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45. 隣人

『——知らないままでは後悔する——』


 それで探した結果出てきたのは魔族の残虐な痕跡で…


 (何も知らないから私は呑気にヴィオルカと仲良くできていたの?エヴァとだって…)


「ヴィア。」


 アレシュ君。今日もくるんと跳ねた栗毛が可愛い。


「エヴァと何かあった?」

「ううん。」


 あれれ?と意外そうな彼。彼はいつもみんなのことよく見ている。そこに居てくれるだけで和やかな空気になるのだ。そのまま隣に腰掛けた彼は「話してごらんよ」というようにヴィアを見る。


「…アレシュ君は魔族とも友達になれると思う?」

「唐突だねぇ。…相手によるかなあ。」

「相手によれば仲良くできる?」


 友達になれない!って言われたら言われたで、ショックだったんだけど。でも…


「ヴィアはさ、学院の全員と仲良くできると思う?」

「それは無理だと思う。」


 特にあのラザお兄ちゃんのファンの人たちとは仲良くなれる気がしない。


「どんな種族が相手でも、気が合う人もいれば合わない人もいる。ただ、魔族と仲良くするためのハードルは高いと思う。知らない魔族が現れたら僕なら怖がっちゃうと思うしね。」

「どんな種族が相手でも…そうだね…。」


 アレシュ君は癒し系でふわっとした雰囲気だけれど、自分の考えをしっかり持ってる人だよね。そのブレない感じがキラキラして見える。そのままじーっと眺めてしまっていたらしい。


「な、なぁに?」

「いつも私が聞いてもらう側だけど、アレシュ君は?」


 言おうか迷ったのかちらっとこちらを見てくる。小動物みたいに可愛い。


「あるよ。どうやったら身長が伸びるかとか、魔法がもっと上手くなりたいとか……あと、姉さんのことはやっぱり心配。強いのは知ってるけど…」


 アレシュ君も最近は少し元気なさそうだった。どんなに強くたって家族が危険な場所にいれば心配になるものだ。


「サシャ様とは会えてるの?」

「あんまり。時々手紙をくれるよ。今は国境付近にいるみたいだから当分は帰ってこれ無いんじゃ無いかな。」

「国境…心配だね…」


 こくりと頷く彼。そのまま暫く何を言うでもなく時間が過ぎる。お互い自分の悩みと、相手の悩みに思いを馳せながら——


「…結局僕の方が悩みを聞いてもらっちゃったね。」

「ううん。いつも聞いてもらっているし、何も解決出来てないし…。兎に角気にしないで。」

「みんなの前で暗い話はしたくなかったから。今日吐き出せて少し気持ちが軽くなったんだ。だからありがとう。」


 いつものニコニコした彼とは違う、なんて言うか少し無防備な表情にどきりとする。


「なら良かった。またいつでも。」

「ヴィアもね。——さあ、そろそろ帰ろう、寮まで送ってくよ。」


 すっと手を差し出してくれたアレシュ君の手は、エヴァよりも少し大きくて、暖かかった。




***




「ヴィオルカさん。」


 久しぶりに呼んでみたけれど返事がない。


「ヴィオルカさん! 聞こえてるんでしょー。出て来てくれないと変態ストーカーって言いふらしますよー!」


 ちょっとやいやい言ってみる。


「…はぁ。貴方の中の自分のイメージが恐ろしいわ。」

「あ、ヴィオルカさん。お久しぶりです。」


 すごく微妙な顔をしたヴィオルカさんは、それでもいつものように屋敷に招いてくれた。そこにはあの日の眷属さんが居て元気そうな様子に少しほっとする。眷属さんの方はいつもより心持ち嬉しそうな表情でお茶を用意してくれる。


