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第10話 ツインソード

「花梨ッ!?」

 オレは叫んでいた。イドの出現の余波は決して弱くなく、人間の身体など軽く吹き飛ばせるくらいの衝撃を持っているのだ。余波により生じた風が勢いよく吹き荒れ、オレたちの前に砂煙を立ち上らせる。

 しかし、すぐにその中から砂煙を引いて花梨が出てきた。子供たちを両手を使って三人ともしっかりと抱えている。

「……よかった」

 オレは一先ず安心した。

「あんたはこの子たちを安全なところに連れていって!」

 オレの近くまで戻ってきた花梨はいきなりの出来事に困惑している子供たちを両手から下ろしながら言った。

「おう! 任せろッ!」

 オレは勇ましくそう応答すると、子供たちの手を引いて離脱し始める。なんだかオレも一緒に戦っているみたいで気分がいい。しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。

「よし! お兄ちゃんに付いてくるんだ! いいね? 大丈夫! あの怪獣たちはお姉ちゃんたちがやっつけてくれるから!!」

 泣きそうな子供たちに笑顔でそう言ってやる。

 後方で花梨が叫ぶ。

「イグニションッ!!」

 誠也が唱える。

「……オルタナティブ」

 荒々しい風を巻き上がらせる花梨と静かな光を放つ誠也。そこに出現する深紅と漆黒の力。イドを滅するための力。

 そうだ。何も心配することはない。あの二人なら。

 オレはそう自分に言い聞かせて、子供たちを連れてひたすら走った。



 オレが戻ってきた時には戦闘は既に終了していた。

 流石は花梨と誠也だ。二人のイニシェーターの力は伊達ではないらしい。できればオレもさっきの戦闘をしっかり見たかったのだが、しかたがない。

「遅かったわね」

 戻ってきたオレにそう言う花梨。と言ってもオレが離れていたのはほんの五分の間なのだが……。

「しかし驚いたよな。あの子供たちが来たのもだけど、複数で出現なんてさ」

「まぁあの程度のイドなら一気に100体来ても余裕だけどね」

 オレの言葉に対して何故か得意げに話す花梨。そんな話してねぇよ、と思ったが黙っておく。

「確かにおかしいな。複数で現れることは(まれ)にあるが、今回のイドは俺たちだけを攻撃してきた……」

 考えるように誠也が放った言葉に疑問を持ったオレは聞いてみる。

「え? どういうことっすか?」

 すると横から花梨が答える。

「通常、イドは同族を襲う存在だから自分と同時期に出現したイドにも攻撃をするはずなの。それが今回はあたしたちだけを狙ってきた」

「……何か裏がありそうだな」

 誠也が静かに呟く。

 そうなるとイドに仲間意識のようなものができたのだろうか? しかしそれは同族を喰らうイドからしたらメリットも何もなく、考えられない。どういうことだ?

 そんなことを考えていると、オレの耳にまた何か音が響いた。

「………ッ。まただ!」

 花梨と誠也がオレに不思議そうな目を向ける。

「音。やっぱり何か音が聞こえる!」

「音? あたしは何も聞こえないけど? 誠也は?」

「いや。俺も何も聞こえない」

 誠也がそう言ったところで聞こえていた音が鳴り止む。

「あ、聞こえなくなった……」

 それを聞いた花梨は長いため息を一つした後、オレにあきれたような表情を向けながら言う。

「あんたねぇ。何ふざけてんのよ」

「いやいや、オレはいたって真面目だぞ。真剣だぞ?」

「真面目って……そもそも、あんたが真面目にしてることなんてないじゃないの。そいじゃ、もう疲れたからさっさと帰りましょ」

 花梨がそう言って歩き出そうとした時。

「「…………ッ!!」」

 急にオレを除いた2人が何かに弾かれたように反応する。

 オレはその行動の意味がわからなかったのでちょっと花梨に聞いてみる。

「ん? どした?」

「イド………」

「へ? イドはたった今倒したけど?」

「違うわよ! 新たに出現するのよ! イドが!!」

「またぁ!?」

「そうよ! またなのよ! うるさいから少し黙って!」

 花梨は大声でオレに言う。確実に花梨の方がうるさいと思うんだが……。

 そうこう言ってる間にまるでオレたちを取り囲むようにして新たな空間の歪みが出現しだす。また複数だ! しかもさっきよりも遥かに多い!

「一日にこうも来るとはな……。やはり何かあるようだな」

 こんな状況でもいたって冷静な誠也。いったいこの人の神経はどうなっているんだろう。

「そんなこと今考えても始まらない。さっさと終わらして帰るわよ」

 と花梨。この二人の度胸を少し分けてもらいたい……。本気でそう思った。

 黒い球から次々とイドが出現していく。もはや一つの軍団のようだ。そう、その黒い野獣の軍団にオレたちは完璧に囲まれてしまった。

「ごめん。オレ、マジで腰抜けそうなんだけど……」

 当然だ。いったい何体いやがんだよ。

「あんたはそこで固まっときなさい」

 花梨の眼が獲物を睨むように危険に光る。

「全部、喰らいつくしてあげるわッ!!」

 まるで歓喜したように右手を空にかざす花梨。

「イグニション!!」

 またもや風が花梨を包み込むように巻き上がる。そして出現した『深紅の短剣』を手に、黒い軍団の一角に向かって駆け出す花梨。

 次の瞬間には花梨の怒涛の攻撃がイドたちを襲っていた。これを見ると、本当にどっちが獲物かわからない。しかしあんなに一人で突っ込んで大丈夫だろうか?

