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第17話 輝きの力

 ――夜の闇。

 その場所では二つの影が衝突し、金属音を鳴らし合い、絶え間無く剣と刃を交差させていた。一方は紅の短剣を持つ少女。そしてもう一方は五つの刃を持つ黒い化け物。

「はあぁぁぁッ!」

 花梨が自分に迫る鋭く尖った槍を切り落とす。しかし休む間もなく化け物の背中から伸びる残りの二本の槍が上から接近してくる。それらを咄嗟に短剣を盾にして防ぐ。が、今度は両腕の刃による攻撃が先の防御のためにがら空きになった花梨の腹部を狙った。

「くッ!」

 花梨はギリギリで後ろへ跳躍してそれを回避。そして、尚も向かってくる二本の槍を短剣の二振りで切断する。相手の三本の槍触手は断った。今が好機だ。花梨はすかさず一つ眼に接近。短剣を水平に振るう。一つ眼は当然それを両腕の刃で防御する。が、そんなこと今の花梨にとっては関係ない。短剣は花梨の力を与えられ、赤く輝く。そして相手の両腕ごと、その奥にある身体を両断しようと突き進む。

『オアアアアア』

 一つ眼の咆哮と同時に背中の三本が瞬時に再生。眼前の脅威に襲いかかる。それにより花梨は再び回避を余儀なくされ、攻撃を半ばで中断。敵の(ふところ)から逃れるようにして距離をとった。

「花梨……」

 オレはほとんど無意識のままに呟いていた。

 現在、一つ眼の損傷は皆無。それに対して花梨の身体には所々に切り傷があり出血もしている。つまり、今のような攻防が先ほどからもう何回も行われており、脅威的な再生能力を持つ相手を前に花梨は苦戦を強いられているのだ。

「ほんっと、キリがないわね。切っても切っても馬鹿の一つ覚えみたいに」

 額の汗を拭いながらそう言う花梨。確かに再生能力さえなければもう勝負はついている筈だ……。それほど厄介な能力。おまけにヤツの再生スピードはちょっと尋常じゃない。ほとんど一瞬で再生しやがる。そんなヤツ相手にいったいどうすりゃいいんだよ。

 オレは敵の予想以上の強さに焦っていた。このままで花梨は大丈夫なのだろうか……。

 くそっ!こんなときに隠れてるしかできないなんて! そんな悔しさが出てくるが今のオレには何もできない。ただ花梨を見守ってやることしかできないんだ。

『……我……ショウキョ……オマエ……イナクナル』

「そんなの勝手に決めんじゃないわよ」

『……オマエ……カテナイ……ダカラ……イナクナル』

「…………」

 花梨が押し黙る。そしておもむろに目を瞑った。

「……花梨?」

 オレはその不可解な行動を見て思わず口を開いていた。花梨は目を瞑ったまま「大丈夫よ」と、一言。

 そして再び目を開けて目の前の敵を見据える。強い意志を感じさせるその瞳で。

「本当はこれ以上使いたくないんだけど、仕方ないわね。……次の攻撃で、決めるわ」

 花梨がそう言い放った瞬間、『深紅の短剣』が僅かに輝きを放ち始めた。それは強い光ではない。だがしかし、まるで静かに燃えているような――紅の輝き。

 短剣が放つ光を見た一つ眼は警戒するように身を固めてから花梨に問うた。

『……ヒカリ……ソレ……ナンダ?』

 夜の戦場の中で短剣は輝き続ける。頭上から降り注ぐ優しい月明かりのそれとはまるで対称的に、『深紅の短剣』はその血のように残酷な赤を地上にて放っていた。

「その答えは自分の身体で確かめなさい。あんたの再生能力で耐えられたらの話だけどね」

 一瞬だけ微笑を浮かべる花梨。そして輝く短剣を静かに構える。

 その瞬間、両者が臨戦態勢に入った。この戦闘を終わらせるために。

 今のオレに聴こえるのは静かに頬を撫でる夜風の音のみ。その沈黙は何処か耐え難く、見ているこちらまで思わず萎縮してしまうような、そんな空間。それは決して心地よいものではない。しかしその沈黙も長くは続かなかった。始まったのだ。。

 ――沈黙を破るは黒の化け物。その身体に持つ五つの刃を前に、突進する。

 ――それを待ち受けるは深紅の輝き。化け物の刃が少女を切り刻もうとした瞬間、その輝きは動いた。

 横一文字。紅の力はその動きだけで迫り来る全ての刃を消し飛ばしてしまう。しかしそれらは再び一瞬で再生し、少女に迫ろうとした。だが、深紅はその中で尚も曇ることなき輝きを放っていた。そう、まだ終わりではない。

