3-11「vsフルマルンの強さ」
メルティの言葉で勝負の火蓋は切られた。
フルマルンは右手で剣を抜いて俺に向かって走り、俺は剣を抜いて完全に待ちの姿勢だ。
まずは攻撃を受けて彼女の強さを測る。
「ハァッ!」
彼女は剣を下から上に振り上げ、それを避けた俺に向かって剣を振り下ろす。
勿論それも避けた俺は数歩下がり、空振りに終わったフルマルンの右肩は無防備になっている。
俺はその肩を蹴り、10メートル後方にフルマルンを飛ばしてバトルを一度リセットさせた。
彼女の攻撃は、振り上げた一撃も振り下ろした一撃のどちらも剣筋のブレない一直線の攻撃だった。
特別性のある攻撃ではないが、敵がお飾りの騎士ではないのは確認できた。
「次は私からだ」
次は防御面だ。
蹴り飛ばされた彼女は着地点で跳ね、着地点より更に2メートル程遠くで構えをとる。
そして丁度その構えが取れたタイミングで、俺は攻撃を仕掛ける。
彼女の着地中から距離を詰める。十数メートルを一瞬で詰めた俺は大きく踏み込み、彼女の左肩から右脇腹にかけてを右手の聖銀剣を使い振り下ろす。
この一撃には強く力が込められており、生半可な防御では意味なく斬られる。
避ける道も少ない、だが大きな隙もある攻撃だ。お前はこの攻撃ををどう対処する?
「くっ……かぁあ!」
瞬間。彼女の左肩と迫る聖銀剣の間にフルマルンの聖銀剣が入り込む。
そして衝突する同素材の剣。
咄嗟に入り込んだ彼女の剣が俺の袈裟斬りに勝てるはずもなく、そのまま剣は振り斬られる。
横方向に飛ばされた彼女は下手な受け身を取り跳ね上がる。俺も彼女に向きを変えて正面に剣を構え直した。
彼女の防御面の実力は、俺の片手袈裟斬りに飛ばされ、位置を移動せざるえない程。
守護が任務の騎士が、一箇所に留まって戦えないとなれば明らかな欠点なのでマイナスポイントだ。
そして次は、位置を制限しながら攻撃を仕掛ける事にする。
「うっ……重い」
「どうした? 普段通りに戦えよ、ガーベラ様の騎士の力はこの程度ではないだろう」
「は、はい!」
正面に構えた剣。
俺は下半身に力を込めて、それとともに距離を詰め突きを放つ。
彼女からしたら急にズームアップされたかの様に俺が近付き、更に剣も迫る。一点透視図法の消失点になったかの様に剣がドアップで見えているだろう。
だがその攻撃をまた、瞬間的に入り込んだフルマルンの剣が受け止め、反動で跳んだ。
あの防御はわざとか本当に手一杯でああなるのか。
俺は次いで狙った攻撃を、空で体勢を整えるフルマルンに向ける。
体に魔力を循環させ水魔術と氷結魔法を発動。両足元に、二つの魔法で作った氷の足場を出して空の彼女と距離を詰める。そして剣を振り下ろした。
だが、彼女はまた肌と剣の間に自らの剣を滑り込ませ直撃を防いだ。
しかし今回は空中での防御。踏み込んでいた地面には足が付いておらず、踏ん張れぬまま剣を振り下ろされ落とされる。
地面に衝突した彼女は軽い土煙を巻きあがらせた。怪我があれば中止、及びこの世界らしい傷薬や回復魔法で治そうと思う。
上から見る限りでは、怪我は左手がダメになった事だけのようだ。
損傷は最低限に抑えているのは高ポイントだし俺の攻撃を全部すんでで止めている。
自衛は出来ているが、紙一重では他人を守れないだろう事は悲しきかな、この騎士の弱さを示す。
「いっ……」
氷を壊して地面に立った俺は、怪我をしているフルマルンを見つめ再度正面に剣を構えた。
そして距離は詰めずに観覧席のガーベラ王女を含めた彼女達の反応を確認した。
彼女らの反応はローザ達は少し嬉しそうに、ガーベラ王女達は唖然。
