表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/19

第7話 変わりゆく非日常

 オレが目を覚ますとそこは病院のベットの中だった。白い壁が広がるその病室は一人部屋で中々に広かった。

 どうやらオレは入院させられたらしい。全身ギブスだらけだ。まぁ瀕死状態だったんだから、こうもなるか。

「イテテッ」

 腕を少し動かしただけで痛みが走った。どうやらオレの身体の具合はあまりよろしくないらしい。

「………誰もいないな」

 こういう場合、よくテレビドラマとかでは自分が想いを寄せる女の子とかが横にいるってのがセオリーなわけだが、どうやら現実はそう甘いものではないらしい。

「まぁ、好きな子なんていないわけだが」

 独り言などを言ってみる。

 …………結構寂しい。誰か来てくれ。

「お〜す、幸輔ぇ! 元気にしてるか〜」

 扉を開けて和正が入ってくる。前言撤回! もう一人でもオレは生きていける!

「うぉッ! ギブスだらけじゃん! すげぇ」

 完全に他人事のような口調で言う和正。すげぇじゃねぇよ。こっちはそれこそ「すげぇ」痛いんだよ!

「つかなんで最初の見舞い人がお前なわけ?」

「おいおい、せっかく来てやった親友に向かってそれはないだろ」

「いやいや、むしろオレ以外のヤツなら、昨日の電話の件のことを根に持ってるとこだろ」

「ん? 昨日? 何かあったか?」

「あぁ!? お前な〜、ふざけんなよ。お前が花梨に電話して何故かオレが怒られるハメになったんだろが」

「あぁ、あれか!」

 そう言って両手を胸の前でポンと叩く和正。身体がこんな状態じゃなければ思わずしばいてるところだ。

「それ昨日じゃなくて二日前だぜ? お前は丸一日眠ってたんだよ」

「それマジかよ!?」

「あぁ、大マジだ。それにオレが最初の見舞い人じゃねぇよ。花梨つったっけ? お前の彼女」

「ちげぇよ。あいつは彼女なんかじゃ、って待てよ! お前、あいつに逢ったのか!?」

「そうだけど?」

「どこで!?」

「どこも何も、この病室の前でだよ。さっきまでお前の側にいたみたいだぜ?」

 ………どういうことだ?

 花梨は二日前の戦闘でかなりの負傷をしたはずだ。オレがこんな状態なんだから花梨も入院しているとオレは思っていた。違うのか?

 そんな疑問が頭の中を駆け巡る。

「それよりやっぱこの傷ってあの花梨って子にやられたのか?」

 オレの疑問を知らない和正は半笑いでそう聞いてくる。

「なんでそうなるんだよ。怪物じゃねぇかよ」

 まぁ確かにあいつならできそうだが……。

「どっちにしろ彼女がいるなんて妬けるぜ、この野郎ッ」

 そう言って和正はオレの肩を軽く叩く。

「いてぇ! ちょ、お前調子のんなって」

 そう言って思わずオレもギブスをはめた腕でやり返す。

「おぉ、お前結構元気じゃん! 心配して損したぜ」

 それを聞いてオレは違和感を覚えた。

「ま、まぁな」

 おかしい。さっきは少し動かしただけで痛かった腕の痛みが今は消えている。しかもたった一日寝ただけであの瀕死状態から立ち直るなんて不可能だ。

「なぁ和正、オレの怪我ってどれくらいだか聞いてるか?」

 オレは言い知れぬ不安を感じながら聞いてみる。

「ん〜、全治二ヶ月ぐらいって聞いてるけど? つかお前、二ヶ月も学校休むんだろ? なんか退屈しそうだよな〜」

 もはや和正の言葉はオレの耳に入らない。全治二ヶ月? そんな傷の痛みが一日でなくなるっていったいなんだよ。全くもってわからない。

「まぁ安心しろ! オレが適当に見に来てやるから! おい、聞いてる?」

「あ、あぁ。頼むよ。でも医者もたぶん誤診してるな。結構元気だからな、オレは」

 和正にはそう言って強がったが、オレは違う意味で自分の身体が心配だった。



 ――和正が帰ってから一時間後。

 オレの病室には花梨が見舞いに来ていた。

 花梨は不思議なことにたいして怪我している様子もなく無事だった。

「どう? 怪我の具合は?」

 花梨が聞いてくる。

「良いよ。それより花梨はなんでそんな平気なんだ?」

「……………」

 花梨は何か考えているようだった。しばしオレたちの間に無言の時間が流れる。

 先に沈黙を破ったのは花梨だった。

「やっぱりもうこれ以上あんたは関わらない方がいいわ」

 それだけ言って踵を返す花梨。

「ちょ、待てよ! なんで逢いに来て早々帰るんだよ!?」

 オレは花梨を引き止めようと声をかける。しかし花梨はオレに背を向けたまま言う。

「あんたももうわかったでしょ? 今回は運がよかっただけ。次は死ぬかもしれない」

「そんなのわかんねぇよ! 死なねぇかもしれないじゃん!」

 その瞬間、花梨は一気に振り返った。そして力強く言う。

「わかるわよ! これは普通の人間が堪えられる戦いじゃないのよ!」

 それから再び踵を返し、部屋を出ようと歩き出す。

「待てよ! 待ってくれ!」

 オレは必死で花梨の背中に向かって言った。しかし花梨は今度は止まらなかった。

「くっ! にゃろうッ!!」

 オレは必死だった。必死で身体をベットから起こす。そして這い出す。そんなオレに気づいた花梨は驚いたような顔を見せる。しかしオレは構わず立ち上がる。

「オレを置いていくなんてことさせて―――おわッ!?」

 完全に回復してない足に痛みが走り、オレはバランスを崩した。当然、床に倒れていくオレ。このままでは顔面強打コースである。オレ危ない!

