3-10.「思い出した、剣をとれ」
ガーベラ王女たちが一昨晩俺が助けた『殿下』だと知り、お互いあの時の人が判明して喜んだ。
そして俺はその喜びを一旦置いて、ガーベラ王女の騎士に手合わせを申し込んだ。
「ジークエンス様。何故私の騎士に手合わせを申し込まれたのですか?」
「それは勿論彼女の強さを測るためです。
一昨晩は何故あの暗い夜に馬車で移動をしていたのか分かりませんが、あの盗賊達はしっかりと統率がとれた集団でした。
アレがもし貴方達を狙っていたのだとしたらまた狙われる可能性もあります。私が居合わせなかった時、フルマルンが貴方の側で守れるだけの力があるのか見極めます」
「理解致しました。私を心配しての手合わせなのですね」
「その通りです」
もっといえば、婚約者を守護する者の強さを測りたいのは当たり前。万一の時彼女がガーベラ王女を守れなければ意味が無い。
彼女が強ければ問題なし。弱ければ強くすれば良いだけの話だ。
いつも側にいて、フルマルンは信用されているようなので解雇はあり得ない。
領主の嫁になるんだからその心配もある。
同じく一昨晩に聞いたクラウディア母の話では、王都では最近盗賊による窃盗が多発しているらしいのだ。
公に広まっている命の危険だ。
もしアレがただ、豪奢な馬車に目が眩んだ盗賊たちだとしても危険な事には変わりない。
「そしてもう一つ。ガーベラ様が私の強さを知り、安心して頂きたい。
私の強さを知れば小さな脅威に驚くことは無くなります。その為にガーベラ様にも是非見て頂きたい」
「ーー納得いたしました。フルマルンにはジークエンス様と手合わをして貰いましょう。貴方は宜しいですか?」
「承りました。このフルマルン、殿下の騎士に恥じない戦いをして参ります」
騎士フルマルンと戦う事で彼女の強さを測り、ガーベラ王女にその戦いを見せる事で俺の強さを知って貰う。
ガーベラ王女を守る騎士の強さを知れ、ガーベラ王女に俺の強さという安心感を与え、今まで使っていた頭をリフレッシュする。
という一石二鳥どころか一石三鳥の戦いだ。
立ち上がった俺はガーベラ王女の手を取り、部屋を出て野外演習場に向かう。
その後ろからローザ、サーシャ、メルティ、婆や。ダン、レイラン、フルマルンも付いてくる。
◇
城から出た俺たちは、王城に隣接する野外演習場に訪れた。
数人の騎士達が自主練をしており、俺に気付いた騎士が集まってくる。
「お久し振りでございます殿下!」
「ジークエンス殿下! 今日は訓練の観覧のようでございますか? それとも剣の鍛錬でしょうか」
「手合わせだ、場所と剣を幾本か用意しろ。観覧席も忘れるな。そして席は二つだ」
「はっ、お任せ下さい殿下。すぐに用意させて頂きます!」
先制で言葉を被せてきた二人の騎士に任務を与え、周りの騎士達を集めて設営した観覧席に向う。
観覧席には、風除け日差しよけ熱風よけなどの戦闘観覧に不可欠な効果のある結界が張られており、芝生の地面に似合う椅子が二つ置かれていた。
「こちらへ」
「ありがとうございます」
ガーベラ王女を椅子の片方に誘導し、俺がもう一つに座る。
そして、その背後の結界内にローザや婆やたちが並んだ。
初めに俺に近付いてきた二人の騎士は、周りにいた騎士達を集めて、魔法や専用の用具で戦闘フィールドの整地を行なっている。
それに気付いて集まった騎士も整地を手伝うが、集まった数は数人程度。大きな騒ぎにはなっていない。
「ジークエンス様は凄いです。ただの一言でこの数の騎士を動かすだなんて」
「ありがとうございます。私もこの場所にはよく来ておりますし、何度も剣を振るっています。
彼らの中には私を師事すると言っている者もおりますから、それが中心になり自ら動いているのでしょう」
「人間種最大国であるジークハイル神仰国。その騎士に師事される程お強いの……」
勝手に俺に師事している奴は多いそうで、騎士やそこらの兵士から男女問わずいる。
彼らは、俺とメルティの打ち合いの際。ギャラリーの一人としてその剣技を観察したりしている程度で、俺からは何も教えたりしていない関係だ。
