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2-20.「瞬間的激動」

「メルティは疲れたか? 護衛として王都を巡るのは初めてだろう」

「はい。ですが、王城に戻るまでは安全と言えませんので」

「気を張り過ぎだ。ここはジークハイル王国の王都だ……ん?」



 一般論を口にして思ったが、俺の実体験では全く当て嵌っていないって。


 日も暮れ、今俺たちは最後に立ち寄ったオークション会場から王城に帰る途中。


 会場の暗い廊下には、等間隔に照明が配置されておりその明るい灯りを頼りにしながらローザ、アリス、俺、睡眠中のリズは会場の廊下を歩く。



「殿下、何か落とされましたよ」

「なんだ、……手紙? メルティ、その剣でよいから早く封を開けろ!」



 自分が何かを落とした感覚があった。

 ユラユラと床に落ちる、目にするのはこれで3度目のセレスティア家の封筒。

 昨夜の脅迫文やら身代金要求やらを送り付けてきた封筒と同じ。


 メルティが指示通りに腰の剣で封筒を切って中身を取り出したので、その手紙を奪って読む。



『再度、お前の義妹は預かった。

 無事に返してほしくば、武器を携えて王都西のスラムに一人で来い。

 ーー日付が変わるまでに辿り着けないなら、チェリン・エルモパールは殺す。

 ーー要求を破るなら殺す。

 再戦だ、本気で戦おう。』




「ふざけた野郎が……」

「殿下?」

「ローザ、エルモパール商会からチェリン・エルモパールが居るか確認させに行け! 私の名前も出して構わない」

「は、はい!」



 こんな手紙を昨日の今日で、しかも今日は出掛けがけに送りつけてくるなんて。

 それに、今日もチェリンが誘拐されるなんて。またなのかよ。



「ジークエンス殿下。手紙の内容はどの様な物で……?」

「私に用事ごとができただけだ。今は急いで城に戻る。私は王に説明した後に城を出る。今回は私一人だ。メルティは城で待っていろ」



 説明を求めたアリスと黙って様子を伺っていたメルティに説明する。


 この手紙が実はウソでしたなんて事は、昨日今日の経験だがあり得ない。

 そして手紙の中の『再戦』の文字。


 ジークエンス・リートが戦ってきた相手は多くいるが、そのほとんどがこの国の騎士達だ。

 それ以外は3年前の襲撃者と、昨夜の弱い悪魔だけ。



「この、悪魔がぁ……」



 リズを胸に抱えて走り、会場を出た俺達5人は馬車に乗り城に戻る。


 馬車内で俺の急変ぶりに、特にさして面識もないリズの専属メイドのアリスが恐がっていて、他の二人は手紙の内容を知りたい言って来たが、勿論読ませない。

 その代わりに肉声で説明する。



「エルモパール商会のチェリン・エルモパールが何者かに誘拐された。

 手紙には、西のスラムに一人で来いとあった。私はそこに向かう」

「危険です、殿下!」

「危険なのは私でなくチェリンだ。私はただ戦いに向かうだけだろう」



 内容に驚きの3人。

 その中で1人。メルティが俺を止めに入るが、聞く気はない。

 ったく、異常とはいえ昨日と同じ内容なのに新鮮なリアクション取るよな。


 そして走る馬車はそのまま、王城に到着した。





「それでは今から、私は王都西のスラム街に向かいます」

「許可する」



 王城に戻った俺は、眠ったままのリズをベットに寝かしそのまま王の部屋に尋ねた。


 部屋の前には勿論、兵士が守っていたけど時間がないので強行した。

 王には手紙を渡し、俺がどう行動するか説明した。

 手紙の通りに助けに行くつもりだ。



「今回もお前の王都の龍脈への接続は許可してある。スラム街では、街の中央ほどの補助はできないが役に立つだろう。

 だが、お前との再戦の為にここまでの罪を侵す騎士や兵士、探索者はいない。相手は恐らく悪魔だぞ」



 『敵は恐らく悪魔』という父の考えは、俺と同じ。


 更に父は、王の力が必要と判明した龍脈への接続と、スラムでの接続の注意点を説明する。

 補助が弱まっても、昨日まで本の知識だった力なので然程気にしてはいない。



「分かっているだろうが、この手紙はお前を誘き出す為の物。命の危険になれば逃げてでもここに戻って来い」

「チェリンを救い出して、戻って来ます」



 俺は父に頭を下げて部屋を出る。

 日付変更までは、後4.5時間程だ。





 王の部屋から退出した俺は、自室へ戻る。


 手紙の内容に乗ってやるんだ。武器は最高の物を持っていく。



「と言っても、白羽の剣と黒色の刀の二択なんだよな。どうしようか、二つとも持って行こうか?」



 片手長剣と刀では戦い型が違うので併用は難しい。


 と、そこで考えた案は

 白羽の剣はいざって時の予備で、メイン武器は刀に。

 白羽の剣は敵と相対した時に地面にでも挿しておけば良い。だ。



「では、行ってくる」



 部屋の入り口付近にいるローザたち。

 俺の行動が王に許可されたもんだからと納得しているようだけど、認めていないって感じも全員から感じる。

 まぁ、遅くならない内に帰ってくればいいよな。


 俺は右に白羽の剣を、左に刀を挿し外套を羽織る。


 部屋の、城の扉を開けて外に出た俺は西の方角。スラム街に向かって走り出した。



◇◇



 この手紙は明らかに、ジークエンス一人を狙ったもの。


 悪魔からすれば、ジークエンスにはそれだけの魅力があるのかもしれない。

 だが、それを当人一人に任せる気も父親である王には無い。



「まあ、いい。西のスラムか。……隣接する区域に魔法師団を配置しろ! ジークエンスの命の危険には対応しろ。それ以外には手を出さず、監視をしておけ」



 外で待機させておいたガタイの良い黒髪短髪の宰相ヴァン・レッサー・アルレイドと

 この国では珍しきメガネで魔法師団長の一人クレイグ・ハルキース。


 侯爵家の家督を弟に譲り、宰相として先代から国と王を支えてきたヴァン・レッサー侯爵家の長男であるアルレイド。


 王に最も信頼される一人である、クレイグ伯爵家のハンキース。

 蒼眼茶髪にメガネと魔法師団長のローブと特徴的だが、記憶に馴染む外見の男だ。


 二人は王に礼を向け、王子の一大事に魔法師団の詰め所に向かう。



「王城の警備の強化を伝えろ」

「分かりました」



 ジークエンス・リートは、今のジークハイル神仰国の王都では一人で悪魔を倒した数少ない存在。

 この手紙の目的が、『ジークエンスを城から離れされその隙を狙って城を攻めるもの』であるかもしれない。


 その可能性が否定できない程に、悪魔には国内に入り込まれている。

 王であるリート・モルガンは、その現状を憂いた。



◇◇

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