現状はただコテンパンにやられているだけのフルマルン。その勝負になっていない様子に驚愕しているのだろう。
静かだった観覧席につられる様に、騎士達も静かにこの状況を観察している。
彼女が誰なのか。俺がガーベラ王女をエスコートしている点から察しただろう彼らは直接的な言葉は使わないが、俺の評価を上げる事で彼女を評価している。
つまり圧倒的に弱いのだ。
「殿下の攻撃を受けきりまだ立っている」「咄嗟の防御が素晴らしい。まるで命の危険が迫っているかの様な対応だ」「負傷を利き手とは反対の手一本だけに抑えたぞ」
勿論俺は本気ではないし、そしてこれは俺の実力を知っている者が吐いている言葉だ。
今のところ、彼女の強さはそこの騎士達と大して差はない。
剣筋は綺麗だし鮮やかだが強さが伴わない見世物剣法。彼女一人でイルシックスの騎士の強さは測れないが、王女を守護する女騎士は並みの騎士程度。だと。
メルティにも妹のリズにも遠く及ばない。
「いえ、殿下まだ……です! 『零前階』発動。零段階から規定を最大階層へ!」
俺が周りを確認して動かない今が好機! だと思ったのか、推測するに魔法の名称を叫んだ彼女から感じる雰囲気が少し変わる。
教科書が礼儀を学んだかのようだった彼女の様子が変わり、不思議と筋肉も増えている様に錯覚する。
次はアレの強さの検証だ。
「はぁッ!!」
地面の一踏み込むだけで、俺との距離をほぼ詰めたのは良い変化だ。さっきの彼女ではしっかりと走った方が有効的だったが、あの『零前階』という魔法で何か変わった。
そして彼女はそのまま左袈裟斬りを放つが、その攻撃は剣でガッチリと防御。
そのまま上に振り上げ、空いた胴体に蹴り込み一発。くの字で飛ばされるはフルマルン。
両足から揃って着地に成功し、そのまま前屈みで攻撃を仕掛けてくる。
力量は少し上がったが根本的な弱さは変わらない。
美しい上に速くなった剣を捌き、軽く応戦するがその攻撃に彼女は手一杯。
切り札っぽい魔法が増えてこの強さだ。
結果。攻撃と防御の両方の面からみても、俺の騎士であるメルティの方が強い。
最後はそのメルティの技で締めるとするか。
「その剣で少しでも受け止めろ。『上弦の月』」
正面から下に構え直した剣を右回りに回しながら、様々な剣の位置から攻撃を加える。
突き、振るい上げ、スライド式、袈裟斬り、一刀両断。などを高速で行い、傍目から見ればまるで手と剣を回しているだけで敵が倒れるまさかの剣技。
ただ上弦の月の月は上弦の月のように、剣を回して歩くだけで正面の障害物が消える。も多分楽しいぞ。
「うっ……え?」
「勝者はジークエンス殿下でございます!」
俺の剣がフルマルンの眼前に向けられ、それに反応したメルティが俺の勝利を宣言する。
フルマルンは何をされたか分からないのか、だらしない声を出して尻餅をついていた。
そして敗北を知らされ、口を開けて驚いています。
「お前の強さはようく分かった。立てるか?」
「は、はい。ありがとうございますジークエンス殿下」
俺は彼女の手を取って起き上がらせ、剣は地面に突き刺してガーベラ王女達の元へ戻る。
総評は、もし俺の騎士なら戦力として信用出来ない程度に弱い。
美しい剣筋に流れるような連続攻撃。剣の動き全てが予想内で、耐久力もない。そのくせして騎士として一番必要な防御はまずまずだがそれは自衛であり、手数で負けるタイプだ。
彼女の強さは、3年前のリズよりも強くメルティよりも遥かに弱い。
これは彼女をガーベラ王女の騎士に相応しい強さになるように、鍛えねばならないな。




