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2-28.「城下の夜」

 悪魔ダエーワという名前を隠して、先のあらましを伝えた。

 『悪魔ダエーワ』の認知度は知らないけど、絶対に広く知られているものじゃないだろう。


 そして今思ったが俺の話って、国に悪魔が入り込んでる事を教えてるもんじゃないか?


 ーーまあ、しょうがない。

 オークションまであと数日。人が集まってくるこの時期に俺を狙って来た悪魔が悪い。

 それに、母親だ弟だと言った後に魔術で記憶を封印したり、王権で口止めするなんてしたくないし。



「昨夜も今晩も、チェリンを誘拐には悪魔が関わっていた。

 だが安心して欲しい。昨夜の悪魔は私が捕らえ、今晩の悪魔は追い返した」

「それは、本当なのですか?」

「本当だ。なんなら、この店にもある真偽を確かめる魔導具を使ってもいい」

「大丈夫よ」



 2日連続行方不明になったチェリンの事を一番心配したのは、家族であるクラウディア母とマグヌスだろう。


 この2日の出来事が悪魔の犯行で、それはもう心配はない事は伝えないといけない。

 脅威は存在したが、もうそれは来ないと伝えれば安心してくれるかな?



「今日、私は悪魔と契約を結びこの国に立ち入らせない事を約束した。チェリンが危ない目にあう事はもうありません」

「そう、ですか」

「悪魔の件は噂には聞いていましたが。まさか、本当に王都にいたとは」



 どうやら悪魔が王都にいる事は、城下で噂になってたみたいだ。

 どこから情報が漏れたんだろうか。



 よし、それじゃあ説明も終えたし帰ろうかな。

 俺はソファーに座る時に置いた刀を手に取り、腰に付ける。



「あ、でん……ジークエンス。城まで送りますよ」

「私はいいですよ、貴方達はチェリンを見守ってあげて下さい。ジークエンスが呼びにくかったら『ジーク』って呼んでください」

「……そうしますね。」



 立ち上がり、部屋を出て玄関に向かう。


 扉を開けさせ、外の通りには人通りはほとんどなく屋根の上に見える人影の数と大して変わらない。



「やはり、この兵士1人でも連れて行って下さい」

「大丈夫ですよ。私に危険は起こりえませんから」

「けど最近この王都では、盗賊による窃盗が多発していると言い聞きます。それに彼女はこの家にいるよりも貴方を守った方がいいです」



 玄関で俺を見送る義母と義弟。


 クラウディア母が連れていけと言うのは、玄関にいた剣をさげた兵士。性別は女。


 それと盗賊による窃盗が頻発してるって話だったけど、遠くの屋根で佇んでいるアレは盗賊なのかな?

