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第9話 復帰、そして新たな事情

「どうもお世話かけました」

 オレはそう言って看護婦さんに軽く会釈する。オレの担当だった若い看護婦さんは笑顔でオレを見送ってくれた。花梨との通話から二日がたっていた。

「ふぅ。さてと、行くか」

 歩き出すオレ。そう、オレはあの後も驚異的な回復力を見せて瞬く間に傷を治してしまった。

 担当医もさぞや驚いたことだろう。全治二ヶ月の人間が、たった四日で退院したのだから。正直まだ足の節々などは痛むが無理を言って退院させてもらったのだ。


 花梨が昨日話すと言っていた話は結局のところわからなかった。

 昨日、また花梨から電話がかかってきて、「やっぱり今日の話はなし! 早く退院しなさいよ!」と、言うだけ言って一方的に切っていきやがった。肝心の誠也も昨日は見舞いに来なかったので退屈だったし、一刻も早く退院して誠也たちからイニシェーターなどのことを聞きたかった。無理して今日退院した理由の一つはそれだ。

「ここで待っとけって言ってたな……」

 オレは病院前の道で立ちながら待った。すると遥か向こうの道路から銀色の一台の車が走ってきた。

 そしてオレの前で停車。運転席側の窓をゆっくりと開けていく。

「乗ってくれ」

 予想通りそれを運転していたのは誠也だった。クールな顔でそう言う。

 オレは言われた通りに助手席へとお邪魔する。なんだか高そうな車だ。

 オレが乗ったのを確認して誠也は心地よいエンジン音と共に車を発進させる。

「身体の具合はどうだ?」

 前を見ながらそう聞いてきた。

「まだ完全じゃないっすけど、もう大丈夫ですよ」

「そうか。それと花梨から何か話はあったか?」

「いや何もないんすよ。って何で知ってるんですか?」

 誠也はクールな表情を崩さずに答える。

「それを俺が言うのは相応しくない。悪いが、勘弁してくれ」

 何か腑に落ちなかったがオレはそれ以上詮索しなかった。この人にもいろいろと事情があるのだろう。きっと花梨にも。

「それとだ」

 すぐに誠也が付け加える。

「花梨のやつが何か話すときは、ちゃんと聞いてやってほしい」

「もちろんいいですよ。……なんだか誠也もいろいろと大変そうですね」

「………あぁ、全くだ」

 そう言って誠也は車を目的地まで走らせた。



 ――30分後。

 オレと誠也はとあるマンションの前に来ていた。

「まさかとは思うんすけど、ここに住んでるんですか?」

 思わずそう聞いてしまう。何故ならここは高級マンションが建ち並ぶ一角で、変な一軒家なんかよりも設備もそのお値段もよっぽどいいからだ。目の前にそびえ立つマンションも例外ではなさそうだ。

「そうだが?」

 まるで当然のことのように言う誠也。なんだかわからんが今のオレの目には誠也の姿が成功者のようなオーラを放っているように見える。……やっぱりマジでちょっと尊敬してしまう。

 そんなことを考えているオレを置いて、誠也は漆黒のスーツの胸ポケットから鍵を取り出して、マンションの入り口に取り付けてある端末のようなものにそれを差し込む。

 すると軽い電子音が鳴って、目の前の自動ドアが開き、オレたちを迎えた。それに気付いたオレは慌てて先に入った誠也に付いて行った。



 ――マンション七階。

 最上階でエレベーターを降りるオレと誠也。

 誠也は通路を少し歩くとある部屋の前で立ち止まり、ついてきたオレの方を振り返った。

「ここが俺の部屋だ。今後は好きに使ってもらってかまわない」

「マ、マジかよ……」

 突然の誠也の予想外の言葉にオレは思わず敬語を使うことを忘れて言う。中々自分の部屋を使っていいとは言えないものだ。なんかすごい展開だ。

「あぁ、嘘は言わん。それと……」

 誠也がそう言ったところで誠也の部屋のもう一つ隣の部屋の扉が開いた。そしてよく知る顔が出てくる。

「ん? やっと来た?」

「か、花梨!? なんでお前がこんな場違いなところに!?」

「………張り倒すわよ」

「すみませんでした」

 思わずオレは条件反射で謝ってしまう。……ん? ちょっと待て。

「つーことは花梨もここに住んでんの?」

「何? 悪い?」

 いや、悪くはないんだが……。まさかこんな高級マンションに住んでるなんて思いもよらなかった。……なんだかちょっと羨ましい。

「揃ったところで中に入ろうか?」

 頃合いを見て誠也が言う。

 その言葉を聞いたオレと花梨は誠也の部屋に入った。

「お、お邪魔します」

 少し緊張ぎみに言うオレ。なんせこんな高級感あふれる部屋に入るのは初めてなのだ。緊張もするだろう。

 そんなオレとは対照的に挨拶もなく部屋にズカズカと入っていく花梨。普通、逆じゃないだろうか?

 そんな疑問を胸に秘めながらオレは誠也の部屋を見渡す。

 なんだかとてもオシャレな部屋だなと思った。全体的に黒を基調とした家具が見られる。しかもよく整頓されており、掃除もしっかりできているみたいだ。和正のゴチャゴチャした汚い部屋とは大違いだ。

 オレはリビングらしき部屋にあるこれまた黒い大きなテーブルの椅子に腰掛ける。誠也もオレの向かいの席に座った。花梨だけは少し離れたところにあるソファに寝ころんでいる。

 ちきしょー! オレもあの柔らかそうなソファに座ってみたかったのにッ!!

