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第11話 ラフ・デー

「ご注文はお決まりでしょうか?」

「あ、はい。お願いします」

 オレは今、市内にあるファミレスに来ている。

「そいじゃオレはカツ丼とコーラで」

「あたしはミートスパゲティとオレンジジュース。それと……」

 この前の失言のためにオレは花梨に飯をおごるはめになり、それでこのファミレスに来ているわけだ。

「カレーライスと天丼とそれから……」

「ちょっと待てえええ!」

 花梨は注文を妨げるオレに対して怪訝な顔を向ける。店員さんも驚いているが、今は構ってるヒマはない。

「何? なんか問題?」

 こんなことを言いやがる。こいつには遠慮ってもんがないのだろうか。

「いくらなんでも注文しすぎじゃね? 仮にもオレがおごるわけで……」

「だからじゃない」

 平然と笑顔でそう答える花梨。いや、ちょっと待て。おかしいだろ。常識的に考えて……。

 ほら、心なしか店員さんの営業スマイルも引きつってるじゃねぇか。どうしてくれんだよこの空気。



 ちょっとした討論の末、諦めたオレは注文を聞き終わって戻っていく店員さんの後ろ姿を涙で見送った。対する花梨はなんだかご機嫌のようだ。

「今度来るときは定食屋にしよう」

 思わず小さく独り言が漏れる。

 正直に言うとオレは普段は安い定食屋にしか行かない。しかしながら今日は花梨の要望に答えて、わざわざ家から遠いところにあるこのファミレスまで遥々(はるばる)来たわけだ。しかもこの分ではかなりの出費のオマケ付きだ。涙と独り言くらい出るさ。

 ふと見ると今日は日曜日なので店内はそれなりに混んでいた。店内をきょろきょろするあたり、なんだかオレは少し緊張しているようだ。

「つか花梨。お前あんなに食えんの?」

「当たり前でしょ。じゃなきゃ頼まないわよ」

 そんな答えを聞きながらオレは花梨の服装に目を向ける。

 今日は学校もなかったので花梨はいつもの制服ではなく、ちゃんとした私服を着ている。まぁ、もちろんオレもなんだが。

 白と水色のパステルカラーで彩られたラグランTシャツに控えめにフリルがあしらわれた淡いブルーのショートパンツ。それを見事に着こなす目の前の少女はいつもよりもずっと可愛いく見えた。鮮やかな茶色の髪の間からは青色に輝く瞳が見える。

 これで性格がもう少し大人しければモテるだろうに。そう思った。まぁ、もうモテてるのかもしれんが。

 しかし実際のところ、花梨がこんな服装をしているとオレもだいぶ緊張してしまう。

「ん? どうしたの?」

「え? な、何が?」

 咄嗟の質問についつい戸惑ってしまうオレ。足が(せわ)しなく動く。

「いや、なんかさっきから落ち着きがないし……」

「ギクッ!」

 思わずおかしな擬音を口走ってしまった。

 なんということだ。完全に見透かされている。ここでオレが花梨の服装に見とれていましたなんて言った日には確実に踏まれそうなのでなんとか理由を考える。

「い、いや〜。今日は天気がいいな〜と思ってさ。うんうん。なんだか清々しいよな。こう、天気がいいとさ。ハハハハ。あっ、そうだ。知ってるか? 今日の天気はなんでも――」

 とにかく思いつくままに天気について喋りまくるオレ。なんだか自分でもわからないが一杯一杯だ。

 そんな行動を始めて数分後には注文の品が無事テーブルに並べられていた。

「いただきま〜す」

「い、いただきます」

 ガツガツとカレー、天丼、スパゲティを食べだす花梨。おそらくオレの食べるものの三倍はあるだろう量を素晴らしい速さで平らげていく。

 なんでも花梨の『能力点火』は結構な量のエネルギーを消費するらしく、それに伴って花梨の食べる量も増えているそうだ。

 そこで日頃の仕返しとして、さりげなく反撃してやることにした。

「しかし花梨はよく食べるよな〜。その割には身体の発育があまり――」

 オレが最後まで言うより速く、花梨の鉄拳がオレの顔面にくい込んだ。

「店員さ〜ん。つ、追加でチョコレートパフェとチーズケーキお願いします」

 花梨の怒りを買ったオレにより、一分後にはさらなる追加注文という形で機嫌を直してもらうという作戦が開始されていた。……鼻が痛い。

「自業自得だからね」

 花梨はそれだけ言ってからデザート類も平らげ始める。

 これはちょっとした天災なんではないか?



