「なんというか……」
「このゲームってやべぇな」
そう言い終えると、周りの景色がドットになって崩れた。
要塞戦は我々の勝利に終わった。
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