06. ギルド
宿場街『ロダリガ』。街の中をギルドを探して歩く。
(うわー!人がいっぱい…)
ずっとロダで育ったオリヴィアが街にくるのは初めて。辺境の宿場街とは言え、彼女の目には大都会のように移る。キラキラと目を輝かせてあちこち眺めていると、手を取られる。
振り返るとエーファが手を握っていた。迷子にならないように握られたのだと思うと、少し恥ずかしい。けれど彼女が心配してくれたことは嬉しい。だから繋いだ手はそのままに、宿屋や食べ物の屋台の場所を覚えながら、ギルドへと向かう。
ギルドは元々魔物から街を守るために作られた民間の組織だ。けれど今では魔物討伐以外にも警護・遺跡探索・薬草採集等、様々な依頼を扱っていて、街の仕事の斡旋所のような役割も果たしている。
基本的には依頼に対して報酬を支払う形だが、依頼が出ていないものでも魔物の素材や、薬草等、価値のあるものは買い取ってくれる。
ロダの村にも小さなギルドの出張所があり、オリヴィアは魔の森で木の実や薬草を採ってギルドでお金に変えていた。エーファと出会った日も、その予定だった…。
掘っ立て小屋のようなロダのギルドと違い、この街のギルドは2階建ての立派な建物で、少し入るのに躊躇した。中にはカウンターがあって、何人かの受付職員らしき人たちが応対をしている。中は腰に大きな剣や斧を下げたゴツイおじさんや、弓矢を下げた女性の冒険者などで、少し混み合っていた。
ロダ村では採集や屋根の修理のような依頼が主で、依頼を受けるのも村人のみ。だから冒険者らしい風貌の人は見かけなかった。
荒っぽい印象の冒険者で混み合うこの場所は、オリヴィアからすると少し怖い。けれど、引き返すわけにもいかないので、エーファの手をぎゅっと握ってカウンターに近づく。
「こんにちは。初めて見る方ですね。私はリズと申します。」
「こんにちは。オリヴィアです。こっちはエーファです。この街には今日初めて来ました。」
「オリヴィアさんに、エーファさんですね。ようこそ、ロダリガへ。今日はどう言ったご用件でしょうか?」
「量が少ないのですが薬草の買い取りをしていただくことはできますか?」
「はい、可能ですよ。あちらの窓口で拝見いたしましょう。」
声をかけてきたのが子供の方だった事に、少し驚いた様子のリズさん。けれど、何も突っ込まずに丁寧に対応してくれる。
「それと、今日2人で宿に泊まれるだけのお金を稼ぎたいのですが、これから出来る依頼はないでしょうか?」
「今からですか。んー、失礼ですがギルドランクをお伺いしても?」
「…Eランクです。」
「そうですね…、Eランクの依頼もあるのですが、報酬が高いものは朝のうちに無くなっていますし…とりあえず薬草の換金をしてから考えましょう。今日の宿代ということでしたが、この街の相場はご存知ですか?」
ぶんぶんと、首を横に振る。
「相場は2人1泊、大部屋に雑魚寝でだいたい20コルト〜ですね。それに食事を付けるとなると追加で1人1食、5コルト〜の場合が多いです。ただし、女性2人で泊まるとなると、最低でも2人で40コルト以上、個室タイプにするべきです。比較的安くてオススメなのは、ギルドを出て右手にあるレフォア亭ですね。」
「40コルト…。」
(無理だ...。)
今まで受けた依 頼1件でそんなに稼げたことはなかった。Eランクの採集系依頼はせいぜい5~10コルトで、採集中に、運よく別の高価な薬草がたくさん見つかって換金した時でさえ依頼報酬と合わせて20コルトだった。
この国の通貨単位はコルトとディル。1コルトで白パンが1つ分。コルトの下にはディルがあり、1コルト=4ディル。
硬貨の種類は1ディル小銅貨、1コルト銅貨、10コルト小銀貨、100コルト銀貨、1000コルト小金貨、10000コルト金貨、100000白金貨という風に並んでいる。オリヴィアが実際に目にした事があるのは銀貨までだ。
鞄の中から、薬草を取り出す。移動中見つけた時に採っておいたものだ。薬草を採っていると、エーファも何処からか植物を持ってくるようになった。見たことない種類だったが、鞄に入れるように促すので、一緒に入れていた。『少しでも高く買い取ってもらえますように…』と願って薬草と謎の植物をカウンターに広げる。
「傷薬に使う薬草に、ポーションの原料。お、この毒消しは珍しいですね。」
エーファが持ってきた植物は毒消しだった。何も言ってないのに、珍しい薬草を見つけてくれるなんてすごい!と、嬉しくなってエーファにお礼を言う。
「ただ、少量ですので、申し訳ないですが全部で10コルトになります。今から受けられる依頼は薬草採集か、酒場の用心棒兼・ホールスタッフの依頼があります。しかし、薬草採集で十分な金額を稼ぐのは難しいでしょう。酒場の方は夜の仕事ですから、終わってから宿を取るのが難しいし、若い女性にはあまりお勧めしたくない依頼です。んー困りましたね。」
(どうしようこのままでは、野宿になってしまう。)
ショックに打ちひしがれていると、エーファがトントンと肩を叩いてギルド職員さんを指差す。釣られて目を向けると、職員さんは何故かヴィアの鞄を凝視していた。