 会計を済ませたオレと花梨はこの近くにあるショッピングモールに行くことになった。

「もう流石におごれねぇぞ。さっきのでオレの財布はスッカラカンだからな」

「いいよ。あたしお金持ってるし」

 ……………。

 いかんいかん。ここで怒ってはまた同じことになりそうな気がする。

 半ば無理やり気分を切り替えて歩きながら隣の花梨に聞いてみる。

「なに見んの?」

「ん〜、特に考えてない」

「なんだそりゃ。つか誠也を呼んだらよかったじゃん」

「誠也はダメよ。仕事だし。それにあいつと買い物してもまったく楽しくないし」

 聞くところによると花梨は市内の女子高に通っているらしい。

 おそらくは両親たちからの仕送りなどで一人暮らししているのだと思う。しかしあんな高そうなマンションに住めるくらいなんだから親は結構な金を稼いでいるんだろう。あるいは娘を心配して防犯のためか。花梨の親の気持ちはよくわからないがそんなところだろう。

 オレが勝手に結論を出した頃にはショッピングモールはもう目の前だった。



「……長い」

 オレはショッピングモールの一角にあるショーウインドウの前で嘆いていた。ウインドウの中ではマネキンがオシャレで可愛いらしい服を着て何かのポーズをとっている。

 それにしてもどうしてこう、女の買い物は長いんだろうか。大して買ってないくせして、もうかれこれ三時間は歩いている。しかも店の中にいた時間も合わせれば相当なものだ。もうそろそろ足が棒になってきた。

