第1話 出逢いの赤
お前は信じるか?
そう、例えばごく普通に暮らしてた人間がある日突然、宇宙人にさらわれたり……。
または異世界に飛ばされたり……。
はたまた悪の秘密結社に改造されたり……。
信じられると思うか?
オレには無理だね。
なのにこの状況………なんなんだよ、いったい。
その日はまだ夏休みが終わったばっかりで、夜でも嫌に蒸し暑い日だった。
オレは塾のテストの帰りでけっこう憂鬱だったわけだ。
辺りはもう真っ暗で道に等間隔で立てられた街灯の光だけがオレを照らしていた。
「はぁ……」
ため息がでる。
当然だ。ものの見事に撃沈だ。いや、ここは完膚なきまでと言ったらいいのか。まぁどっちでもいいんだが……。
しばらく歩いて立ち止まってしまう。
……家に帰りたくない。そんな事を思ってしまう。
早い話、テストの出来が壊滅的なのだ。今回はもう並大抵の点数じゃない自信がある。
「一問もわからなかったな……」
オレのどうしようもない呟きが誰もいない夜道に虚しく響く。
「どうしてこんなことに?」
無論それはオレが勉強しなかったせいなのだが……。
しかしそれにしたって余りにも酷すぎる。来年は大学受験だというのにこんなことでは……。
それでも終わったことは仕方がない。人生は切り替えが大事だ。そこで数日後に控えているであろう答案返却をどう乗り切るべきか考えようとした。
その時だ……。
カランッという音が後方から聞こえた。
オレが後ろを振り向くと、何かが転がってきて足元に当たった。視線を下げてみる。
……空き缶だ。誰かが蹴ったのか? と思い辺りを見渡す。
……無論、誰もいない。
この際だから一応言っておくが、オレは生まれてこのかた幽霊なんて見たこともないし、もう高校生なんで信じてもいない。……しかしだ。
なんだろうか、この言い表せない不安は。
怖くない、怖くないぞ。別に誰もいないところから空き缶が飛んできても怖くもなんともないッ……はずだ! うん。
いや、怖いけどさ。だってそうだろ? 常識的に考えろよ。
誰に対してのかわからないツッコミをしたところで我に返る。急いで帰ろうと前を向いたその時、わずかな気配とでも言えばいいんだろうか、空気が揺れたような……そんな感覚を感じた。
もう一度振り返る。
そしてオレは見た。見てしまったんだ、それを。
暗闇をうごめく影。そう、影だ。
四本足で動いてる大型犬ほどの大きさのそれはまるで影のように真っ黒で、とんでもなく不気味だった。
逃げなければ。オレの中の思考回路がそう告げている。
もちろんだとも。もちろんそうするさ。
回れ右をするため並んでいる両足から右足を後ろへ下げる。その時……。
カランッ。
オレの右足はさっき飛んできた空き缶に触れてしまい、渇いた音をたててしまった。
しまった! と思った時にはもうそいつはこっちに走り出してきていた。
「……クッ!」
オレに出来たのは目をつぶってうずくまることだけ。
だってそうだろ? あの一瞬でそれ以外の選択肢があったのなら誰か教えてくれ!!
もう死ぬッ! そう思った。
一瞬がやけに長く感じる。俗にいう走馬灯っていうものが流れる時間だろう。
あぁ、さよならオレ。さようなら友達。いままでありがとうお父さん、お母さん。そしてついでにさよなら答案返却日。
…………。
しかしおかしい。いつまでたっても噂の走馬灯は流れてこない。オレにはそんなに思い出がないというのか?
そんな中、暖かい夏風がオレの頬を撫でた気がした。
「あんた! 大丈夫!?」
ふと誰かの声が聞こえた。オレは思った。
大丈夫なわけねぇだろ! オレは今まさに死ぬところなんだよ! デットエンドなんだよ!
「怪我がないなら早く離れなさいよ! 死にたいの!?」
女の声だ。死にたいわけあるか! オレにはまだやりたいことがあるんだ。主に女子と付き合ったり、女子と買い物したり、女子と愛のABCとかもしたいし、女子と……etc。
んん? 女の声?
目をあける。するとオレの目の前には茶色い髪の少女が背中を向けて立っていた。
「……どちらさん?」
オレは思わず聞いてしまう。
目の前にはおそらく夏用の制服であろうカッターシャツとスカートを着た一人の少女。
その少女は振り返って一気にまくしたてる。
「だぁから、離れとけって言ってんの!!」
「はい、ごめんなさい」
怖い。背はオレより小さいくせにすごい迫力だ。
見ると、少女の前方にはさっきの影の化け物がいる。
オレはあわてて街灯に隠れる。いや、街灯しか隠れる場所がなかったんだが。
影の化け物と対峙する少女。肩を越えて背中の中程まで伸びるツンツンとした茶色の後ろ髪に敵を射貫くような蒼い瞳、背は160センチくらいだろうか。こんな状況じゃなければいたって普通の高校生という感じの子だ。
つかよく考えるとあんな細い体の少女があんな得たいの知れない影の化け物と戦えるわけがないじゃないか!
