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1:ログインボーナスは普通は歩いてやってこない

初投稿です

≪接続に成功しました。プレイヤー:ミラト『GLF』の世界へようこそ!≫


 見慣れたメッセージが暗闇の中に表示される。

 一呼吸置いて目を開けると、これまたいつも見る天井があった。このゲームのログインは目覚めのような形式になっている。


「む、んー!」


 じっくり睡眠をとった後、自然に目が覚めたような感覚だ。実に気持ちがいい。

 俺はまず、軽く伸びをしながらベッドから起き上がり、窓に近づいてカーテンを開ける。薄暗い部屋に朝日が差し込む。現実では夜なのだが、ゲーム内時間は朝だ。


 そのまま踵を返すと部屋の出口まで歩いてドアの横に置いてある姿見の前に立った。


 フルダイブVRゲームで鏡を見ると妙な気持ちになる。他人が映ってるようなものだからだ。

 「ゲームばかりしていると、現実と区別が付かなくなる」と世間では言われているが、この点においてはそんなことはない。なんせ、視点の高さや声が違うと違和感が絶対に出るからな。


「しかし……まあ、可愛くできたな」


 ()()()()()()()()そう呟いた。

 そう、このゲーム内での俺のアバターは茶色の髪をツインテールにした美少女なのである!


 いや別に男キャラが使いたくないって訳ではないよ?というか使えない。……なぜかって?


 それはこのゲーム『グレート・リーフ・ファンタジー』(略してGLF)は、なんと男が存在しないからだ。正確にはキャラクリエイトに性別の項目がない。男キャラが作れないのだ。


 もとからこのゲームは本格的ほのぼの牧場シミュレーションゲームを謳っており、女性客をターゲットにしていたらしく、そもそも男がプレイすることが考えられていない。


 公式サイトの質問コーナーでも「Q,男性キャラが作りたいのですがどうすればいいですか?」「A,男性のようにキャラクリエイトしてください」とか書かれてるレベルだ。


 割り切ったスタイルだが、そうすることで制作費の節約とかがされているらしい。


 んで、なぜ俺がそんなゲームをしてるかだって?

 ……特に情報も集めずに買ったからだよ!!


 広い草原にログハウス、可愛い動物さんたちと、ちょっと芋臭いオーバーオールを着た女の子、いかにも平和そうな田舎の風景、都会に汚された俺はそんなパッケージに惹かれて、そのままレジに持っていったのだ。


 もちろん返品することも考えたが、意外に男性プレイヤーも多いらしく、某掲示板でも「男なのにGLFやってる奴wwwwww……いいよね」というスレが建つくらいだ。

 なので、ちょっと恥ずかしいような気もしたが、やってみることにしたのだ。


 するとどうだろうか、見事にハマってしまった。


 そもそも自分を見ることが鏡くらいしかないので見た目あんまり重要じゃなかった。一日中キャラクリしたのが無駄になった。


 それどころか、周りのプレイヤーも見た目女の子ばっかりなので目に優しい。まぁ、ハゲゴリラの群れなんか見ても癒されないもんな。


 あと、ネトゲの中のカップルも仲のいい女の子同士でイチャついているように見えるのでイライラしない、全員姫なので姫プからのギルド崩壊しない、といいことだらけだ。GLF万歳。


 あえて欠点を言うとすれば全員中身おっさんに見えてくるぐらいだ。ギルメンが言うにはまるで女子校みたいだとか。


「さて、日課を済ませるか」


 アイテムボックスから象みたいなジョウロを取り出す。


 ギルドの拠点であるログハウスから出て、左に曲がり、外の水場へ向かう。拠点の隣の地面から生えるように置いてある蛇口から水を出し、ジョウロに入れて畑へ向かう。


 畑にはギルドの皆で植えた野菜があり、一番早くログインした人が水やりすることになっている。そしてそれは、たいていの場合、俺なのだった。


「大きく育てよ~」


 愛情を込めて作った野菜はおいしい。いい言葉だね。


 鼻歌交じりに水を適当にバラ撒く。キラキラした水飛沫が小さな虹を作る。明らかに入ったより多くの水がジョウロから出ているし、水がかかってないところもあるが気にしない。ゲームだしな。