「ったく。男のくせにだらしないわね」

 おまけに花梨はそんなお約束の言葉もプレゼントしてくれたりするのだ。

 正直なところ、買い物がこんなに疲れるとは思わなかった。恐るべしウインドウショッピング。

「あ〜、もうギブ。ギブアップ! マジでちょっと休まして」

 そう言ってショーウインドウの前に座り込むオレ。それを見た花梨もしょうがないといったように隣に座り込む。

 ふとオレの視線の先にショッピングモールを行き交う人々が映る。みんながみんな楽しそうに買い物をしている。

「ここにいる人たちはイドなんて存在がいるなんてこと知らないんだよな」

 ふとそんなことを言ってみる。

「たぶんね」

 花梨もそう答える。

「不思議だよな。オレたちだけが知ってるんだぜ?」

 そんなことを言ってみる。

「そうね」

 花梨は素っ気なく答える。

「なんかそれって特別って感じでいいよな」

 ついそんなことも言ってみる。

「…………」

 花梨は答えない。

 ………沈黙。どうやらオレは地雷を踏んでしまったようだ。そんなことを思った。

 だからと言っても対応策が思い浮かばないのでオレも押し黙る。

 ……しばらくの沈黙が続いた。すると花梨は急に立ち上がって言った。

「行こ」

「お、おう」

 しかたがないのでオレも立ち上がる。

「今度来るときはおごりなさいよ?」

「また来んの? てかまたおごりかよ」

「もちろん」

 笑顔でそんなことを言いやがる。気のせいかもしれないがオレはこの扱いに完全に慣れてしまったようだ。

 時間はもう午後6時を回っていた。このまま夕食を食べる金はない。少なくともオレには。

「帰ろっか」

 その言葉にオレは二つ返事で了承した。



「バッカお前、ほんっとバカ!」

 翌日の放課後。オレは昨日のショッピングの一部始終を和正に聞かせてやっていた。

「失礼な。バカではないですよ」

「いいや。お前はバカだ! もしくは大阿呆だ!」

 まったく酷い言われようである。

「いいか!? 彼女がションボリしてる時こそ男の見せどころだ! そういう時こそ冴え渡るおもしろトークで彼女の心を掴むんだよ!」

 オレの記憶によると和正は女子と付き合ったことなど一度もないはずなんだが。

「だから彼女じゃねぇって」

「え? 違うの?」

 というかむしろ主人と下僕みたいな関係ですとは口が裂けても言えない。言えるわけがない。

「つーかお前はどうなんだよ!? お前の聞かせろよ! あの、前に言ってた子いたじゃん。えっと南ちゃんだっけ? ほら、髪の長い子」

「あぁ、あの子ね。あの子はダメだな。そもそも彼氏いるし。いくら俺でも彼氏持ちに手は出さねぇよ」

「じゃあ、今狙ってる子は?」

 オレは興味本意で聞いてみた。

「今狙ってんのは木村さんと前田さん、それと藤森さんもいいな。んで佐藤さんも――」

 いったい何人狙ってるんだよ! つか身の程を知れ! そう言いたくなったがオレはこう見えて紳士なので黙っておいてやることにした。



 ――それから30分後。

 オレたちはいつものようにたいして意味もないことを喋ったりしながら下校していた。

「それで昨日のテレビでさ」「あの司会はダメダメだ」「最近は面白いことが」「もうすぐテストだぜ」「ヤベェ」「偏差値が」

 そんな時だ。

「おい、あれ見ろよ」

「ん? どれ?」

 和正の声に反応して辺りを見回す。

「あの人だよ、あの女の人」

 和正が指さす方向を見てみる。するとすぐにわかった。

 オレたちのいるところから少し離れたところにいる女性。いや、美女というべきだろうか。

 赤色に染められ、背中と胸元が大きく開いたイブニングドレス。そして西洋人を思わせる長く美しい金髪に緑色の瞳。一瞬見惚れてしまうような女性である。

「なんであんな格好の人がこんな住宅地に?」

「そんなことよりも目の保養が優先だろ」

 オレの疑問を無視して美女を凝視する和正。やめろよ恥ずかしいから。

 そんな時、ふと美女と目が合ってしまった。ラッキーである。和正ではないが距離が離れていたので声をかけられないのが残念だと思った。

 美女は呆けるオレたちに一度笑顔を送る。

 住宅地にはまったく似つかわしくないドレス姿の美女は綺麗な金髪を揺らしながらどこかへと行ってしまった。

〜ここまでの人物〜

風間(かざま) 幸輔(こうすけ)

性:男 髪:黒 瞳:茶 年齢:16(高2) 身長:171センチ

一応主人公。めんどくさがりで結構他人任せなところあり。原因は不明だがイドに狙われる人間である。現在は花梨のパシり(パートナー?)。



篠月(しのつき) 花梨(かりん)

性:女 髪:茶 瞳:青 年齢:16(高2) 身長:158センチ

一応ヒロイン。活発でハキハキとした美少女。後ろ髪は背中の中程まで伸びている。目力が半端ない。

またイニシェーターであり、『能力点火』を持つ。武器は『深紅の短剣』。

こう見えて結構乙女な娘。



美倉(みくら) 和正(かずま)

性:男 髪:茶 瞳:茶 年齢:16(高2) 身長:172センチ

幸輔から見れば悪友でもあり親友でもある。結局のところ、良き友人である。いつも幸輔とつるんでる。屋上は2人の指定席。

まぁ、今んとこそれくらいかな。



渡柄(とつか) 誠也(せいや)

性:男 髪:黒 瞳:灰 年齢:24 身長:182センチ

常にいつも黒いスーツを着用してる人。冷静な性格。

イニシェーターであり、『●●●●』の力を宿していて、戦闘能力は花梨を超える。武器は『漆黒の日本刀』。

ちなみに花梨と同じマンションで暮らしている(部屋は違う)。

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