助けなければ! って誰が? ……オレがか!?
そんなことを考えてるうちに化け物の方が動いた。
背中など体の至るところから黒い植物の蔓のようなものを少女に向けて伸ばす化け物。
対する少女は何を思ったのか、右手を夜空へ向けてただかざすだけ。
「……くっ!」
オレは思わず街灯から走り出していた。少女を助けるために。あの化け物から救出するのだ。あわよくばカッコよく!
走ってくるオレを見た少女は一瞬驚いたような顔をみせる。オレはそれに構わず少女を横から力任せに突き飛ばす。少女はとっさのことで反応が間に合わずに少し体を浮かせてそのまま転んでしまう。女子だからちょっと心配だがこの際しかたがない。
オレも勢い余って同じように転んでしまった。
化け物の黒い蔓はオレの頭上スレスレを猛スピードで通過していく。
よしっ! なんとか第一陣はやり過ごした。あとはこの少女と一緒にここから逃げればミッションコンプリートだ。
「早くここから逃げ――おふッ!?」
オレが発した言葉は最後まで続けられなかった。
腹部に強い衝撃。なぜかオレは自分が助けたはずの少女から横腹に蹴りをくらい、もと居た街灯の方へ吹っ飛ぶ。
わ、わけわかんねぇ……。ぐおぉぉ、横腹すげぇ痛いし。
「このバカ! なんであたしに突撃してくんのよ!? 意味不明よ!」
こちらこそ意味不明なんだが少女はオレに助けられたにも関わらず相当ご立腹のようだ。
「なんだよッ! せっかく助けたのに! つかマジでいてぇ……」
「助けたんじゃなくてあれは妨害よ、妨害! このバカ! 邪魔しないで」
そう言うと少女は化け物に向き直る。
化け物はまたもや黒い蔓を伸ばす。さっきよりも数が多い。
だがしかし残念ながらオレは今の少女からの横腹への一撃でもう一歩も動けねぇ……。逃げてくれ!
しかし少女はまたさっきと同じように右手を空にかざすだけ。だが今度はそれだけではなかった。
燃えるような闘志が少女の瞳に宿る。そして静かに呟いた。
「……イグニション」
その刹那、爆発したような音が辺りに轟き、少女のいる場所から溢れる白い煙のようなものがオレの視界を奪った。
「な、なんだ……?」
化け物も何が起きたのかわからないのだろう。オレと同じくただ呆然とするだけだ。
白い視界が徐々に晴れていく。まるで元の一点に収束していっているように……。
再び姿を現す少女。オレは見た。少女の右手を。
深紅の短剣。そう言えばいいだろうか。よくテレビでみた西洋の両刃の剣の半分ほどの大きさの白銀の刃。そしてそれを真っ赤な柄や装飾が色取っている短剣を少女は握っていた。
気が付くと化け物の黒い蔓は一本残らずに切断されていて少女の周りに散らばっている。
蔓を切られた苦痛からだろうか、化け物は獣のような叫び声をあげる。そしてそのまま少女に向けて突進していった。その獰猛なライオンのような動きは人を怯ませるには十分だ。
だがその時には少女はすでに化け物の後ろをとっていた。信じられないスピードである。
「あんたじゃ全然、役不足だよ!」
少女が叫び、短剣を一閃。すると一瞬で化け物は真っ二つに両断され、重力のままに地に落ちた。
「……強ぇ」
オレは感嘆してしまう。ほとんどの動作が見えないほどのスピードで化け物を一瞬で倒してしまった。
こんな奴にオレは蹴られたのか? と少し横腹の心配をしていると息絶えた化け物の死体はすぐに影になって消えてしまった。
それを見た少女はため息をつくとオレの方へ歩いてきて言った。
「あんた、誰?」
ここにオレの非日常は始まったんだ。
どうも初めまして。この度は読んでくださりありがとうございます。
え〜と、白夢陽介と言います。良かったら覚えて帰ってやって下さい(笑)
初投稿なので全然勝手がわからずアレなんですが、どうでしたでしょうか?
小説なんて書いたことがないんで駄文かもしれないですがどうか暖かな目で見てやってくださいね。
そいじゃ一先ずはこの辺で。
ではではッ。