07. 誤解
何故かヴィアの鞄を凝視していたギルド職員さん——
「あの…その鞄から覗いているのは?」
「森で採った果実です。」
エーファが森で採って来てくれた黄色い果実を鞄から取り出して渡す。
「やっぱり!これはリベトの実ですね!」
「リベトの実?」
「え、知らずに採ったのですか?これは魔の森の奥地に成っていて、かなり上級の冒険者にしか採集依頼が出せないものですよ。しかし、上級の冒険者は危険魔物の討伐依頼等が優先的に回されるので、なかなか市場に出回らなくて貴重な果実なんです。」
「へえー。」
そんな貴重なものだったのか!と、驚く。
「栄養価が高い上に味も良いので、美食家なら1度は食べたいと思う果実。高値で取引されているので、売っていただけるのであれば、宿代は余裕で賄えますよ。」
「えっ!そんなに高価なものなんですか?」
「ええ。生ものなので状態にもよりますが、一つ50〜100コルナ前後で買い取りしていますよ。」
(1つ50〜100コルナだなんて!もっと味わって食べれば良かった?)
エーファが栄養価の高いものをわざわざ選んで採って来てくれていたことが嬉しい。彼女が苦労して採ってくれたものを売ってしまって良いだろうか?と悩んでいると、彼女が後ろから果実を掴んで机の上に置いた。全部で3つある。
「いいの?」
こくり、と頷く彼女。財布がホクホクになったので、そのまま宿を取りに紹介してもらったレフォア亭に向かう。リベトの実は3つとも上質なものだったが食べ頃で、販売用には少し熟れ過ぎということで、200コルナになった。
レフォア亭は個室1部屋に大きめのベッド1台、2人1泊食事付きが45コルナだという。ギルドの人が教えてくれた通り割安だ。それに1回1人3コルナを追加するとお風呂も使って良いそうだ。エーファにお風呂付きにしても良いか確認すると、頷いてくれたので2泊分で102コルナを支払う。これで残りは、92コルナだ。
宿に着いたので、まずはお風呂に入ってから、ボロボロの服がなんとかならないか考えようかと思っていると、彼女が外に行こうと促してきた。
手を引かれながら街を歩いていると、彼女は迷いなく雑貨店に入っていき、石鹸を手に取る。何個か鼻先に近づけて来たので思わず匂いを嗅ぐ。彼女は私が良い反応をしたものを購入しようとする。
『えっ、買っちゃうの?』と思わず言うと、彼女は不思議そうにこちらを向いて頷きそのまま購入してしまう。ボディタオルもいつの間にか買っていた。これで60コルナが消え、残り32コルナ。
石鹸は高いのだ、とても。毎日使えるのはゆとりのある家庭で、オリヴィアのように貧しい暮らしをしているものは2日〜3日置きにしか使えないほどに高価なものだった。
(エーファは石鹸を使うのが当たり前の裕福な暮らしをしていたということ?)
やっぱりどこかの貴族様か、お姫様なのかな?こんな田舎を庶民が連れ回したらまずいのでは?と、不安になっているとエーファが顔を覗き込んできた。『何でもないよ。』とぎこちなく笑うと、彼女は腑に落ちないのか首を傾げた。
その後も、エーファに連れられて歩いていると宝石店の前に来た。彼女は首に下げた小袋から宝石を取り出すと、それを手に乗せて私に見せ握りしめた後、すっと開くといつの間にか大銅貨を取り出してその手に挟んでいた。手品みたいな動作に見入っていると頭を撫でられる。
どうやら、『宝石を換金しなさい。』ということらしい。
(…あ。 宝石があるから、お金の心配は無かったってこと…?でも、この宝石使っていいのかな?)
宝石店の扉には品の良い彫り込みが施されていた。ステンドグラスの透明な部分からチラリと覗く店内には、木製の華奢な猫足が付いたショーケースが見える。大通りには他にも宝石店が何軒かあったが、エーファは迷いなくこの店の前に連れて来た。
『この店を知っているの?』と聞くと、ふるふると横に首を振ったから、別に馴染みの店というわけではないらしい。間違っても一般庶民が入るべきではない店の前で躊躇っていると、エーファが手を引いてお店の中へ入っていく。
「いらっしゃいま、せ?。」
薄汚れた容姿をした私たちが現れた途端に、店員の顔が怪訝そうに歪む。思わず怯みながら、宝石の買い取りをお願いしたいと伝えると、『盗品の買い取りは出来かねる』と、冷たい口調で切り捨てられてしまった。
これでは、換金どころの話ではなく、下手をしたら衛兵に突き出されてしまう。魔の森から持ち帰ったなんて言い分が通じるとは思えない。
怖くなって隣の彼女にしがみつくと、オリヴィアを腕の中に隠し、背を優しくポンポンと叩いてくれる。彼女はそのまま辺りを見回すと、奥の隅で話している老人に目を留めた。
視線に気づいた老人は一瞬目を見張るとこちらにやって来くる。