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第8話 イニシェーター

「自らに異形の力を宿せし者。それがイニシェーターだ」

 前髪が目元にかかるくらいの黒髪にシワ一つない黒いスーツを着た青年『渡柄(とつか)誠也(せいや)』は言った。

「異形の力……。花梨や誠也さんみたいな力ってことですよね?」

 オレはつい先ほどまでちょっとした気絶状態だったが今は意識を取り戻し、自分の病室のベットに腰掛けている。そして目の前にいるおそらくは20代前半であろう青年の話を聞いていた。花梨はオレを踏んだ後、よくわからないが何処かに行ってしまったらしい。

「あぁ、その通りだ。……それと俺のことを呼ぶときは誠也でいい」

 オレの質問にそう答える誠也。なんだか同じイニシェーターでも花梨とはだいぶ違い、冷静で大人しい人だなと思った。しかしこの物静かな青年が先の戦闘では鬼神のごとき力を使い、あの巨大なイドを退けてしまったのだから不思議だ。……少し尊敬してしまう。

「オーケーです。そいじゃそう呼ばせてもらいます」

「あぁ。……それでは話を戻そう」

 少しばかり脱線しかけている話題を元に戻す。この話題に関しては流石(さすが)のオレも結構真剣に聞いている。なんせこの話はオレにとっても重要な意味を秘めているはずだからだ。

「つまりイニシェーターの力は根本的にはイドのそれと同質。イドの力が何らかの理由で人間に着床した状態のことなんだ」

 そう言われるとそうなのかなとも思う。イドが空間を歪ませて出現したように、花梨や誠也の武器も空間を歪ませて出てきた。

「なんでそんなことが起きるんすか? 普通あり得ないですよね」

「それに関しては俺にもなんとも言えない。未だわからないままだ」

「そうなんすか……。それで、俺もそのイニシェーターってやつなんですか?」

 思わず声がうわずる。オレは遂に今一番自分が聞きたいことを聞いてみた。

 なんせオレがイニシェーターならこんな嬉しいことはないし、これからは花梨を危険な目に遭わせることなく自分の身を守れるようになる気がしたからだ。オレがあの力を獲得する………そんなら最高だ! オールオッケーだッ!

「それについてもなんとも言えない。まだ可能性の話だ」

 誠也のその言葉を聞いて少しうなだれるオレ。人生そう簡単にいかないものだ。

「しかし君の怪我の治り方を見てみると、やはり常人ではない何かが働いているのだろう」

 そう言って誠也はオレの包帯とギブスだらけの身体に目をやる。もうほとんどの痛みが消えていた。そこで思い出す。

「そういえば花梨は何であんなに元気なんすか? 二日前見たときはオレよりも具合酷そうでしたけど……」

「それについては花梨の持つ能力が関係しているだろうな」

「花梨の持つ能力……ですか?」

 そう聞き直してしまう。

 花梨の能力といえば、赤い短剣を出現させたり身体能力が高かったりするあれだ。

 オレの疑問を察したのか誠也は静かに喋り始める。

「俺たちイニシェーターの能力は各々で皆違うのが普通だ。そしてその能力を総称して『テンカ(てんか)』と呼んでいる」

 テンカ? 誠也が言うには花梨の持つ赤い力と誠也の持つ黒い力はその性質が違い、全てのイニシェーターもそれぞれ違う性質の能力を持っているということだった。

 オレはてっきり花梨も誠也も『何もないところから武器を出現させることができるすごいやつ』くらいにしか考えていなかった。……なんかバカみたいだ。

「それじゃあ、花梨の能力っていったいなんなんすか?」

 当然オレは聞いてみる。

「花梨の能力、つまりテンカは『能力点火』だ」

「……のうりょくてんか? なんですか? それ」

 オレの頭はいきなり飛び出したよくわからない言葉に混乱しだす。

「まぁ簡単に言うと自分の元ある身体能力などを高める力だ」

 ……あんまり簡単ではないなと思った。身体能力を高める? それと怪我の治りにどう関係があるんだろうか?

 呆けるオレを見兼ねたのか、誠也はさらに説明を補足しだした。

「自分の体内にあるエネルギーを爆発的に消費させることで身体を活性化させ、傷の修復速度や運動能力などを上げる。それが花梨のテンカだ」

 ……なるほど。オレはやっとわかった。すると花梨は身体能力と回復能力が優れたイニシェーターということになるだろう。

「ん? するとオレにも花梨みたいに身体能力を高める能力があるってわけですか?」

 オレは疑問に思い、そう聞いていた。

 なぜならオレも花梨まではいかなくとも驚異的ともいえる速度で痛みが引いていってるからだ。よってこれも花梨と同じように身体能力が高まった結果ではないかと思ったのだ。しかし。