 花梨は地を蹴った。それは眼前の五つの刃を前にしても決して怯むことはない。敵の再生は確かに脅威だ。しかし、再生に要するその一瞬の時間で少女は敵の懐にもぐり込む。黒い刃が少女の身体に届くよりも刹那速く、深紅の刃が化け物の胴体を貫いた。そして、深紅の力が刃から化け物の体内へと流れ込んだ瞬間――。

「ベェント(ぶちまけろ)!!」

 それは烈火。一つ眼の化け物はまるで身体中から炎を噴き出したように輝いた後、激しい音をたてて爆散した。それにより真っ赤な風と熱気が辺りに吹き抜ける。

「おわっ!?」

 オレは思わず尻餅をついて目を閉じてしまった。その時。

 ベチャッ。

 そんな効果音を出しそうな生暖かいものが突然顔に張り付いてきた。

「うぉう!? 今度はなんだよ!」

 その物体をオレは顔から引っ剥がす。次の瞬間、オレは悲鳴をあげていた。何故なら飛んできたそれはイドの破片だったからだ。

「ったく。いったい何騒いでんのよ」

 そこに戦闘を終えた花梨がやって来た。た、助かった!

「破片破片破片だよ! 一つ眼の! ま、また再生しちゃうじゃん!?」

「しないわよ」

「……え? そうなの?」

 ふと見ると、破片はすでに影となって消えていた。どうやらここまで粉々にされてしまうとさすがに再生できないらしい。

「つ、つか花梨大丈夫かよ!?」

「こんなの大したことないわよ」

 花梨は投げやりに話しながら短剣を消滅させる。そうは言っても身体は切り傷だらけだ。オレはとりあえず近くのベンチに腰掛けるように言った。花梨が座った後でオレもその隣に恐る恐る座る。

 花梨は一度オレに視線を向けてきたが何も言ってこなかった。やましい気持ちはないので安心してくれ。

 花梨は瞳を静かに閉じた。蒼い瞳がその(まぶた)の裏にすっぽりと隠れると、いつもは鋭い目付きが嘘のように和らいで見える。美人というよりも可憐な少女という感じだ。オレは花梨を横目に、思わずそんなことを考えた。暫く沈黙が続いているが気にしない。何故なら花梨は今、自らの治療に力を注いでいる筈だからだ。

 前に聞いた話によると花梨の『能力点火』は身体能力の強化と高い治癒力を併せ持つ万能型らしい。だがしかし、その二つを同時に使用することはなかなか難しいらしく、戦闘中はおいそれと傷の治癒はできないそうだ。戦闘中に力を治療の方に向けてしまうと身体強化の方が疎かになってしまい、結局デメリットの方が大きくなるからだ。

「……よし。こんなもんね」

 オレがそんなことを考えている間に治療は終了したようだ。花梨の身体を見るとさっきまでの傷が嘘のようになくなっている。制服に少し血がついているものの、何も知らない人間が見たらこの少女が怪我をしていたとは思わないだろう。

 それを見たオレは心底安心してため息をついた。それと同時に新たな疑問が出てきた。

「いや〜よかった。とりあえず勝利したし、傷も大したことなくてさ。でもあの一つ眼はいったい何なんだ?」

 そう、今日の敵はイドの中でも飛び抜けて異質だった。何しろ会話することもできたのだから。

「……正直あたしにもわかんないわ。どちらにしても誠也に話した方が良さそうね」

 その答えにオレは頷いた。イドに関しては誠也が一番詳しいからな。何か対応策を考えてくれるかもしれない。つかあんなわけわからん敵はもう懲り懲りなんだけどさ……。

「そいじゃ、さっさと帰りましょ」

 花梨の言葉を合図にオレたちはほんの少し前まで戦場だった公園を後にした。



 ――同時刻。

 地が揺れる。まるで自らの上に立つ人間を振り落とそうとするかのように。土が盛り上がる。まるで何かを産み落とそうとするかのように。

 その異変を察知した俺は素早く後ろへ跳躍する。すると一瞬の後に自分がいた地点、そこから砂を撒き散らし、地の底から黒い巨体が突如として眼前に姿を現した。

「なるほど。地中からの奇襲。それがお前の戦い方か……」

 月から発せられる光が周囲の鉄骨たちを照らしだす。俺の瞳は闇に慣れたからか、月明かりというそんな僅かな光さえも確かな光源として映している。先程まではただの工事現場だった場所。しかし、それが今では戦場に変わり果てていた。イニシェーターとイドとの戦いの戦場に。

 その中で眼前の敵はその巨体を震わせて、今まさに目の前の獲物へと飛びかかろうとしていた。

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