そんな好きで勝手に動く人達なので、俺の言葉に威圧感や強制力がある訳ではない。
ガーベラ王女は人間種最大国のジークハイル国民が凄い! 風に言っているが、人間の中に国家間での強さの序列などはない。
強さは大方才能、訓練への打ち込み具合で決まるから。
「師事の話は彼らが勝手に言っているだけですし、私が指南した事はありませんよ。それに国家の違いで個人の強さは変わりませんよ」
「それもそうですね。ですが私は本当に凄いと思いました。ーーあ、準備が出来たのではありませんか?」
二人で話しているうちに演習場は整備出来たようで、気付いたガーベラ王女から教えて貰った。
「本当だ。ではガーベラ様、観ていて下さい」
「はい。ーーフルマルンも行きなさい」
「メルティも来い」
俺、フルマルン、メルティが観覧席から離れ二人の騎士が立つ場所まで向かう。
その前に『雑音拒否』の効果がある結界を張ろうか迷ったが、張らずに進む事にした。
『雑音拒否』には肉声を含む小さな音をシャットアウトする効果があり、これにより戦闘をじっくり観れるのだがわざわざ使う必要も無いのでやめた。
「ジークエンス殿下、整地及び剣の用意が完了致しました。地面は私達の踏み込みに十分に耐え、剣も数十種類の用意があります」
「整地は十分だ。フルマルンはどの剣が必要だ? 私も同じ剣で相手をしよう」
「鉄……いえ聖銀の片手用長剣はありますでしょうか? いつも使っている剣の素材と同じ物で戦いたいです」
「了解致しました」
聖銀性の剣は彼女が言おうとした鉄剣よりも、重く硬く丈夫で高い剣だ。
騎士は用意した中から、鞘に収まった聖銀性の片手用長剣と鞘を腰に下げるホルダーを二つ用意して、俺とフルマルンに手渡した。
聖銀は硬いし丈夫であるが、特別性の白羽の剣とは強度に天と地程の差がある。
だが、実は白羽の剣以外にも使いたい慣れる為にここにある剣は全て使ったことがあるので、扱い慣れていない剣で実力を出せずに負ける事はない。
「ご苦労よくやってくれた」
「ありがとうございます殿下! では私たちは下がらせていっだきます」
二人の騎士に代表して労うと、二人は声を張って答え一緒に整地をしていた騎士達の元に戻っていった。
やっと対戦だ。
俺は片足で地面を踏み込み、ある程度の硬さはあると確認。固い地面は大してへこまなかったので合格。
俺とフルマルンはホルダーを腰につけて、剣を鞘ごとそれに通した。
「メルティお前が仕切れ。勝負の決着を正当に評価しろ。そしてお前が危険があると判断すれば、即座に勝負を止めろ」
「はい、分かりました殿下」
「フルマルン。互いに間合いを取り、メルティの合図で開始。魔法の使用もありだが、剣の補助となる魔法のみとする。
そして剣を相手の身体に当てれば勝利とする」
「分かりました、ジークエンス殿下」
俺たち二人の戦いは審判のメルティの元、以上のルールに従い行われる。
だがこの剣は真剣だ。無傷剣とは違い斬れたら血が出るし、最悪死ぬ。
その対策にと俺は剣を抜き、剣に魔術をかけた。効力は『肉体が当たった瞬間当たった対象を吹っ飛ばす』の専用の魔術だ。
「お前も剣を抜け。そうだ、これで真剣が肌に当たったとしても斬れる心配はない」
「初めて見る魔法です。この剣は寸前で止まるのでしょうか?」
「いや、肉体に触れた瞬間にその者を吹き飛ばす。そして肌が傷付く可能性は一切ない。気兼ねなく全力で打ち込んで来い」
「はい。全力で参りますジークエンス殿下!」
俺は彼女の剣にも魔術をかけ、この魔術の能力のおかげで安全だと伝える。そして二人とも鞘に収めた。
コレで互いに傷付かず傷付けずの公平なフェアプレーの条件が整った。
俺は後ろを向いて真っ直ぐ進み、フルマルンは後ろ歩きで距離を取る。振り返った俺はフルマルンと対面。
真ん中にはメルティから見て左が俺で右にフルマルン。
フルマルンは柄に手をかけており、俺も構える為に柄に手を掛けた瞬間。
「勝負、始めッ!」
審判メルティから勝負開始の声が放たれ、真剣勝負が始まった。




