3-3.「昨夜の後始末」
俺の将来の領地。通称『アテン ザ ミステル』
現在の領主は、俺が成人するまでの間の代理でその後俺の補佐にあたる人物だ。その名前は確か……
「ギヴァー・エンボォーク伯爵。父が取り立てた一代限りの貴族か」
国を早急に再現する為に多用した、一代限りの貴族として貴族位と家名を有識者や才覚のある者に与える方法。
何代か続くor他の上級貴族達のお眼鏡に適うと永代貴族の道がある人たち。
おっさん年齢のエンボォーク伯から送られた資料の1つである送り込んで就職させれそうなものを吟味した結果、
彼らには村を開拓させて、畑を耕させる事にした。
アテン ザ ミステルには迷宮都市がある。その近くにあり広い土地が余っている場所を開拓村にすれば人は流れてくるかもしれないし。
とここまで考えて、思い出した。
七人の元奴隷の子たちの中で一人、俺の奴隷になりたいって少女がいた。
俺が行くことはあり得ないが、噂の発生源になってしまう下っ端を送るのも駄目だ。外聞が悪くなりそうだし。
「ミゲル。王権を私の名で代行する、これより着替えて金を持ち平民街にあるリンドリンの宿にいる7人の少年少女の宿代を払いに行け。
そしてその者らにアテン ザ ミステルで職に就ける事を説明しろ。そして……」
呼びかけで、ミゲルは俺に近寄り説明を聞く。
リンドリンの宿は確保の住む宿の店名だ。
そして周りの様子を見て、耳打ちなら音漏れしない事を確認する。
「その中で、金髪の女の子が私の奴隷になりたいと志願したんだ。今日その答えを聞いて考えが変わっていないようなら、その娘だけ追加で一週間の宿代と食事代を払え。
いや、他の者も残ると言えば泊めさせておいていい。では、任せたぞ」
「かしこまりました、殿下」
「ではメルティも来い」
ミゲル変装させたのは、あんな場所に良質な執事服は目立つからだ。
馬車と旅の食事と護衛も用意させているから、わざわざ解放した奴隷が殺されちゃった。って事は起こらない。
彼らも、急に行動出来なくなったとか怖くなったとかあるかもしれない。成人式までには終わらせて貰うけどね。
そして元奴隷たちの件を指示し、次に私の唯一の騎士候補であるメルティを呼ぶ。
彼女は元奴隷たちとは別件だ。
「耳を貸せ。ーーお前に命令だ。下級貴族街にあるエルモパール商会の主人の家に、私の白羽の剣を置いてきてしまったのだ。
ジークエンスの名前を出して剣を回収して来い。帰りは、剣を隠して持って帰って来い」
「はい、分かりました」
昨日。悪魔に会う為に武装して夜のスラム街に出たのだが、帰りに立ち寄った家でうっかり『白羽の剣』を置いてきてしまった。
あの家の信用は城下一なので心配はないが物が物なので、早いこと回収に向かってもらおう。
準備を整えた執事のミゲルと、話を終えた俺唯一の騎士候補のメルティが部屋を出る。
さあて、予定も消化できたしガーベラ王女を部屋に戻して、風呂に入ろうかな。
◇
俺が執事と騎士に指示を出すまでの間、ガーベラ王女は部屋の内装や窓の外を眺めながら待っていた。
旅の疲れなのか慣れない環境ゆえか、やはり疲れが見て取れる。
彼女と一緒に来た老執事とメイドとスーツの女性も、ウチの王城の使用人と比べると疲れてい事が分かる。
「休んで下さいガーベラ様。貴方が無理に起きている必要はないですし、昨日までの移動の疲れを癒し睡眠を取るべきです」
「いえ、私は大丈夫です」
「駄目です、もう貴方たち全員部屋のベッドで眠りなさい。ガーベラ様も、ソファーから立ち上がれないと言うなら私が連れて行きますから」
「……分かりました」
彼女と共についてきた者たちを巻き込んだので、彼女をベッドに誘導できるぞ。
優しい人なんだろう。
「ジークエンス様……私、自分の足で立てそうにありませんの。部屋に運んでいただけませんか?」
「立てないほどですか? ならばもう少しソファーの上で休んでいて下さい」
「い、いえ。座る前からそうでした。今すぐに横になりたいのです。ですから……」
ガーベラ王女も、そんなに疲れているなら俺に従って休めばよかったのに。
『入浴を迫るなら9日後からにして下さい』なんて言葉を吐こうと思っていたが、状況が変わった。
「私のベッドに寝て下さい」
「……えっ?」
「すみません、貴方がそこまで疲れていたとは気付きませんでした。ガーベラ様は自身の足以外に、特に不調を感じる場所はありませんか? あれば私が回復させます。私には知識も経験もありますから」
「えっ……と」
ソファーに座っているガーベラ王女に近寄り、立てないと言っていた彼女の前にしゃがみ込んで背中と膝裏に手を通す。
後は、手を俺の首に回して貰えれば完璧。これでお姫様抱っこでベッドまで運べる。
彼女に身体の不調を早く調べないといけないから。
「ジークエンス様……」
「私のベッドなのは我慢してください。私の回復魔術が完了しましたらまた、貴方の部屋まで運びますから」
「いや……いえ、ベッドはこのままがいいです」
「分かりました」
彼女は手を首に回し、俺に体勢を預ける。
その彼女を運び、ベッドメイキングの完了していベッドに座らせてメイドに寝間着を用意させ着替えさせる。
彼女の着替え中は視線を部屋の壁を向いていた。
だが彼女に手を取られ、『着替え終わったかな?』と振り返るとまだ着替え中だったり。
「どうされました?」
「『お休みなさい』と言いたくて。ですので、お休みなさいませ」
「お休みなさい」
ガーベラ王女はベッドに入り、目を閉じた。
俺は早速足の不調を魔術で調べてみたが、少しの疲労があるだけで立ち上がれない程の重傷は分からなかった。
俺の魔術の結果は『疲労に対する免疫が少ない彼女の疲れが足に来た』となった。
俺は信用できる人達にガーベラ王女の護衛を頼み、入浴する為に部屋を出た。
ガーベラ王女に仕える使用人たちは、用意させた椅子に座らせておいた。あの人達も疲れている風だったからね。