 一際大きくなったキャベツを素手で収穫し、ダンボールに詰めていく。このゲームは収穫に道具はいらないのだ。


 ふと食欲が湧いたので、採れたて新鮮なキャベツの葉っぱを毟って口に入れる。するとキャベツ本来の優しい甘みが広がった。


「うん、おいしい!やっぱり最近のゲームはすごいなぁ」


 しみじみそう思いながら収穫を終えた。いやーいい汗をかいた。

 ……だがまだ日課は終わっていない。


 何処からかエンジン音が聞こえる。そちらに視点を向けると遠くに1台のトラックが見えた。ちょっと大きめのピックアップトラックだ。


「お、来た来た。おーい!」


 拠点の入り口である門に向かいながら、手を振った。トラックに乗っているのは、どこかのゆるキャラのパチモンみたいな二足歩行の動物っぽいモフモフな生き物だ。丸っこい手を器用に使いながら運転している。

 かわいいね。


 こいつらはプレイヤーではない。いわゆるNPCだ。そして何をしに来たのかというと……


「いたぞぉぉぉぉぉ!!!!! 人間だぁぁぁぁぁ、撃ち殺せ!!!!!!!」


 ゆるキャラみたいな見た目とはかけ離れた怒号が飛ぶ。トラックの荷台に乗ったパチモン共が持ったロシア製のアサルトライフル、AK-47の銃口が火を噴いた。丸っこい手を器用に使いながら発砲している。

 かわいいね。


「同志の仇だぁぁぁ!!! 食らえ!!! 死ねぇぇぇぇぇ!!!」


 いや、かわいいわけあるか。ゆるキャラにあるまじき発言してるぞ。

 こいつらはこのゲームの敵性NPC。そして目的はプレイヤーを抹殺することだ。


「っ!! 食らうかよ!」


 俺は抹殺されないようにすばやく門の陰に身を隠すと、あらかじめ置いておいたアイテムボックスから、独特なくびれを持った緑色の物体と、1メートルほどの長さを持つ鋼鉄の筒を取り出した。

 ロシア製のロケットランチャー、RPG-7だ。


 弾頭と発射薬を組み合わせ、発射器に差し込んで後ろを見る。誰もいないことを確認し、RPG-7を右肩に担ぎ、半身だけ壁から出して、照準に先頭車両を捉える。


 パチモン共は容赦なくこちらを撃ってくるが、揺れる車上からの攻撃だ。まったく見当違いの場所に弾が掠めていく。


「……すぅー」


 一呼吸置いて撃鉄を起こし、トリガーに指を掛けた。


「オイ車を止めろ! 弾が当たりやしねぇ!!」


 トラックが急停止した瞬間、指が自然に動いた。


 バシュッ――と強烈な発射音と閃光の尾を放ちながら、弾頭が狙い通り一直線に飛翔した。


「おい! やべぇぞどぐぅわぁぁぁ!!」


 RPG-7の弾頭はそのままトラックの運転席に突き刺さり、大爆発を起こした。運転席にいた奴はひどいことになっただろう。

 荷台から乱射していたゆるキャラも急いで降りようとしたようだが、爆発に巻き込まれて、こちら側に飛んできた。


「ログボゲット、っと」


 RPG-7をその場に置き、さっきまでトラックだった物へと歩き出した。


 落っこちているAK-47を拾ってスライドを引く。

 カチャリ――と小気味のよい音をさせながら弾薬が飛び出た。

 よし、まだ使えるな。


「うぐぐ……我らパルチたんに、栄光、をっ」


「……」


 まだ息の根があったパチモンゆるキャラがハンドガンに手を伸ばしたので、遠慮なくAK-47のトリガーを引いた。


「ガハッ!」


≪スキルポイント+200獲得しました!≫

≪+550G獲得しました!≫


 3発の銃弾を受けたモフモフな身体が光の粒子となって虚空へ消えた。


「ふぅ、朝の日課終わり」


 一息ついた俺は、炎が上がるトラックの残骸に近づいて腰を下ろした。


 このゲームでは火とかに触れてもほのかに温かいレベルにしか感じない。

 そういや前にその辺りの感覚がめちゃくちゃリアルなゲームをやったが、無意識に大量の汗をかいたらしく、布団がびしょ濡れになったことがあったっけな。


 ポケットの中を探ってタバコを取り出すと、トラックから出る炎に近づけた。

 チリチリとタバコの先端に火が灯る。フィルターを咥えてゆっくりと息を吸うと、芳しい香りが口の中に広がった。


「うん、おいしい! やっぱり最近のゲームはすごいなぁ」


 タバコを口に咥えたまま、銃を担ぎ、凄惨な戦闘跡に背を向け歩みを進める。

 直後に背後で一層大きな爆発が起きた。


 ……このゲームには他と違った点がもう一つある。

 そう。銃だ。1年ほど前、なぜかアプデで現代兵器が実装されて、このゲームは生まれ変わった。地獄の方向へ。


 そして、グレート・リーフ・ファンタジーではログインボーナスを取る必要がない、向こうから歩いてやってくるから。ただし倒せたらの話だがな!!

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