2-25.「悪魔との契約」
落ちた氷の腕と、それに抱えられていた血液を入れる容器。
「誰だ!」
腕を落とした攻撃は前方と後方から来た。
俺は前方から攻撃を行った人物を確認する。そこには成人前の子供の背丈の人型。
黒色の肌にところどころ線が入った悪魔の姿の者が、左手を前に構えた姿勢をとっていた。
そして俺に気づかれたその黒い、悪魔は距離をとる。
呆気にとられてるな、俺。
「よかった。大丈夫な様だな」
チェリンを守っていた氷のシェルターに近づいて、妹の安全を確認する。
最優先は、妹であるチェリンを無事に家に帰すこと。
アレは恐らくダエーワの仲間だ。それに距離を詰められていたのは反省だ。
それと、チェリンにはまだこのシェルターの中に居てもらう。まだ戦闘になるかもしれない。
ダエーワの部下達には、俺の血を回収させてもうこの国に関わらない事を約束させよう。
◇
「これは酷い。シャムネル、撤退するぞ!」
「ま、待ってアルステル。3人だとジークエンスから逃げられない。だからダエーワ様を回復して!」
律儀に大声で名前を呼び合う、推定悪魔ダエーワの仲間のアルステルとシャムネル。
二人は、腕を広げて倒れている悪魔ダエーワの元に駆け寄り、会話を行動に移している。
シャムネルと呼ばれたのが、さっき俺の氷の腕を前から落とした悪魔だ。
その口調と声質から女性だろう。
アルステルは後方から俺の氷の腕を落とした奴だろう。仮面で顔を覆っていて男声だ。
そしてこいつの肌は黒くない。前世で例えるとアジア人の肌の色をしている。
悪魔ではないのか?
口調とか声質だけかもしれないが、悪魔に男女の性別があったとは知らなかった。
「ジークエンス! どちらか選びなさい。ここで私と戦うか、あなたの足元の容器に自らの血液を入れて差し出すか」
「戦う気はない。お前が私の契約に応じれば、血は送ってやろう」
このまま戦ってもあの2人には勝てるだろうが、戦う理由はない。
本来の彼らの目的は俺の血液のはずだ。
ダエーワは俺との戦闘を楽しんでたようだが、因縁があったダエーワと違って、新しい2人は初対面なので話で解決しそうなもんだ。
「なんだ、その契約は」
「致死量の血液が必要なのだろう? それはやろう。だが、今後一切この国に入って来るな」
結局、俺の血を半分仇でもある悪魔たちに渡す理由ってのは、俺とその周りが今後安全に過ごす為だ。
悪魔のせいでアシュレイ姉、セシリア母、俺、チェリンが巻き込まれて、スラム街の人間の何人かが犠牲になっている。
ダエーワの『主人が神になる』為に血が必要と言うなら、必要な血液なんて渡すから俺に関わらないで、さっさと神にでもなっていてくれ。
「それは出来ない。新たにこの国で、目的の魔法を使えるものが現れるかもしれない」
「なら、発見次第私に手紙を送れ。穏便に事を運んでやる」
奴らの目的の魔法を持つ者が国内にいたら。
つまり人通力を持つ子供がこの国に生まれたら、どうしても欲しいコイツらはこの約束の裏をかいてくるかもしれない。
約束は今考えた内容だ。塾考していない。
内容に隙があってその隙を突かれたとしたら、厄介なだけで約束をした意味がない。
なので、悪魔たちの要求にも応える。
「シャムネル、これなら良いんじゃないか?」
「お姉ちゃん……でも、ジークエンスは話を理解し過ぎてる。おかしいよ」
「いや、話はダエーワから聞いていた。なんなら今ここで血を入れてやるぞ?」
「……くッ」
血を入れる容器は、膝丈ほどの高さで腕4本が入りそうな太さがある。
2リットルペットボトル×1.5くらいの大きさかな?
流石になみなみ注いだら貧血で倒れるだろうけど、4分の1なら多分死なない。大丈夫。
水魔術と氷結魔法でナイフを作り、2人の敵の言葉を待つ。
そしてアルステルはお姉ちゃん。女だった。あの男声は仮面の効果なのかな?
「分かりました、では契約を行います」
「あぁ」
互いに近付き、シャムネルと手を握って魔力を介した契約を行なっていく。
自らの魔力にその契約内容を刻み付けて送り、互いに同じ内容で合意すると契約は完了する。
そして後ろに一歩踏み込み、互いに距離をとる。
「私達は悪魔。悪魔との契約は絶対に違える事は出来ません」
「有名な話だな」
悪魔は契約にうるさいって話は、前世ではよく耳にしたワードだ。
「あなたは七日毎、その容器の4分の1に十日以内の血を入れ、我が天魔領と王国領の間の荒野に置きに来る」
「代理は可。前日に私宛ての手紙が届き、細かい場所を指定する」
悪魔シャムネルと、契約を口に出して確認し合う。
単純に一ヶ月もそんな生活をしないといけないと思うと腹が立つが、一番ベストな対応だろう。
「油断。戦闘において私は脅威であるはず。それを無視する判断の基準、平和な国の王子なだけはある」
「いけませんダエーワ様!」
アルステルの体に支えられていダエーワが言葉を吐く。
椅子からずり落ちた様な体勢で、アルステルを羽織る格好は正に怪我人だ。
「ーーよく分からんな、何が言いたい?」
「ただ感じた事を言葉にしたのだ、意味は無い」
「この契約で、お前達はこの国に襲撃をかけれなくなった。それは了解したか?」
「当たり前、だ」
ダエーワは息遣いから分かったのだが、体力は回復している様だった。
シャムネルはダエーワに寄り添い、ダエーワの体が仲間の2人を飲み込むようにして3人は消えていった。
よし、これでこの国にアイツら悪魔が入って来る事は無くなったぞ!
悪魔達が国取り合戦をする気じゃなかったとはいえ、国防問題を一つ解決出来た気がする。
今日は俺が目的だったけど、悪魔に対する警戒が網だったからなぁ。この国って。
◇
そんな事を考えながら、氷のシェルターの中のチェリンの元に戻る。
目の前で命懸けの戦いを見て、興奮状態だったんだろう。
もうすっかり夜だってのに目が冴えている様子。早いところ家に帰してあげないとな。
シェルターの前まで来たが、氷の表面に髪が貼り付けてある。
『悪魔を疑え』
直後その紙が光り、紙の魔力を消費始めた。
ーーマズい、爆発する。
俺は火魔術で紙を焼こうと、左手に火を纏わせて突く。が、紙は飛ばされた。
なんの弾みも風も無かったので、アレも魔法なのだろう。
右上に飛んでいった紙に火を飛ばすが、紙はそれを避ける。
仕方ないので、氷結魔法の氷で紙を何重にもコーティングし更に遠くの空に飛ばし、俺もシェルターに入ってチェリンを庇う。
「ドゴォォオオン」と、右上20メートルの位置で光を白く変えてあの紙が爆発した。
俺もチェリンも無事。
氷のシェルターは無事だが表面が若干だが溶けていた。俺の魔法防御の中で最堅だと思ってたのにな。
あのクソ悪魔が。
『悪魔を疑え』と書かれた薄紙一枚の爆弾。最悪の置き土産だった。