 王権があるこの国で盗賊をしてるなんて、凄い根性してる。


 でもそんな盗賊集団より、俺が城に帰る事。王にスラムでまだ戦闘が続いている事の方が重大なので捕らえはしない。

 それに、俺のやる事じゃないし。



「私の護衛任務に就くよりも、この家を守っていた方がいい。それに私は悪魔を倒せる程の実力がありますし、盗賊如きには負けませんよ」



 この辺りが危険なら、彼女にはクラウディア母たち家族を守って貰いたい。


 俺は室内から見送る2人に手を振り、王城を目指して走り出した。今回は屋根ではなく、ちゃんと道を走る。

 最優先事項だったチェリンの保護と家に帰すのを完了させた。





 さっきまで悠長に説明してたけど、vsダエーワ戦後の爆発音のおかげで今の王都は安全じゃない。

 家から出てかれこれ十分、そんな事を考えながら走っていた。


 それにしても、ん? 俺ってば少し身軽になってる? 左に刀を挿し、外套を羽織ったスタイルだが……あっ、



「(ーー白羽の剣を忘れてしまった!)」



 白羽の剣は王族の印である剣だ。

 恐らくさっきの家の中だと思うけど、だからこそ家を破壊してしまうのであの剣は呼べない。


 信頼できる家にあるだろうから良かったようなものだ。また明日、メルティにでも取りに行かせないとな。



「ここから急に暗くなったな」



 下級貴族達の住宅地を越えると、上級貴族達の生活圏に入った。

 外観から分かる高級な飲食店。からの光が強く、近くにあるはずの賭博場や娼館が隠れている。


 でも俺はそこで散財をする事も無けりゃ、許嫁との結婚前に初めてを捨てる事もないただの帰宅途中。

 その通りを敢えて避けて、王城の入り口に向かっていく。



「急に盗賊が増えたな、俺……いや、前の馬車を狙っているのか?」



 俺の進む通りには、一つの馬車と上級貴族の生活圏に入ってとんといなくなった盗賊達が居た。

 盗賊達は、屋根の上や物陰からあの馬車を狙っているようだった。


 でま馬車も馬車でおかしい。

 真っ暗で御者の腰元と馬車の中は明かりがあるが、安全面から夜に走らせるなんて常識外だ。


 だが30人はいるだろう盗賊は襲撃を開始した。

 その瞬間馬車の車輪の後輪2つが動かなくなり、馬車が体勢を崩してその場で止まる。



「助けないといけないな」



 目の前で馬車の後輪が壊れ、二頭の馬がそれに驚き、御者が意識を失っている様子が見える。


 だが馬車を引いていた二頭の馬が鳴き、馬車が引きずられて壊れかける音。は聞こえない。



「大丈夫でございますか、殿下」

「……えぇ。じぃこそ大丈夫? それに……」



 音が聞こえないのと後輪が急に止まったのは何かの魔法だろうが、馬車の中から『じぃ』と『殿下』の声が聞こえた。


 だが俺より近くで聞こえたはずの盗賊達は、武器の短剣を握り馬車に走る。

 ーー殺す気か?




 刀を握り、全力で踏み切り、馬車の扉に短剣を突き刺そうとしている盗賊に向かって放つ。



「させねえよ盗賊が

 『極彩色抜刀術の一、準風に咲く 鍵桜』」



 左手で鞘を逆さにし、右で刀が落ちるように抜刀される。

 一瞬でこの間合いまで詰めたのはただの膂力と、進む速さの違いと、身のこなしの結果だ。



「ぐ……がァアーーー!!!」



 斬り落としたのは短剣を握っていた両手だ。

 手が斬られた事。急に現れた事。この襲撃に気付き介入した事に驚く盗賊達。


 人間が30人集まっただけなら俺が負ける事はない。馬車の中の彼らを守りながらだって戦える。

 戦う理由は、生き残りが恨みから復讐してくる事。



「逃げろ! アレは恐らく……勝てる相手ではない!!」



 撤退の指示を出す盗賊の男。

 その男から水魔術と氷結魔法の合わせ技で作った氷で捕らえようとしたが、両手の平を前にかざした男に氷が進まず届かない。

 なんだアレは。


 そう思いつつも、作戦変更して近場の盗賊に氷を伸ばすがほとんど撤退が完了しており、捕まらない。


 俺は更に作戦変更。

 最初から捕獲する事を諦め、大きな損傷を負って貰う事に。

 作り出した氷を握り、指示を出した男に投げた。氷の投擲で腹部を刺す作戦だ。

 が、それを空中で体を捻らせて避けた。



「チッ、全員逃げたか」



 もう周りには盗賊集団はいない。

 あの男は捕まえたかった。

 体を捻らせて避けるのは俺にも出来るだろうけど、30人もの盗賊に指示を出し、切り落とした両手も回収して撤退させるのは未経験故無理だろう。





 馬車の中にはまだ人が居るので、俺はその扉を開ける。



「大丈夫でしたか?」



 俺の手を取ったのは丁度同年代くらいの女性で、御者の持っていた光から輝く髪は金でも銀でもなくて、黒い髪に赤みが入っている。それが背中まで伸びた長髪。



「ええ、ありがとう」



 彼女は白い肌に赤い瞳。赤みが入った黒髪を背中まで伸ばし、赤を基調にしたドレスを着た女性だった。

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