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3-8.「アシュレイ姉様の家名」

「決めました。この真紅のドレスを選ばせて頂きます」



 セシリア母様の勧めで、ガーベラ王女の成人式用の服を選ぶ事になった俺たちの6時間後、着る服が決定した。


 でも6時間は一着一着に時間がかかった訳でなくて、女性用のドレスが100を超えガーベラ王女が母様の着せ替え人形になっていたからである。

 なので、このドレス選びは規定時間よりも早く決まったと言える。


 ちなみに男性用の服も50着程あり、その中からまるでローブのようなかさばりそうな服を選んだ。

 色は白を基調に、腕の裾や肩のヒラヒラ部分の先が真紅の2色構成だ。


 時間がかなり余った俺は、その時間を用意して貰った紅茶や茶菓子を含みながらガーベラ王女を眺めていた。



「選ばせて頂いたどのドレスも美しく。悩みましたが、やはりこの色が一番美しいです」


「よく似合っておりますよ」



 彼女が選んだドレスは、ゆるふわ感の無いキチッと線の入った赤が基調なドレスだ。

 そのドレスを着彼女は、目を鋭くキメて鏡の前に立ち格好を付ける。少し手を広げてポージングを取るその姿が可愛い。


 彼女は最後の2択で、ゆるふわぁ感ありのドレスとそれの無いこのドレスで悩んでいて、セシリア母様と話し合って決めていた。


 俺はゆるふあドレス推しだったけど、その前に彼女が今まで着ているドレスは、全部赤色が基調。

 彼女が感嘆を漏らしていた漆黒のドレスも、彼女なら似合うだろうと思ってたけどなあ。



「ジークはこのドレスの方が良かったのね? ふふ、でも安心なさい。この部屋にある服は全て、陛下と私からの贈り物だから」


「え、この服を全て頂けるのですか?」


「そうよ、沢山のドレスを気に入ってくれましたからね。それにこの城に来るまでは、ドレス選びも楽しめなかったのでしょう? 私たちは貴方に楽しんで欲しいですから」


「それはありがとうございます。セシリア様」



 この部屋のドレスは数だけで100着以上。しかもその全てが超一級品。

 それが纏めて全部ガーベラ王女に贈られた。父様と母様からのプレゼントだ。



「ジークは、他の服は欲しいかしら?」


「私は結構ですよ。そもそもこの服が必要になることが稀でしょうし、必要になれば新しく作らせますので」


「分かったわ。この服は陛下に返しておくわね。

 それと、貴方の服を作る時は一度陛下に報告してちょうだい。司祭服の製作は王の許可が必要ですから」


「そうですか……ならば20着程頂いて宜しいてすか?」


「ええ、勿論いいわよ」



 母様からガーベラ王女同様この服が欲しいかと聞かれるが、普段使いはしないだろうし紛失したら新しく作らせれば良い。

 と思っていたがこの『司祭服』。製作に許可が必要なのだそうだ。


 もうすぐ王都を離れるし、予備を持っていても良いかと気に入った20着程を纏めて受け取る。



「服は結婚式が終わるまでこの部屋に置いておくから、いつでも見に来ていいわよ。式の後は貴方の領地の城に送りますから」


「ありがとうございます」


「話はこれで終わりですけれど、貴方は家名を決めておいて下さいね。ハルトやアシュレイも悩んでいましたから、しっかり考えなさい」


「はい、分かっております」



 元の服に着替え、セシリア母様の部屋に戻ってきた俺たちは一旦ソファーに座った。

 そしてドレスと司祭服の件や家名の事を聞いてから、ミアの開けた扉から退室した。



「ガーベラ様はこの後のご予定はありますか?」


「予定はありません。ジークエンス様にお付き合い致します」


「そうですか、ならば一度私の部屋に部屋に戻りましょう。家名を考えるつもりですが、アシュレイ姉様の都合が合えば家名をなんとしたか聞いてみたいですから」



 俺は廊下を歩きながら、ガーベラ王女と話していた。

 今から家名を考えるつもりだが、その参考に俺が寝てる間に名前が新しくなっていたらしいアシュレイ姉様の話を聞きたい。


 その為にローザをアシュレイ姉様への連絡に向かわせ、俺たちは部屋に戻った。

 ちなみに家名の候補は無い。





 部屋に戻った俺はガーベラ王女をソファーに促し、ローザから連絡が来るまで休憩する事にした。


 サーシャに紅茶とクッキーを用意させると俺もソファーに座り、ティーカップの紅茶で口を潤した。

 彼女も同じようにカップに口をつけ紅茶を飲む。



「ジークエンス様は今日、家名の事をお知りになられたのでしょうか?」


「えぇ今日知ったばかりです。ですから良い家名も思いつきませんし、どのようにして決めれば良いかも分からない状況です」


「考える時間も余りありませんが、今後も残る凄く大切なものですから。私に出来ることがありましたらなんでも仰って下さい」



 そうなのだ。

 実はこの家名、俺の名前が一つ長くなるだけでなく俺の子孫たちが継ぐ名前の一部。

