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第2話 非日常へ

風間(かざま)幸輔(こうすけ)

 オレは名乗っていた。自分の名前を。だってそうだろう?

 「あんた、誰?」なんて聞かれたらそれはもう答えるしかないわけで……。

 オレの名前を聞いた少女。夜空を背にオレと向き合っている少女はいまだにさっきの『深紅の短剣』を持ったままだ。

 いや、持ったままという穏やかなもんじゃない。

 突きつけられているのだ。オレの頭に。

「風間か……。聞かない名前ね」

 そりゃそうだよ。あんたには初めて名乗ったんだから。と思ったが刺激を与えるのはよくないと思ったので言うのはやめておいた。その代わりに……。

「こ、幸輔でいいって」

 と恐る恐る言ってみる。あくまでも笑顔で。そう、引きつった笑顔で。

「だぁから、聞いてんのはあたし! つかそんなどうでもいいことは聞いてない!! で、あんたは何者?」

「何者って言われても……。しがない男子高校生ですが……」

 思わず敬語になってしまう。つか早くオレからその物騒な短剣を離してくれよ。マジで怖いから。……怪我したら責任とれよな。

 少女は呆れたようなため息をつくとオレの頭から短剣を離した。

「そ、それで君はどちらさま?」

「あんたに名乗る名前なんてないわよ」

 そう言うと少女は背を向けて地面を勢いよく蹴った。

 すると少女はそのまま風のように宙を舞い夜の闇へと姿を消してしまった。

 ……ひでぇ。名乗らせるだけ名乗らせて自分は何も言わないのかよ。つか今のジャンプしただけだよな。すげぇジャンプ力だ。……どっかの陸上選手?

 そんなオレの思いに応える人間は今いない。夜道はさっきとは打って変わっていつもみたいに静まりかえっていた。



 ――翌日。

 オレは考えていた。あの少女のことを。あの非日常のことを。

 あれは一体なんだったんだ?

 そんなことを授業中も休み時間にも考えていた。

 答えは……でない。でるはずがない。

「やっぱり直接聞くしかないよな〜」

「誰に?」

 横を見るとオレの悪友もといクラスメートの美倉(みくら)和正(かずま)がいた。

「女の子にだよ」

「おっ、ナンパか?」

「ちげぇよ。なんでそこでナンパなんだよ。普通告白とかだろ」

「そいじゃ告白なのか?」

「それも違う」

「じゃあ、なんなんだよ。わかんねぇ奴だな」

 和正が茶髪の前髪を揺らしながら呆れたような声をあげる。

「…ただの質問だよ」

「アドレス交換したいん?」

「違う」

「スリーサイズ聞きたいとか?」

「もっと重要」

「なに!? 幸輔ぇお前、スリーサイズよりも重要なことって数えるほどしかねぇぞ?」

「あぁ、オレもそう思うよ」

 そうだ。もっと重要なんだよ。オレにとっては。ハッキリとはわからないが、なんか重要なんだよ。

 和正がオレの肩に手を置いて言う。

「ストーカーとかの犯罪は程々にしとけよ」

「しねぇよ! つかお前の頭はそんなことばっかかよ!?」

 天気は快晴。今オレたちがいる学校の屋上には溢れんばかりの太陽の光が注いでいる。

 それはすこぶる平和だった。でも退屈な日常だった。昨日の出来事が思い出される。危険で刺激的ですこぶる非日常だった。

 そこに魅力を感じるのは果たしてオレだけだろうか?

「まぁよくわからんが質問するなら早い方がいいんじゃねぇか? ほら思い立ったらすぐ行動ってやつ」

 和正が大の字に寝転びながらそんなことを言う。

 サボっていた授業の終わりを告げるチャイムがようやく学校に響きわたった。



「もう一度昨日の少女に逢う」

 結局、オレの頭が放課後までに叩き出した答えはそんなことだった。

 言うのは簡単だが実際のところどうすれば逢えるか全然わからん。

 少女が着ていた制服は夏服だったため、どこの学校か判別が難しい。外見で探すなんてそんなしらみ潰し作戦みたいなのは無理だし、名前も聞いてない。というわけで探そうにもそもそも手掛かりが皆無だ。

 そこでオレはちょうど一緒に下校している和正に聞いてみた。

「どうしたらいいと思う?」

 完全にダメもとでだが……。

「そんなのオレが知るかよ。つか情報が皆無なのに探すってアホか!? このアホ!」

 普通そこまで言うか? 友達にはもっと労り(いたわり)を持って接しろよなぁ。つか成績ならお前の方がアホだろ!