 しかしそうはならず、オレは背中側の服の一部を掴まれ、まるで空中に浮いたような状態で静止する。

「どうやら置いていくわけにはいかないようだな。花梨?」

 なんとオレを床との顔面キスから救ったのは二日前にもオレたちを救ったあの黒い青年だった。

「えっ? 置いていくわけにはいかない?」

 オレは思わず今日もバッチリとスーツを着こなしている青年の言葉を復唱してしまう。

「ちょっと待ってよ! 置いていくわけにはいかないっていったいどういうこと!?」

 花梨も思わず青年に聞いている。どうやらこんな展開は予想していなかったらしい。

 対してスーツ姿の青年は特に慌てる様子もなく答え始める。

「何、簡単なことだ。彼もイニシェーターということだ」

 その答えに花梨は絶句する。しかしオレには何のことだか全くわからない。なので未だにオレを空中に静止させたままの青年に聞いてみる。

「え〜と、スーツさん?」

「ん? 俺のことか?」

 スーツ姿の青年はオレに顔を向ける。……温厚な人でよかった。普通ならほぼ初対面の相手に「スーツさん」なんて呼ばれたら怒る人もいるだろう。

「そのイニなんとかっていうのはなんなわけですか?」

 見たところ一応年上のようなのでオレは敬語を使って言う。

「あっ、それと下ろしてもらえるとありがたいんですけど……」

 思い出してすぐにそう言葉を付け加えるオレ。

「ん? あぁ、すまない」

 オレはゆっくりと床に下ろされる。それを合図に再び花梨が青年に食ってかかった。

「こいつがイニシェーター? ハッ。そんなわけないじゃない! 一週間の間見てきたけど、運動能力も並み! 外見もいまいちピンとこないし、勉強もできないみたいだし、産まれた時からパシり体質みたいな男だし! とにかくそんなこと絶対ないわよ!!」

 オレに指を差しながら怒涛の勢いで反論する花梨。

 何もそこまで言わなくてもいいんじゃないだろうか。しかもこれを聞いている間、オレはというと青年に服を離され、尚且つ足の痛みで自分一人では立てないため、病院の床に片頬をつけている状態なのである。

 ……なんというか、尋常じゃないくらいの屈辱的体勢なわけで。なんだかちょっと泣きたくなってきた。

「しかしこの傷の治りをどう説明するつもりだ? 可能性としては十分過ぎるほどだと思うが?」

 青年が花梨に問う。それを聞いた花梨は悔しがるように反論を止めた。

 そろそろこの状態から解放してほしいのだが……。そう思ったがそれよりもオレはこの青年への質問が優先と考えた。

「やっぱりこの傷の治りは何かあるんすね?」

「その通りだ。俺が説明しよう。いいな、花梨?」

 青年は言う。それを聞いて花梨は何も言わず、うつむいてしまう。

 ここでオレは気づいてしまった。こんな状況の中、またもや自分が危険な過ちを繰り返そうとしていることを。

 花梨はまだ気づいていないので今のうちに早くここから離れなければ。

 そう思って床を這いずり始めるオレ。足が痛むので手による移動だ。

 ちょうどうつむいていた花梨はオレのこの不可解な行動に気づく。

 し、しまった。オレの焦る気持ちが逆に裏目に出てしまったようだ。

 オレのその行動を見ていた花梨もようやく気づく。この今のオレの絶妙な位置取りに。すなわち、花梨の例の物を見ることができるベストウォッチングポジションだということを。

 ……なんということだ。ついさっきまでしおらしくうつむいていた茶髪のかわいい少女は今ではまるで阿修羅のごとき怒りのオーラを(まと)っている。

 このままではマズい。死んでしまう。しかも今オレは正真正銘の怪我人だ。本当に死んでしまう。

 なので弁解することにした。

「いやいや、花梨。これには所々の事情と運命のイタズラが―――」

「地獄に堕ちろッ!!」

 その声と共に花梨の足が降り下ろされる。それが起こした地響きは見事に病院内に響き渡った。

 人、これを『第二次スカート事件』と呼ぶ。

せいせい、第7話です。

またもや落ちがこれです。作者もどうしてもラブコメのノリが抜けきれなくて困ってます。嘘です。それほど困ってません。

ちょっと余談なんですが最後の花梨の「地獄に堕ちろ」という台詞は実は初期段階では幸輔に使われる台詞ではなく、3話にでてきたトカゲ型イドを倒すときに使うやつだったんです。

しかし、イドに対しての決め台詞としてはなんかダサいなと思ったのでボツ。んで回るに回って何故か主人公である幸輔に使われることになりました(笑)なんというどうでもいい秘話!

こんな話にスペースを使うくらいならさっさと新キャラの名前を教えやがれという声が聞こえてきそうですね。

作者も中々スーツさんの名前が出てこなくて笑いました(笑)

ちなみに次の更新は明日2/6です。

ではではッ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