 つまり自分の子供の名付けと同等。だが我が子の名前よりも後世に残ってしまうと、これは悩んでしまう。


 この場合はこの世界の偉人の名前が良いのか、はたまた前世か、もう思いついたカタカナで良いのかもう分からない。


 そうして一人重要案件で悩んでいる俺の部屋の扉が開き、俺の元にローザが戻って来た。

 ローザは俺の近くに寄り、軽く頭を下げてから話し始めた。



「殿下。アシュレイ殿下に面談を申し込みました結果、"今からなら面談を出来る"との事でしたのでお願いして参りました」


「ありがとうローザ。それではガーベラ様、早速アシュレイ姉様の部屋に向かいましょう」


「はい、同行させて頂きます」



 ローザからの報告で、今から早速アシュレイ姉様に話を聞ける事となった。

 姉様から、姉様やハルト兄様の家名を聞いて参考にすれば、俺も良い家名が思いつくかもしれない。


 手に持っていたティーカップの紅茶を飲み干し、ソーサーに置いた。

 そして立ち上がると、ガーベラ王女の手を取って立たせ彼女に一つ話をかけた。



「ガーベラ様、姉様には私と貴方が呼ばれたのでしょう。なので、採用するか分かりませんが、良い家名が思い付いた時は私に教えて下さい。2人で話し合えば良い家名が決まるかもしれない」


「そう、ですか。驚きました。ならば私も良い家名を考え付きましたら、話します」


「ありがとうございます。ではアシュレイ姉様の部屋に向かいましょう」



 口を出さないつもりだったらしいガーベラ王女にもアイデアを出すようにお願いして、発想を2倍にしてアシュレイ姉様の部屋に向かった。

 より良い家名が決まる確率アップだ。





 アシュレイ姉様の部屋の前に着いた俺。

 部屋の前にいる兵士と執事。俺を待っていただろう姉様の執事が、俺の訪れを伝えた。



「入って来ていいわよ」


「姉様、失礼致します」


「失礼致します」



 中から部屋に入る事を許可されると、執事が扉を開き俺たちは部屋に入った。

 部屋の中央にはソファーに座ったアシュレイ姉様が座っており、部屋に入った俺たちをソファーに誘導する。



「私に聞きたい事があるのよね? 早速ですけれど聞かせてもらえるかしら」


「今日は、時間を設けて頂きありがとうございます。

 では早速ですが、姉様は成人した際に新しい家名を得ているのですか?」


「そうですよ。でも貴方には言ってなかったかしらね。今の私の名前は『アシュレイ・リート=レイングラム』

 一代限りですけどレイングラム伯爵位を頂いておりますよ。それに自分でも良い名前をつけたと思っているわ」



 姉様が、俺の寝てる間にレイングラム伯爵になっていた。


 早速話を振ってくれた姉様にストレートに聞いてみたら、アシュレイ姉様の名前と爵位が少し増えていた。

 『レイングラム』は聞き馴染みのない言葉なので、偉人の名前から取ったのではないのだろう。

 そして二つ目の質問。



「ではハルト兄様の新しい名前も、伺って宜しいでしょうか?」


「『ハイルハルト・リート=スピチュアル』よ。ハルトが凄く悩んだ末に決めた家名ですけど、少し可愛いですよね」


「確かに、可愛い響きですね」



 姉様のレイングラムと兄様のスピチュアル。それを聞いてみたはいいけど、名前を聞いただけじゃアイデアは思い浮かばない。

 そして両方の意味も分からない。



「ジーク。貴方は私たちの家名を聞いて、それを自分の参考にするために来たのね」


「その通りです。では姉様がレイングラムと、知っておりましたハルト兄様がスピチュアルと付けた理由を教えて頂きたいです」


「私は確か、音の響きだけで決めたかしら。ハルトは分からないわ、知られたくないようではありましたけど」


「そう、ですか」



 結果。姉様のレイングラムは音の響きで、ハルト兄様は不明。

 もうそうしたら、俺も音の響きだけで決めようかな。なんて思ってきた。


 ちなみに姉様は人の心を読む魔法『神通力の他心通』を使えるが、心の中を知られたくないと思っている人の心は読まないので、知らないと言った姉様の事は100%信用できる。



「でもじっくりと考えなさい。私は結婚したら無くなるかもしれない名前ですけれど、貴方は貴方の一族が続く限り残る名前です。……それはハルトにも言える話ですけどね」


「ありがとうございます。私も姉様やハルト兄様を参考にして家名を考えてみます」


「ふふ、そうしなさい」



 アシュレイ姉様から姉様とハルト兄様のフルネームを聞いた俺は立ち上がり、感謝の礼をした後、ガーベラ王女のの手を取って部屋を後にした。


 アドバイスに「じっくり考えなさい」と言われたし、まだ数日の猶予はある。その日までに何か良い家名を考えよう!

 と、何も思い浮かばない俺は心の内で空元気を出し、婚約者の手を引きながら部屋に戻っていった。

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