 と言いそうになったが次の一言がオレを思い止まらせた。

「……と普通の奴なら言ってるところだがな」

「えっ?」

 思わずオレが聞き返すと和正は不敵に笑いながら言った。

「この22世紀の天才、美倉和正にかかればこんな問題は朝飯前だぜ!」

 今の時代を22世紀と思ってる時点でもう不安いっぱいなのだが黙って聞いてやることにした。

「いいか? 手掛かりもなく探すなんてのは確かに無謀だ。ならどうするか? 答えは簡単。ズバリ、接点だよ」

「……接点?」

「そうだ接点だよ! 幸輔、お前がその女を知ってるのはなんでだ?」

「……一度逢ってるから?」

「そうだ。その通り! つまり答えはそこだ。お前が女とどうやって逢って知り合ったかを分析するんだよ」

「お、おう」

「んで可能ならおびき寄せる! 完璧な作戦だ! 天才だ!!」

 なんか大事な部分が完全に抜け落ちているような気もするが、確かに昨日の少女ならおびき寄せるのは可能かもしれない。

 しかしそれはまたオレがあの化け物に襲われなければいけないというわけで……。

「……いや、却下」

「ちょ、お前! はぁ……、せっかく考えてやったのによ。そいじゃ後は好きにやれよ。じゃあな」

 そう言って別れる和正。これは完全なる放棄ではないだろうか? というか問題、何も解決してねぇし。



 ――それから三日後の夜。

 またもや塾の帰り道。つまりは答案返却日。

 あぁさよならオレの平和な日常よ。

「……零点か」

 思わず呟いてしまう。そう、零点なのだ。点数がないのだ。つまり……。

「家に帰ったら母さんに殺されるな……」

 どうするか? どうすれば生き残れるか考えるオレ。

隠蔽(いんぺい)だな」

 結論としては家に帰ったらテスト用紙は速攻でゴミ箱にダイブさせることにした。

 許せテスト用紙よ。点数がないお前は必要ないのだ。つーかお前があるとオレの頭上に死兆星が落ちるんだよ、マジで。

 いつもの帰りなれた道と違い、この道にはもう遅い時間だというのに人がまばらにいる。

 まぁ、そのほとんどがあまり柄のよろしくない奴等なのだがいないよりはマシだ。

 三日前にあんなことがあったためオレはわざわざ遠回りになる道を選んで帰っているのだ。

 しょうがないだろ。怖いんだから。

「ねぇねぇキミ〜」

 コンビニの前で仲間とダベっていたいかにも不良という風貌の男がしゃべりかけてきた。

「……なんすか?」

「いや〜、俺たち金がなくてさ〜。良かったら貸してくんない?」

 一緒にいた仲間二人がオレの後方につく。

 ついてねぇ。カツアゲかよ。

 そう思うもオレだってヤンチャの一つや二つくらい既に経験している。甘く見るなよ?

「いや、オレ塾の帰りなんで金持ってないんすよ〜。そいじゃ失礼しま〜す」

 あくまでも笑顔で言って通り過ぎようとする。こういう時は平和的に解決するのが一番だ。

「おい、待てよ! 金置いてけっていってんだよ! なぐられてぇか?」

 ほう。オレに戦いを挑むか。面白い。返り討ちにしてやるよ!!

「殴られたくないですッ! 金は渡しますから許して」

 ……………。

 意思に反して口走るオレ。いや、一人ならオレでもなんとかなるよ? ……たぶん。

「そいじゃさっさと金置いて帰れよ」

「も、もちろんっす」

 金を出そうとポケットを探る……ふりをして斜め前に一気に逃亡!

 よっしゃ! フハハハッ見たか不良どもめこの華麗なフットワークを!! 煙草ばっかり吸ってる不健康な身体じゃあこの中学時代に《逃げ足の幸輔》とまで呼ばれたオレには追いつけまい? このオレ様からカツアゲなど10年早いわ!

 しかし道に落ちていた石ころに躓き(つまずき)オレは派手に転倒してしまう。

 当然、あっという間に不良たちに追いつかれる。

 つ、ついてねぇ!!

 殴られる寸前、不良たちの動きが止まる。そして逃げ出す不良たち。

「………新手の放置プレイ?」

 そんなことを言ってみる。

 しかし違った。そんな訳がなかった。この独特の感覚……。

 全身に三日前のと全く同じ悪寒が広がる。

 ……いる。

 ……いるのだ、そこに。

 なぜか目で見なくてもわかってしまう。

 尻餅をついているオレ。対して化け物はおそらく後ろの闇の中。

 両足が小刻みに震える。膝が笑うとはよく言ったものだ。

 ……逃げなければ。

 そう思った瞬間、オレの頭はなぜか別の答えを弾き出していた。

「今がチャンス、かもな…」

 震える足に気合いを入れて急いで立ち上がり走り出すオレ。

 そう、チャンスだ。これは。この状況は。

 前と寸分狂わず危険な状況。つまりはあの少女が……。

「来るかもしれねぇだろがぁ!」

 大声で夜空に向かって叫ぶオレ。もう足の震えは止まっている。なぜだか異様に興奮している。とにかく全速力で走る。あの少女が来るまで。

 来ないかもしれないという考えは今は思い浮かばなかった。単純でバカな行動。自分でもそう思った。

 後ろから聞こえるヒステリックな女のような金切り声。案の定、化け物は追ってきたらしい。とりあえず、このまま人がいない場所に移動しなければ。

「なら、公園だ!」

 この先には公園がある。この辺では結構有名で噴水とかもあるかなり大きい公園だ。

「はぁ、はぁ、…ぐッ」

 苦しい。横腹いてぇ。足も疲れた。

 帰宅部のオレにはこの走りは堪える。けど止まったらそこでアウトだ。走りながらも後ろを確認する。だんだん化け物も追いついてきている。前の犬みたいな化け物と違い今回の奴は人型だ。まるで人間サイズのトカゲを無理やり立たせたような猫背ぎみの全身真っ黒の怪物。それがすぐ後ろに迫っている。

「……ちくしょう」

 恐怖で両足がもつれそうになり倒れそうになってしまう。化け物の赤く光る目がオレを見ている。刹那、風がオレの前髪を揺らし、横を誰かがすり抜けるように駆けた。

 するとザシュッという音と共に化け物の金切り声が響く。

 咄嗟(とっさ)に振り返ったオレ。その目には宙を舞う化け物の片腕と深紅の短剣を持った少女が映っていた。

はい、第2話です。

更新は不定期なのでよろしくお願いします。

たまに立ち寄って頂きますと作者が喜ぶことうけあいです(笑)

今ふと思ったんですがタイトルの意味とかって書いた方がいいんですかね?

まぁ次回にでも覚えてたら書こうと思います。

それではまた次の後書きで逢いましょう。

ではではッ。

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