「可能性はある。だが今の段階ではやはりわからない。すまないな」

「いやいや、そんなこといいですって! こっちが教えてもらってるわけだし」

 謝る誠也をオレは思わず止める。なんだかオレのキャラが崩れていっている気もするがしかたがない。

 そんな時、身体に鋭い痛みが走る。やはりまだ完全に傷が閉じたわけではないらしい。

 顔をしかめたオレを見て誠也はオレにベットに横になるように言った。

「話はまた明日以降だ。それよりも今の君は傷を癒すことの方が大事だ。それと……」

 そう言ってベットの横にある木製の机の上に何かを置く誠也。

「君の携帯だ。血が付くと壊れるかもしれないから預からせてもらっていた。それではな」

 そうして部屋を出ていく誠也。パタンという扉を閉める音が響く。

「………イニシェーター、か」

 一人になった病室でオレはそう呟く。そして窓の外を見る。外はもうすっかり夜だった。夜空には三日月が輝いている。

 ふとオレは携帯の着信ランプがついていることに気が付いた。携帯を開く。

「花梨からか」

 見ると花梨から何回か着信がきていた。そのどれもがオレがまだ眠っていた時刻のものだ。

 オレは少し考えてから花梨にリダイアルをし始めた。

 オレの耳に呼び出しのコール音が響く。花梨は中々出ない。何か用事でもあったのだろうか?

 そう思って電話を切ろうとした時、ようやく花梨が出る。

「…………もしもし」

 なんだか知らんが携帯の向こうからはとても不機嫌そうな花梨の声が聞こえてきた。

「あぁ、オレだよオレ!」

 できるだけ陽気な声で言う。なんだか刺激を与えたらマズイと思ったからだ。

「そんなの着信名を見ればわかるわよ。それで何?」

 それで何? と言われてもな。オレはそう思った。だってそうだろ? その聞き方は正直困る。特に理由もないわけだし。

「いやなに、花梨から着信あったの気が付いたからさ。もしかしたらオレのこと心配してるんじゃないかと思ってさ」

「…………………」

「花梨?」

 応答がないので呼んでみた。すると。

「心配なんてするわけないでしょ。なんであたしがあんたの心配しなきゃなんないのよ。しかもついさっき覗きを働いたあんたなんかを」

 静かに言い放つ花梨。すっかり忘れてた。

「だからあれは神々のイタズラでだな〜」

 弁解を始めるオレ。情けないのだがこれしか許してもらう方法が見つからないのだ。

「……………話は聞いたの?」

 ひたすら言い訳をするオレの言葉を遮って呟くように問う花梨。

「え? 何が?」

「誠也からイニシェーターのことを聞いたかって聞いてんの!」

「あ、あぁ。そういうことね。まぁだいたいは聞いたよ。花梨の能力とか色々とな」

「………そう」

 そう呟いてまたもや押し黙る花梨。本当にどうしたのだろうか。いつもの花梨らしくない。まだ具合でも悪いのだろうか。

「どうした? 何かあったか?」

 思わず聞いてしまう。

「…………あんたは、それを聞いて……どう思ったの?」

「ん? いや、普通にすげぇな〜と思ったよ。うん、そう思った」

「……………そう」

 …………なんなんだ?この元気のない花梨は。さっぱり意味がわからない。これではこっちの調子が狂ってしまう。

「なぁ花梨。何かあったんなら話せよ。オレでも相談聞くくらいはできるぜ?」

 正直、相談なんて和正のどうでもいいような内容のものしか扱ったことがなくて不安だったがそう言ってやる。

 暫しの沈黙。オレは辛抱強く花梨の返事を待った。

「今は話す気になれない……。また明日話す……」

 花梨はしおらしい声でそれだけ言って電話を切った。

「…………なんだ? あいつ」

 オレはなんだか疲れたのでベットの中にもぐり込む。そして急に襲ってきた眠気にその身を委ねた。

 心地よい夢が見れることを望みながら。ただただオレはそれを望んでいたんだ。



 夜はますます更けていきその闇を広げていく。果たして、その闇が太陽を喰らうときはあるのだろうか。

 今はまだわからない。

 そう、今のオレにはこの時の花梨の気持ちの内なんて想像できなかったんだ。

 今はまだ………。

てやっと、第8話です。

そろそろこの冒頭の意味不明な言葉考えるのもしんどくなってきましたね。自重しようかな(笑)

さてさて、今回は説明が多いです。幸輔と同じく、皆さんは付いてこれてますでしょうか?設定などはある程度の量が溜まってきたら、用語説明みたいなものを用意すると思いますので安心してください。

更新は不定期って言ってたのにいつの間にか毎日更新してる自分。まぁいいか(笑)

それでは次回の更新は明日2/7です。

ではではッ。

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