「心配するな」

 未だオレの傍にいる誠也が言う。

「前の戦闘で負傷したのは油断しただけだ。花梨は強い」

 オレを安心させるようにそう呟く。

「誠也は加勢しなくていいんすか?」

 なんだか冷たい汗をかきながらそう聞くオレ。

 その時、イド数体がオレたちに向かって襲いかかってきた。

「オルタナティブ」

 (きら)めく黒い閃光は一瞬にして襲ってきたイドをまとめて切り裂く。

「俺は君を守らないとならないからな。今回は花梨に任せる」

 瞬時に出現させた『漆黒の日本刀』を扱いながら言う誠也。

 その動作に思わず息をのむ。花梨もすごいが、目の前にいる青年はそれを軽く上回っている気がする。

 ここに君臨するは紅の攻撃者と黒の守護者。二人のイニシェーター。

 誠也がオレを守っている間にも花梨はその眼に映る影を次々に切り裂いていく。先の巨獣戦で負けた悔しさを目の前のイドによって浄化させようとするように。

「はあぁぁぁッ!」

 肉を断つ音が一秒おきにどんどん増えていく。

 しかしイドも雑魚(ざこ)ばかりではない。一体のイドが宙を舞っている花梨に向かって、身体から生えた鋭い針のようなものを無数に飛ばす。

 地面への着地での回避では避けられないと悟った花梨は周りに群がっているイドの頭部を踏みつけるような形で着地。そしてすぐに再び跳躍。

 当然、花梨に踏み台にされたイドは同族による無数の針攻撃で穴だらけになる。

 そんなことに構わず、尚も針を放とうとするイド。花梨はそのイドに向かって自分の紅の刃を投げつける。

 刃は見事にイドの頭部を貫く。次の瞬間には離したその短剣を再び手に握っている花梨。頭部を貫く刃を下に滑らしてまるでバターを切るようにイドを両断する。

 それを見た化け物たちは全方向から一斉に花梨に襲いかかる。

 花梨は赤い力をその刃に集約させる。そして輝きを放つ短剣を回転斬りの要領で振り抜く。

 轟音と共に刃は深紅の力で周りのイドたちを跡形もなく吹き飛ばす。その様は真っ赤な竜巻のようだ。

「さぁ! どんどん来なさい! 吹き飛ばしてあげるわッ!!」



「すげぇ……」

 戦いを見ていたオレはそう呟いてしまう。どうやら花梨は今、絶好調のようだ。

 次々と斬り進む茶髪の少女の身体には微かに深紅のオーラのようなものが見てとれる。

 イドの数はもう残り少ない。

 誠也はオレを守る形で戦っているため、ほとんどの敵を花梨が倒していることになる。

 ……こんなときにアレだが、これからはあんまり花梨に逆らわない方がよさそうだと思った。



 ――戦闘開始から15分後。

 全てのイドを蹴散らし、自らの武器を消滅させる花梨と誠也。武器はいつもまるで結晶が砕けるように綺麗になくなってしまう。

「お疲れッ! いや〜、二人ともマジですごかったよな!」

 オレは少し興奮ぎみに言ってやる。

「それに花梨は絶好調だったよな!? メチャクチャ強かったし」

「そ、そう?」

 付け加えたオレに何故か少し照れたような顔を見せて言う花梨。それを見たオレは今のうちに自分の株を少しでも上げておこうと思った。だから言ってみた。

「あぁ! すごかったよ! 今回は特にすごかった! まるで阿修羅様みたいだったぜ?」

「………………」

 なんだか反応が薄い。そこで、もう一押しすることにした。

「いやいや、阿修羅と言うよりは鬼神? それとも竜王か? もしかするとそれ以上!? ってくらいすごかったな。うんうん。ん? 花梨? どうした?」

 オレが誉めている間にも花梨は何故かぷるぷると震えている。喜んでいるのだろうか?

「あんたは……」

「ん? なんて?」

「あんたにはデリカシーってものがないのかあぁぁぁ!?」

「えぇぇぇぇぇ!?」

 花梨の蹴りが鈍い音をたててオレの腹部に見事に決まる。もはやお約束となっている悶絶姿を(さら)すオレ。

 それを見た誠也はオレに哀れむように言った。

「………大変そうだな」

「ま、全くで……す」

 いつも思うが酷い役柄だ。オレはドMじゃないんだぞ。

 そんな時。オレは悶絶している中で微かになんだかイヤな感じをうけた。まるで誰かに見られているような、そんな感じだ。

 しかしそのイヤな感じもすぐにどっかへ消えてしまった。

 オレは誠也に肩を貸してもらい、先を行く花梨の怒ったような後ろ姿を追った。

更新は不定期になりますのでよろしくお願いします。

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