 そう思ったが後の祭りである。

「それでは何から話そうか?」

 誠也が両手を顔の前で組みながらオレに問う。

「ん〜、そう聞かれるとオレも何から聞いていいかよくわからないすね」

 オレはすぐに話題が浮かばなかったのでそう答えた。

「それもそうだな。ではまずイニシェーターとイドの関係だ」

「関係……ですか? イニシェーターの力がイドと一緒だとかなんとか、ですよね?」

「あぁ、それは二日前に話したんだったな……。つまりイニシェーターはイドと限りなく近い存在だということだ」

「……なるほど」

 オレはがんばって説明を理解しようと必死に聞く。

「よってイニシェーターはイドに狙われる数少ない人間なんだ」

「え? でもイドは人間を襲わないんじゃ?」

「イドは同族を喰らう存在」

 ふと花梨がオレの質問に対してソファから呟いた。そして誠也がそれを補足する。

「イドは俺たちイニシェーターを一般人とは違い、同族とみなして攻撃してくるんだ」

「な、なるほど」

 オレは頷く。なんとか話についていけそうだ。

「ここで厄介なのがイドの捕食特性だ」

 誠也が言う。またなんか難しい単語が出てきた。

「イドは同族を喰らうごとにその力を増していく。この前の巨大なイドのようにな」

 オレは思い出した。あの巨大なイドを。確かにあれは並のイドではなかった。あの姿は数多くの他のイドを捕食した結果というわけか。

「だから俺たちイニシェーターはイドを駆逐する。数を減らしていけば、それだけ巨大な敵を生み出すこともなくなるからな。しかもあれは普通の人間では倒せない」

「………大変、ですね」

「………全くだ」

 オレの(ねぎら)いの言葉に素直に答える誠也。それを見ていた花梨は言う。

「何この微妙な空気は……」

 正直オレもそう思った。なんだかオレはこういう静かに話をするのが苦手なようである。

 その時、急に花梨がソファから立ち上がる。

「ん? どうした花梨? トイレか?」

 次の瞬間オレの顔面に右ストレートが食い込んだ。

「くふッ!」

 見事にノックダウンさせられてしまうオレ。

「なんであんたはいつもいつもそんなにデリカシーがないのよ!? イドよ、イド! 行くわよッ!」

 そう言ってまだ再起不能のオレを置いて部屋から出ていく花梨。あ、鼻血でてきた。

 そんなオレにティッシュを渡す誠也。オレはこのフォローにとても感謝した。



 ――10分後。オレたちはイド退治の帰りにいつも花梨を降ろしていた公園にいた。

「本当に出るんすか? まだそんな時間じゃないっすよ?」

 そう、今の時刻はまだ午後4時を過ぎた辺りだ。いつもは早くても7時くらいにならないとイドは出現しなかったのだ。

「あたしの感がそう言ってるのよ。間違いないわ! あんたは自分の身の心配をしときなさい!」

 オレは誠也に質問したはずなのだが、何故か横から花梨に叱られた。

「まぁ俺も出現の気配を感じたから間違いはないだろうな」

 なんか花梨と違って、誠也が言うと説得力があるなと思った。

 周りを見回してみるとオレたち以外に人はいない。これならここで戦っても大丈夫そうだ。

 その時、ふいに耳の中をまるで何かが響くような音が聞こえた。なんだ?

「なぁ花梨。なんか音聞こえないか?」

「え? 音?」

 そう言って耳を澄ます花梨。

「………何も聞こえないわよ? さっきのパンチの当たり所が悪かったんじゃないの?」

 花梨は平気でそんなこと言う。もうちょっと心配して欲しいものだ。耳に響いていた音ももう聞こえなくなったので、あまり気にしないようにすることにした。

「……来たな」

 誠也が呟くと公園のところどころに空間の歪みが生じた。イドが出現しようとしている。しかし、それは一つではなかった。

「複数ッ!?」

 オレは驚いた。こんな明るい内に、しかも複数のイドが同時に出現するなんてどういうことだ?

 それぞれの歪みの中心に黒い球が出現する。その数、六つ。

 瞬間的に巨大化する黒い球。サイズ的にはそんなに大きくはない。そう思ったところで何かがオレの目に映った。

「子供がッ!?」

 タイミング悪く、公園に六歳ほどの男の子が三人入ってきた。オレたちと子供たちとの間にはイドが出現しようとしている。

「花梨!」

「わかってる!!」

 誠也の言葉に反応して花梨は凄まじいスピードで子供たちの方へ駆け出す。『能力点火』によって強化された花梨はオレたちの誰よりもスピードがあるからだ。

 しかし。花梨が子供たちのところに到達する瞬間、イドの出現の余波が発生。花梨の身体を包んだ。

あい、第9話です。

これからは作品の雰囲気を壊さないように後書きは必要最低限に止めたいと思います。

それと更新が遂に不定期になってしまうと思います。すみません。だいたいの展開と結末は浮かんでいるので完結はすると思います。最後までは結構長そうですけど(笑)

次話はもう出来ているので次回の更新は明日2/8となります。いろいろと迷惑かけますがよろしくお願いします。ついでに感想、評価の方もよろしくです。作者の元気が出ますので(笑)

またまた長くなってしまいましたが、これにて。

ではではッ。

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