「………。」


 で、招待してくれたものの無言になるヴィオルカさん。じぃ―。


「………。」


 じじぃ——っと更に見つめる。


「……怖かったのではありませんか?」


 ぽそりと気まずげに言う彼女。私にどう接するべきか、決めあぐねているようだ。


「とても怖かったです!」


 ピクッと彼女が反応する。


「だからもうしないでくださいね?」

「え。」

「なんですか?」

「何でもないわ。もうしません。(…調子が、狂うわね。)」


 ちょっと疲れた様子のヴィオルカさん。なかなかに酷いと思うのだけど。


「もう来ないと思っていましたが…どうゆう心境なのかしら?」

「んー。あれから魔族について調べたんです。そしたら酷い被害を受けた記録がたくさんありました。」

「まぁ、わざわざ人族の領土に来るのは変わり者かゲスばかりでしょうからね。」

 

 ゲスって…。ということはヴィオルカさんも変わり者? そう思ったのがバレたのか、ちょっと冷たい視線を向けられる。

 

「まあそれで、魔族がすごく危険な存在なんだとは思ったんだけど…」

「だけど?」

「エヴァが怖くなったら、私が止めれば良いかなって。」

「は…?貴方、考えるの放棄していませんか?」


 困惑気味のヴィオルカさんに自分なりに悩んだことも説明した。でも、魔族が起こした惨事を知って青くなったエヴァを見て「守りたい」と思ったんだ。大切なのはそこだと思う。


「それが貴方の気持ち…という事ですか…」

「はい。だからヴィオルカさんも協力してくださいね。」


 ガッツリ彼女を巻き込むつもりで眺める。


「断られるかもという考えはないんですか?」

「え。だってヴィオルカさんエヴァのこと大好きでしょ? エヴァにはもっとフランクにしてるっぽいのに私には丁寧なの、ずっと不思議だったんですが。」


 年下の異種族に気を使う理由なんてある?特に魔族が人間を敬ってるなんてこともないのに。けれど、ヴィオルカさんにとっては少し意外だったようで、少し制止した後「もう良いか…」と白状し始めた。


「妙なところで鋭いのですね。…それは貴方は我が主の大切な姫君だからですよ。」

「ひ、め?……じゃあエヴァは…」

「はい。けれど記憶を刺激する接し方は控えていますから。」

「はぁ……」


 微妙な感想しか出てこない。でも姫ってなんだ、姫って…。気にしないって決めたのにエヴァって何者なんだ!と、ぐるぐる考えそうになる。


「ついでに忠告しておきますが、あの方は貴方が調べた魔族たちよりずっと大きな力を持っています。気を付けなさい。この国くらい簡単に吹き飛びますよ。」

「え…」


 穏やかな表情でゾッとすることを言われている気がする。


「ちなみにヴィオルカさんって強い?エヴァを止めたり…」

「無理ですね。でもその辺の魔族よりは強いですよ。誰か葬りたい相手でもいますか?」 


 底知れない微笑みを浮かべたヴィオルカさんからは、危ない感じの魅力が溢れまくっている。


(ちょっといろいろ頭がついていってないのだけど)


「平和が1番だよね…はは……」


 乾いた笑いしか出てこない。衝撃的過ぎて固まっている私にヴィオルカさんは言い聞かせる。


「あの方は温厚ですから滅多なことではお怒りになりませんでした。…でも今は貴方という『大切なもの』ができた。宝を損なわれれば温厚な方でも怒り狂います。だから貴方は元気に過ごして下さい。それが世界の平和に繋がりますからね。」

「う…うん。」


 仲良くできると言ったそばからちょっとドン引きしてしまっている。オリヴィアくらいなら瞬殺できるだろうとは思っていたけれど、そこまでとは思っていなかったし…怖いものは怖い。

 

 顔色の悪くなった私だけれど、ヴィオルカさんが気を悪くした様子はなくて。 「怖いと思うのは仕方のないことです。」と言って、蜂蜜がたっぷり入ったホットミルクを渡してくれる。


「その表情のまま帰ったら彼女も心配するでしょうから、少し休んでいきなさい。ここの者が貴方に危害を加えることはありませんからね。」

「うん、ありがとう。」


 ちびちびホットミルクを飲みながら、なんだかんだ面倒見のいいヴィオルカさんともう少し世界平和の為のお話をする。具体的には最近エヴァが不安定な件についてとか。


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