2-22.「神通力の宿命通」
奴隷の彼らと別れてまだ一分程。大迫力な爆発音は鳴り続いていた。
音に近づけば近づく程、戦闘で舞った地の砂で視界が悪くなるが、それは風魔術で対策出来る程度。
度々輝く光の光線が空に打ち上がって戦闘位置を教えてくれ、今も進行方向は見失っていない。
さらにスラムの住人だろう、男も女も関係なしに俺が来た方向に逃げ去っていく。
ーーそして、今までずっと正面で鳴り続けていた爆発音が止まった。
「これは酷いな」
強引に、未だ舞っている砂埃を風魔術で散らして視界を広げる。
地面には魔法師団員や騎士。ここの住人の死体や死にかけの体が転がっていた。
俺の後ろにはソレは見当たらない。
この国の魔法師団員や騎士達がここで死んでいるって事は、
彼らは王から俺又は敵を見張る命令を受けた→敵に察知され→戦闘になり敗北した。って感じか。
俺は龍脈に接続。
ここら一帯で『放っておいたら死にそうな人間』に情報検索をかけ、そこに一件ずつ赴いて彼らを魔法で緊急治療を施した。
初めての経験だったけど、中身も外見も中々に上手くできたと思う。
それと死体には悪いが、今は生きている人を最優先だ。
手を合わせて弔ってたら、また誰かが死んでしまうから。
◇
ーー先はずっと正面方向からだった爆発音が、今は俺の真後ろから聞こえた。
「お前がジークエンス・リートだな?」
その声が聞こえた後方から距離を取る。
一旦下がり、背中を確認すると久し振りの再会。
いや、俺の感覚からしたら一ヶ月も経っていない。つい先日出逢った俺の仇。
悪魔ダエーワ。
「力を持つ者の一人。我が主人が神になる為の一つ。神通力を得た者」
「貴様、悪魔ダエーワだな? 早くチェリンを引き渡せ。本気で戦おうなんて書いていたが、その前に返して貰う」
単語を並べた口調で話すが、悪魔の目的を知るのは後回し。眠っているがチェリンを一緒だ。
目的のチェリンはダエーワの左の脇に抱えられており、ダエーワの背後には騎士の死体がある。
全身真っ黒で、関節などに細かく線が入った異様な容姿の人型。
ダエーワの黒い体はダークマターと呼ばれたもので、魔法を吸収する効果があった。
今までの戦闘が全て彼だと断言できないが、ここまで無双できる力があったのか。と思わざる得ない。
3年前に自分と同等の力を持った悪魔が、ここまで強いとは思ってもいなかった。
「『神通力の宿命通』を使え。使用確認が取れ次第、娘はお前の物だ」
「……時間はあったからな、アシュレイ姉様から話は聞いた。」
暇だった俺に、色々話してくれたアシュレイ姉の中にあった一つの話。
『3年前悪魔が襲撃した理由は、神通力の他心通を持つアシュレイの血を求めたから』
方法は判らないが、『神通力』を集め主人を神にするつもりらしい。
血の採取と、魔法である神通力を集める行為の関係性はこの国では分からないし、魔法を集めるってのも意味不明。
「この3年間、姉様を襲撃しなかったのは良い心がけだ。
ーーチェリンから手を離し手前に置いて下がれ。今から魔法を使用する」
俺の言葉に、悪魔ダエーワは従っている。
『神通力の宿命通』は前世を含めた過去を見る力。
だがそれは自分の人生を客観視してるだけで、それなりの時間をかけないと人生の追体験は出来なかった。
一回、どこぞの世界で一生が三ヶ月だった女の赤ちゃんを体験してみたが、赤ん坊の記憶は流石に気持ち悪過ぎて産まれる前にリタイヤした。
一生が三ヶ月だけだったから生前の感覚が濃密だったのか、九十歳まで生きてもそうなのか検証してないから分からないけど、記憶に残ってない授乳を体験しようとした目論みはは達成できなかった。
なんて思い出しながら、体内で魔力を循環させ神通力の宿命通を使用する。
本来なら先天性であるはずの、シーズン2の魔法を使った。
◇
ここに似た異世界らしい異世界。
転生者として記憶を持ったまま生まれ、それに気付いた時には奴隷になっていた少年の人生。
その物語に手を掛ける。
「契約完了。殺すぞジークエンス」
俺は直ぐに魔法を解除。
瞼を開け、殺害宣言をしたダエーワを探す。
「チッ……!」
だが目の前にいるのは、こちらに飛んで来る人質のチェリン。
よく見れば、ピタッとその後ろに体を落として居合の構えのダエーワ。その手には自らのダークマターの剣。
チェリンをぶん投げて、俺の視界が狭まったところで纏めて一刀両断する。がダエーワの作戦。
そして奴には魔法が効かない。
ダエーワの攻撃から彼女を、妹のチェリンを護る一手を。
氷結魔法を発動させ足元を急速に冷やす。
眼前に迫っていたチェリンを優しくキャッチ。
そこに流れるように剣を振るわれる剣を、地面と俺の足裏の間に出現した氷で体を押し上げ、かわした。
背中と地面が並行になったが、そのまま体を翻す。
今度は水魔術で水を生成。それを氷結魔法を凍らせて、空中で浮遊中の俺達を即座に地面に、距離を取って移動した。
はじめの氷結魔法だけの理由は、ダエーワに悟られぬように水魔術との合わせ技は出来なかったからだ。
だが、空気を氷結させた事によるダメージは俺とチェリンだけ。悪魔ダエーワは魔法では倒せない。
「いくぞ、悪魔ダエーワ!」
抱えていたチェリンを地面に下ろし、右に挿していた白羽の剣をチェリンの前に刺す。
「え、……んなにここ」
「悪いチェリン。私のせいで2度もお前が連れ去られてしまった」
「おに……殿下?」
今目覚めたばかりのチェリン。
妹が少々狼狽えているが、ダエーワは戦闘態勢を取っているので今は構ってやれない。
水魔法+氷結魔法で氷のシェルターを作り、中に火魔術の火を氷で包んだ物を入れておく。あれは生暖かいので、凍傷にはならないだろう。
チェリンはそのシェルターに入れ、ダエーワ以外の脅威に対応させる。
俺は数歩前に出て、左の刀に手を掛ける。
これで、お互いが戦闘の姿勢に入った。




